第35話 三者三様~安原美咲~
「教頭先生。少し、二人の話を聞いてあげてもらえないでしょうか」
あたしと可奈ちんが会議室に突撃すると、由加里ちゃんが他の先生たちにそう促してくれた。
あたしも可奈ちんも、友瀬がカンニングをしたなんて話、まったく信じられなかった。
試験までの短い期間だったけど、友瀬はあたしに勉強を教えてくれた。可奈ちんも一緒に。
二人とは、それまでちょっと挨拶する程度でしかなかったけど、あいつは快く引き受けてくれた。
可奈ちんはたしか裕子と知り合いみたいだったけど、裕子からそのことの話を聞いたことはない。
新しく交流が広がるのは、なんか楽しかったなー。
友瀬の奴、ホント教えんの上手かったんだよね。マジで助かったよ。
そんなあいつがカンニングとか、ありえないでしょ。
「あいつは、誰よりも早く学校に来て、誰よりも遅くまで学校に残って勉強してたの。あたしと可奈ちんにも勉強教えてくれたし。だから、あいつはなにもしてないよ」
「わ、私もそう、思います。友瀬くん、数学は特に得意な教科でしたから」
あたし達の訴えに、教師達が呻る。
「教頭先生。彼と一緒に頑張ってきた生徒達もこう言っています。もう一度、考え直してもらえないでしょうか」
由加里ちゃんが教頭に進言すると、定年間近のハゲは頭皮を掻きながら溜め息を吐いた。
「ですがねぇ。仲が良いなら、そりゃあ友人を庇いたい気持ちはあるでしょう。それだけで、はいそうですかと鵜呑みにしてしまったら、他の生徒に示しがつきませんしねぇ」
「それって、友瀬を見せしめにするってことですかー」
「おい! 教頭先生にその物言いはなんだッ」
根本がなんか突っかかってきたけど、あたしは無視して
「友人の訴えで不正行為をなかったことにするという前例をつくれば、次回から生徒の意識が軽くなってしまう恐れがあるということだよ」
「だーかーらー、友瀬は不正行為なんてやってないって言ってんじゃん」
「では、それを証明できるのかね」
「はぁ?」
証明ってなんだし。
あたしが言葉に詰まっていると、隣から可奈ちんが小さい声で口を開いた。
「友瀬くんの机にあったプリントを、誰が入れたのかを探せばいいんです、よね」
「そう! それだよ! そいつ見つけてくればいいんでしょ」
「それを待っているだけの時間はない。さあ、もう出て行きなさい」
こっちの話になど、まるで耳を貸そうとしない教頭に、あたしは舌打ちして、
「このハゲっ!」
そう吐き捨てて、可奈ちんと会議室から出ていった。根本の怒鳴り声が聞こえた気がしたけど、どうだっていいや。
「あームカつくッ! あのハゲ、絶対あたし達の話、信じてないよね」
地団駄踏むあたしの隣で、可奈ちんは肩を落としている。
「これからどうしようか。犯人探すって言ってもどうやって探すかなぁー」
「今は、友瀬くんの様子が気になる。きっと、落ち込んでると思うから」
「そうよねー。あ、じゃあさ、明日一緒にあいつん家行ってみようよ! 様子見にさ」
翌日の放課後。
可奈ちんと一緒に、友瀬に会いに行った。
なんか、疲れたような顔をしていた。けど、それもそうだよね。あたしも部活がんばってきたのに、急に試合出れなくなったとかなったら、めっちゃショック。友瀬が落ち込む気持ちも分かるよ。
あたし達が力になれなかったことを謝ると、友瀬はそんなことないって言っていた。
それから、お礼を言われた。何もできなかったのに。
「友瀬くん、やっぱり元気なかったね」
友瀬と別れてから、帰り道に可奈ちんが呟いた。
「うん。無理ないよねー」
直接あいつに会って、やっぱりあらためて思った。
「ねえ、可奈ちん。あたし、このまま諦めるつもりないよ」
あいつがこのまま謹慎になるなんて、あたしは受け入れられない。
可奈ちんも同じ気持ちだったのか、強く頷いた。
「うん。私も諦めたくない」
「けど、実際どうしよっかー? てか、クラスの皆の中にあんなことするヤツがいるなんて考えたくなかったけどねー」
みんなとはいい友達になりたかったのになぁ。友瀬のことを聞いたときはムカついたけど、冷静になると、ちょっと悲しかったりする。
だからといって、見逃したりはしないけど。
「私、ちょっと思うところがあるの。たぶん、立花先生だったら相談に乗ってくれると思う。そこで話してみる」
「え? マジで」
さすが可奈ちん。頼もしー。
次の日。
あたし達は朝早く登校して、由加里ちゃんを訪ねた。
由加里ちゃんはすぐに事情を察し、指導室で話を聞いてくれた。
「ってことで、あたし達は誰がやったのかを探すことにました」
由加里ちゃんが、何かを考え込むように腕を組む。
「由加里ちゃんだって、友瀬がやってないって信じてんでしょー」
「ああ、もちろんだ」
「だったら―――」
「だが、誰がやったのかを探すとして、そいつが素直に名乗り出ると思うか? それにどうやって探すんだ? 友瀬の机に入っていたのは、誰でも作れるコピー用紙だ」
「あ、そうだ! それに関して、可奈ちんに考えがあるんだよね?」
可奈ちんが隣で小さく頷く。
「ほう。話してみろ、眞白」
由加里ちゃんに促され、可奈ちんは小さな声で話し始めた。
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