第3話 学校生活
一年前の五月の終わり―――
全国ほぼ共通のイベントが終わり、解放感に包まれた生徒達の間に流れる空気はどこか浮ついていた。
入学式から二ヶ月近くも経てば、クラス内の友人グループというものはすでにちらほらとできあがっているわけで。
僕はというと、生粋のコミュ障が祟って出鼻で躓いてしまったことで、友人と呼べる相手はおらず、今朝も一人寂しく登校していた。
そんな中で、親しい友人の代わり?に、関わり合いたくもない人種に無理矢理付き合わされていた。
平たく言えば、イジメである。
「やあ。おはよう、
呼ばれ振り返ると、そこにはクラスメイトの男子が3人、立っていた。
その中心にいる実に爽やかな笑顔のイケメンの名は
「朝早くからごめんね。この前借りたばかりで申し訳ないんだけど、またいくらかお金貸してくれないかな?」
実に爽やかに、実にナチュラルに、柴山くんはそう言ってきた。
こんなイケメンスマイルにお願いされれば、女子は言わずもがな、男子だってついつい献上したくなってしまうほどの破壊力だ。
しかし、本来スマイルとは無料提供、あるいはプライスレスであって然るべきはずだ。つまり、対価を求めるということは、何かしらの裏があるわけで。
それは大抵の場合悪意を孕んでいるものなのだ。
なにより、僕はこれがはじめてではない。
「けど、この前貸した分もまだ……」
僕が渋るように言うと、柴山くんと他2人が威圧するように僕に詰め寄ってくる。
「そうだね。もちろん、君に借りた分はいずれちゃんと返すつもりだよ。けど、あいにくと今は手持ちがなくてね」
「そう、なんだ」
「まあ、どうせ君はゲームかラノベくらいにしかお小遣いを使わないだろうから、すぐには入り用ではないだろう?」
後ろの2人が小馬鹿にしたように笑い声をあげる。まぁ、実際その通りではあるんだけど。
「それにさ、友達のいない君にはわからないと思うんだけど、人付き合いにはなにかとお金がかかるんだよ。デートとか、合コンとかね。だからさ――」
さらに詰め寄る3人。僕に逃げ場がなくなる。
「早く、出してくれない?」
壁際に追い詰められた僕の顔の真横を、柴山くんが強く叩きつける。これが壁ドンというやつか。
逆らっても無駄なことは知っているので、僕は渋々財布から千円札を取り出して手渡す。
しかし、3人はその場から去ろうとしない。
「もっと持ってるよね? 昼食、いつも学食だったと思うけど、今日は月曜日だ。少なくとも今週分の蓄えくらいは持ってるんじゃない?」
そう言って目敏く僕の財布を睨みつけてくる。
中学時代のヤンキーとは違って、こういう鋭いところは本当に厄介だ。
僕は結局、合計5000円を彼らに貸した。
「ありがとう。いつも助かるよ」
それじゃあ、と言って3人は興味が失せたように去っていく。
せめて嘘でもいいから今度返すと言ってほしかった。
大きく溜め息を吐く。
本当に、情けないな。
そう思いながらも、僕には現状を変える力なんてないことは分かっていた。
僕は中学時代でも似たような境遇で三年間を過ごしてきた。
高校に入学して初めの頃は、僕も高校生活こそは平和に過ごしたいと思っていたけど、彼らにはそういう人種を嗅ぎ分ける能力でもあるのか、僕はすぐにターゲットにされた。
ただ、ここは腐ってもそれなりの偏差値の進学校。
イジメの様相も異なり、目に見えての暴力行為なんてものを行使する輩はいないが、代わりに陰湿なイジメでストレス発散する者がいて、成績がいい奴ほどそれが顕著だった。
柴山然り、表の顔はクラスの中心に立つような者が、裏では僕のようなボッチ相手にうまくガス抜きをしている。
けど、僕が彼らの本当の姿をクラスメイト達に訴えても、きっと戯言としてしか聞いてもらえないだろう。
なので、僕が虐めを受けていることを知っている人はおそらくいないだろう。
誰かに助けてもらえるなんて、はじめから思っていない。
彼らの巧みな立ち回りのおかげで、僕はすでに教科書3冊と学校指定のジャージをダメにされ、ペンケースは3回買い換えている。
まあ、だからと言い訳するわけではないが、そんなこともあって友人関係の失態を勉学の面で取り返そうなんて気概もなく、むしろそんな気力もなくなり、元々平凡な頭脳しか持ち合わせてない僕が勉学を怠れば当然悲惨な結果が待っているわけで。
と、前置きが長くなってしまったが、話を冒頭に戻すと、今の僕には学生共通の一大イベントの後始末が残っていた。
そう、中間試験である。
本日はその試験結果が発表される日なのだった。
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