テストで赤点とったら、美人担任の家で合宿(期日未定)することになりました。

Jinmrai

第1話 プロローグ

「先生。僕は、先生のことが……好きです」

暖かな春風が、屋上の空を駆け抜けた。



×


都内にある、とあるマンションの一室。

僕は現在、この部屋で、ある女性と同棲……違った、合宿をしている。


一年経った現在では、彼女は僕にとって一時たりとも離れがたい大切な存在になっていた。


彼女の方はどうだろうか。

立場からか、あるいは恥ずかしがりな彼女の性格からかあまり想いを口にはしないけど、その反応を探ることは目下の楽しみでもある。


そんな忙しい彼女に代わって、今日も僕は夕飯を作りながら彼女の帰りを待つ。

今晩のメニューはパスタ。いつもはレトルトで味付けを済ませてしまうのだけれど、今日はベーコンとアスパラでちょっと一手間加えてみる。

なぜって、今日は嬉しいことがあったからだ。


そうして夕飯が出来上がった頃、タイミングよく玄関の扉が開く音が聞こえて来る。家主である彼女が帰ってきた。


「おかえり、由加里ゆかり先生」

「ああ。ただいま、優徒ゆうと。いい香りが玄関の方にまで届いていたぞ」

「それはもう、今夜は腕を奮いましたから」

「そうか。それは楽しみだ。すぐに着替えてこよう」



部屋着に着替えた由加里先生と向かい合ってテーブルに着く。


「いただきます」


揃った声に互いに微笑しながら、夕食にありついた。


先生は慣れたフォーク捌きでパスタを巻き、垂れた薄茶の髪を耳に掛けながら口に運ぶ。その所作が妙に艶かしくて、僕は思わず見惚れてしまっていた。


前屈みになった際、大きく開いた部屋着の胸元から下着と立派な谷間を覗かせる。普段、隙がないようで隙だらけの由加里先生だが、家にいるときの先生は目に見えて隙だらけだ。まあ、べつに他に誰かいるわけでもないから構わないんだけどね。


「ふむ。相変わらず、君の料理は美味しいな」

「ありがとうございます。でも、変わらず、かぁ。今日はちょっとがんばったんだけどなぁ」


と、大袈裟に肩を落としてみせる。すると先生は、慌てて弁解を口にした。


「あ、いや、もちろん今夜は一段と美味しいが、普段も私では決して真似できないほどの腕前という意味であってだなっ……その」


そう言っておろおろする姿はとても貴重で、可愛い。

普段学校で見せている威厳もなにもあったものじゃないけれど、これは僕だけのものだから、問題ない。


「冗談ですよ。先生がとーっても美味しそうに食べてくれてること、分かってますから」


少し意地悪く言ってみると、先生の顔はまだお酒を口にしていないにもかかわらず、真っ赤に染まっていく。


「まったく、意地の悪いやつだな。君は」


そう言って拗ねる表情もまた、可愛い。


ごめんなさいと謝ってから、僕は先生の動揺が冷めないうちに本題を切り出した。


「ところで先生? 例のご褒美の件、覚えてます?」


ぴたり、と由加里先生の手が止まる。


「な、なんのことだ?」


声が上ずっている。ウソのつけない人だなぁ。


「誤魔化しても無駄ですよ。今日貼り出された試験の結果表、先生が目を通していないはずないですよね」

「うっ……」


ひとつ呻ってから、やがて先生は観念したように溜息を吐いた。


「ああ、わかってる。二年のはじめにある実力テストで上位の成績をとったら、君の言うことになんでも一つだけ従う、だったな」

「はい!」


満面の笑みで僕は頷く。


「言っておくが、あまりに無理難題には応えてやれんぞ」

「大丈夫ですよ。大切な先生に非道いことなんてお願いしませんよ」

「そ、そうか。それならいいんだが」


またしても、顔が赤くなる先生。ああ、そうだった。そろそろお酒を出してあげないと。

と、立ち上がろうとしたときだった。


「けどまあ、その前に、だ」


先生が真剣な、そしてとても優しげな瞳を向けて囁いた。


「試験、よく頑張ったな。優徒」


そう言って微笑む顔は、とても可愛くて、美しくて、愛しかった。



「はい、ありがとうございます。先生のおかげです」

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