第26話 期末試験

「いよいよ、今日から期末試験だ。皆、今日まで十分に準備してきたと思う」


教壇に立つ由加里先生が、生徒達を見回しながら告げる。

途中、僕と目が合うと、先生は一瞬不敵に微笑んできたので、僕も同じように微笑み返した。気合い十分。


「各々悔いの無いように臨め。それでは、試験を始める」


一日目は社会科、現国、英語だ。


試験中、各試験科目の担当教師が、各クラスの教室を諸連絡等で回るので、基本的にはその科目以外の教員が監督することになっている。一限目の監督は由加里先生だ。

ちなみに、先生の担当する数学の試験は、三日目の最終日である。



由加里先生との合宿の目標は、はじめ、ボロボロだった前回の中間試験の復習から取り組み、現在の授業に追いつくことにあった。

中間試験までの知識が不足しているままで、期末試験の対策ができないからだ。


なので、合宿のほとんどが復習の時間に充てられたこともあって、今回の期末対策は、少し遅れて取りかかることになった。


それでも僕が少しも焦らず、落ち着いて、自信を持って臨めるのは、実感があるからだろう。

由加里先生との合宿や、安原さんと眞白さんとの勉強会を通して、確かな実感が。



だから初日の教科も、全て完璧、とまではとても言えないけど、しっかりおさえていたところは問題なく解くことができた。

そして、二日目も同様に。


残すところあと一日。

由加里先生の数学がある、最終日だ。


元々数学は授業だけでも十分できていたから、その分試験対策のスタートも早かった。合宿でも、先生が詳しく教えられる教科として、時間の許す限りみっちりしごかれた。

けど、そのこともあって、どの教科よりも一番自信がある。


「よーっす! お疲れー、友瀬」


帰り際、安原さんに声を掛けられた。


「うん。安原さんも、お疲れ様」

「どうよ? 調子は」

「んー、勉強したところはなんとかできた、って感じかな。安原さんは?」

「あたしも! いやー、ほんと友瀬のおかげよー」


鞄を肩に掛けながら、にっと笑う安原さん。どうやら、自信あるようだ。


「あとは最終日の試験だけだね! お互いがんばろう」

「お? なに? 友瀬、自信ありげじゃん~」

「そうなんだよ! 僕、数学は一番自信あるんだ」

「たしかに数学が一番教えるの上手かったよね、友瀬」

「そう、かな?」

「うん、そう。あー、あとは、なんか楽しそうだったよね」

「楽しそう?」


そう、なのかな? 自分じゃわからないな。


「数学っていえばさぁ、そういや友瀬になんか訊きたいことがあったような……」

「ん?」

「ま、いいや。いまは試験に集中、だよね」


と、僕に拳を突き出しながら、一人納得する安原さん。


「それじゃあ、明日もがんばろうねー! じゃね」


身を翻し、ポニーテールが揺れる。僕は小さく手を振って、彼女を見送った。


さあ、いよいよ明日で最後だ。


試験結果の順位は、総合点の順位となる。

数学で高得点をとることができれば、上位に入る大きなチャンスになる。

そして、その自信もあった。


けど……


それがまさか、あんな結末になるなんて。

このときは、夢にも思っていなかった。

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