第34話 三者三様~由加里②~
二人の進言もあり、最終的に友瀬の処遇は一週間の自宅謹慎となった。
カンニングをした生徒に対する厳罰としては、破格の温情とも言えるが、私からしたら到底納得できるものじゃない。
あいつは何もしていないのだから。
家に帰る。
玄関がやけに暗く感じた。ああ、そうだ、鍵を掛けなければ。いつもは優徒が掛けてくれていたからな。
リビングの明かりを点け、まとめていた髪を解く。
とりあえず、飯にするか。冷凍食品はあったか。いや、あれは優徒が弁当に使うんだった。カップ麺にするか。
お湯を沸かす。
優徒の作るご飯は美味しかったな。あいつは謙遜していたが、私にはとても真似できない。あいつがいなければ、私はすぐにこんなものに逆戻りだ。
ダイニングテーブルに一人座る。「いただきます」と言えば、返事をするあいつの声が聞こえてきそうだった。あいつがいないことの方が、どこか違和感があるな。
「電気消していいか――……って、ああ、そうだった」
また、やってしまった。
電気を消して、ベッドに入る。
あいつといた時間よりも、一人の方がずっと長かったのに……なんだろうな。なんというか……ああ、ぽっかりと胸に、穴が空いたような感覚がする、な。
「先生~! 友瀬くんはどうなったんですかぁ~」
翌日のホームルーム。
柴山と共に優徒を虐めていた生徒の一人が声を上げた。根本先生の話では、彼が優徒のことを報告したのだと言っていた。
「これから説明する。静かにしていろ」
私は説明しながら、生徒達の様子に目を遣る。
その中で、終始笑みを浮かべていた柴山恭平の表情が、気にかかった。
その日の終わり、私は優徒の家に向かった。
電話に出なかったことと、あいつが一人暮らしであるということが気掛かりだった。
根気よくインターホンを鳴らしていると、ゆるりと玄関の扉が開けられた。
制服姿の友瀬が顔を出した。
「ああ、よかった。ちゃんといたか。部屋の明かりがついていなかったから、心配したぞ」
表情に覇気はなく、肩は力なく垂れ下がっていた。
「友瀬、少し話がしたい。悪いが、上がらせてもらってもいいか」
「少し、やつれたか」
随分と、苦しんだのだろう。
当然だ。これまでの努力が、謂われのない不正で全て無駄になってしまったのだから。
こいつは今日まで本当に頑張ってきた。大きな目標を持って。
私の厳しい指導にも耐えてきた。その上で、それ以上に自主的に取り組んできた。
その努力は、正当な結果を得るはずだった。
それを理不尽な悪意に踏みにじられてしまった。
こいつの絶望は計り知れない。
だからここまで追い詰められてしまったのだ。
こんなにやつれてしまうほどに。
自分の努力を否定してしまうほどに。
だから私は、こいつに言った。
「よくがんばったな、友瀬」
こいつの努力が、無駄になっていいはずがあるか。
誰もこいつの努力を評価してやれないというなら、一番間近で見てきた私だけは、褒めてやりたかった。
虐めに苦しみながら、それでも前を向いて、目標に向かって頑張り続けたこいつの努力を。
「さあ、帰ろう。合宿はまだ、終わっていないのだからな」
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