第36話 三者三様~眞白可奈~
期末試験の最終日。
数学の時間に、事件は起こった。
友瀬優徒が、カンニングをした―――
私は、そんなこと絶対にありえないと思った。
同じことを思ったのか、離れた席から安原さんが声を上げるが、根本先生には聞き入れてもらえなかった。
「さっきの友瀬のあれ、なんなん? 普通にありえないでしょ」
試験終了後、安原さんは私の席に来て、不満げにそう言った。
勉強会のときもそうだったけど、本当は人目のつく教室内で、彼女と話すのには抵抗があった。特に、北見さんの目が光る中では。
けど、この緊急事態にそんなことを気にしている場合ではない。
「たぶんこの後、友瀬くんの件で会議があると思うの。私、先生達に友瀬くんのこと、話しに行ってみる」
「あ、ならあたしも一緒に行く。あたしだって、あいつに世話になったからね」
会議室に入ると、そこにいた先生達から威圧的な視線を向けられて、私は思わず安原さんの後ろに隠れてしまった。
対して、彼女はなんら臆することなく言いたいことを言ってくれている。やっぱりすごいなぁと思った。
先生達の顔色を見るに、根本先生はなんとしても友瀬くんが不正行為を行ったことにしたくて、それに立花先生が異議を唱えているが、この中で一番立場が上の教頭先生はあまり聞く耳を持っていないようだった。
なので……
「友瀬くんの机にあったプリントを、誰が入れたのかを探せばいいんです、よね」
そう提案してみたが、結局退室を促されてしまった。
その際、安原さんが教頭先生に暴言を吐いたことに心底驚いて、ヒヤヒヤした。
それから安原さんと話をして、明日、友瀬くんの家に行くことになった。
「と、友瀬くん。ごめんね、急に家まで来ちゃって……」
安原さんと二人で友瀬くんの家に行ってみると、彼はひどく落ち込んでいる様子だった。
あんなに頑張っていたから、きっとすごくショックだったんだと思う。
これまで柴山くん達のどんな虐めの後よりも、落ち込んでいた。それだけ本気だったんだね。
私達は少し話して、すぐに帰った。
最後に友瀬くんは、私達にお礼を言ってくれた。
この件について、安原さんはまだ諦めていないようだった。それは私も同じ気持ちだ。
だから、私はある覚悟を決めて、彼女に言った。
「私、ちょっと思うところがあるの。たぶん、立花先生だったら相談に乗ってくれると思う。そこで話してみる」
実のところ、私は誰が友瀬くんを陥れたのかは見当がついている。というより、こんなことをするのは彼らしかありえない。
この場ですぐに口にしなかったのは、安原さんがクラスメイトを疑うことを嫌ったから。彼女は私なんかにも普通に話し掛けてくれる、優しい人だから。
翌朝。
私達は朝早く待ち合わせて、立花先生の元を訪れた。
先生はすぐに指導室で話を聞いてくれた。
「可奈ちんに考えがあるんだよね?」
「ほう。話してみろ、眞白」
私はひとつ間を置いてから、口を開いた。
「私、友瀬くんを陥れた人が誰か、知ってるんです」
私がそう言うと、安原さんはとても驚き、立花先生は僅かに目を細めた。
「けど、その人がやったっていう証拠はなくて。それに、その人はたぶん、自分がやったことを絶対に認めないと思うんです」
「そうなの?」
「だが、その上で、なにか考えがあるのだろう? 眞白」
「はい……」
本当はこの話を安原さんの前でするか、とても悩んだ。
けど、友瀬くんのことは放っておけなかった。
それに、立花先生が詳細を口にしてしまわないかも気になったけど、今し方誰がやったかの話しから、どうやって解決するかの話にうまく逸らしてくれたことから、あのときの約束はちゃんと守ってくれていることも確認できて、安心した。
私は続きを話す。
「その人を悪者にせずに、自白してもらうんです」
安原さんの頭の上に疑問符が浮かぶ。立花先生も、少し首を傾げていた。
「けど、そのためには安原さんの力が必要なんです」
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