特待生、学校の七不思議『練習用ダンジョンの魔人』を知る
キャンプ設営のあと、夕食のダンジョンカレーを食べて四人は満腹になっていた。
このダンジョンカレーとは、市販のカレールーを持ち込んで、残りはダンジョンで手に入れたドロップ食材をぶち込むという豪快な料理である。
今回は四層“鬼オニオン”のタマネギ、六層“暴れバッファロー”の牛肉、七層“ドコデモダケ”のキノコ、九層“ゴッドデストロイドラゴン・モドキ”のモドキを入れた。
「いや~、ダンジョンカレー美味かったぜ~。特にあのモドキが歯ごたえがあってさ~」
「ええ、私も初めて食べたけど、あんな見た目のモドキが珍味のような味に。……癖になりそうね」
「俺のオヤジもよく、モドキで料理を作ってくれたものだ」
優友、火之神院、明志でダンジョンカレーの感想を言い合っている。
しかし、大和だけは料理しているところを見ていなかったので、浮かんだ疑問を言い出せなかった。
(モドキってなんだろう……)
道中でドロップした場面も、明志が手早く袋に詰めてしまったので目撃していない。
モドキとは一体なにか、どうしても気になってしまう。
クソザコメンタル特有の言い出しにくさを乗り越え、口を開くのだが――
「もっ、モドキって――」
「あ、そういえばさ。練習用ダンジョンの、とある噂って知ってる?」
むすびによって遮られてしまった。
(おのれ、我がライバル火之神院むすび! 丁度良いところで割り込みおって! こんなにスムーズに新たな話題を切り出せるとか、話術スキルカンストかコイツ!)
……という表情の大和を放置して、話題は練習用ダンジョンの噂へ移っていく。
「練習用ダンジョンの噂……か? 東京冒険者学校に入学してから、その類の話は聞いたことがないな」
「ふふん、初等部からいる私は色々と知っているわよ!」
「チッ、話術スキルカンストめ」
「部長、なにか言いましたか?」
「な~んでもないぞ~」
三人は、拗ねる部長に疑問符を浮かべるが、もういつものことのように思えてきていた。
「で、噂っていうのは、練習用ダンジョンには隠された階層があるっていうの」
「隠された階層……?」
「本来なら十層でクリアだけど、優秀なパーティーには変な声が聞こえるのよ。『お前か……? お前なのか……?』って地下――ないはずの十一層から!」
「おいおい、むすびちゃん……ホラーかよ!? お、脅かそうとして今テキトーに作った話じゃ――」
寒気を感じた優友がブルブルと身を震わせる。
その話題にハッとした大和が、口を開いた。
「……あたしもダンジョン部の先輩から聞いたことがあるな。クリア時、地獄からの声……そんなのが響いてくるとか」
「ひえぇっ!? 本当にあるのかよ!?」
「カッカッカ! あるといっても、東京冒険者学校の七不思議の内の一つだ。実際に害が出るわけでもあるまい」
「そ、そうだよな……ハハハ……」
「ちなみに、ダンジョンが誕生した日――迷宮記念日から三十年目の今日。魔人が蘇るともいわれているな」
魔人とは、現在発見されているモンスターより上位の存在――とされている架空の存在である。
ダンジョン研究などで論じられる仮想存在で、数学者に提唱されたラプラスの悪魔と似たようなものだ。
実在するはずのない概念。
それを真剣に考えている者が一人いた――明志である。
「……魔人か。それは想定外だった。接敵したら、全力で逃げた方がいいな。現時点で勝てる確率は1%程度だろうからな」
「って、いるはずないでしょ、魔人なんて……。他にも七不思議で、見えないクラスメイトとか、角の生えた学園長とか……。おだてられると宙に浮く教師、人体実験を行う保健室の先生、調理実習で床ごと斬り割く教師……」
怪談を語るテンションのむすびに対して、呆れた顔で大和がツッコミを入れた。
「それ、後半はランカーの教師たちじゃ?」
「……たぶんそうでしょうね。普通に不思議でもなく、目撃されますから」
東京冒険者学校にはランカーも多数存在している。
ランカーともなれば、ちょっと気を抜くだけで七不思議レベルの事象を起こしてしまうのだ。
その話に、明志もランカーの一人を思い出していた。
「そういえば、クラウディウス先生も人前でスキルを使っていたな……。困っていた女の子にぬいぐるみを取ってあげるために。あんな気軽にスキルを使っていて、本当にランカーなのだろうか?」
「ランカーって、どこかおかしい人が多いから。……でも、その実力は凄まじいわよ。私の兄もランカーだけど、客観的に見て冒険者の頂点に位置するスキルの持ち主だわ」
「なるほど……」
むすびの兄の話題が出た瞬間、そのファンの大和がガバッと起き上がった。
「火之神院むすびのお兄様――ランカー四位の“裂空王子”こと、
「……み、身内がそこまで褒められると恥ずかしいわ」
「チッ、切様の近くに、妹といえど女がいるとか耐えられない。よし、あたしと妹を代われ、すぐ、今すぐに」
「割と代われるなら、代わりたいです。あのお兄様と一緒だと色々と大変ですから……」
「贅沢者めぇー! あと、ランカーになると物凄い大金も転がり込んでくるという話だ」
大金――その言葉に明志は耳をピクッと動かした。
「……ランカーを目指すというのもいいかもしれないな。一位になって大金をもらえば……妹に毎日いいものを食べさせてやることができる」
「いや~……。一位は無理だろう。アレは別物だ」
「別物……とは?」
「ランカー一位、通称“未定存在”――登録名はノーバディ。誰も見たことがないと噂だ」
「徹底的に秘密主義ということですか?」
「いや、おかしなことに、コイツが不動の一位なんだ。ランキングができて以来ずっと……な。それだけの功績を挙げれば、目立ちたくても目立ってしまうはずだろう」
「たしかに……」
「まぁ、一位は意図的に空席扱いのようなものかもしれない。あ、ちなみに“重力皇帝”こと、クラウディウス先生はランカー三位だ。現状、遠距離アタッカーとしては最強のスキルである【重力Lv10】を操る。……普段はアレだけど」
「……普段はアレですね」
緩い性格で、軽くチャラく、そして女好きで遊び好き。
学生たちが普段見る彼は、そんなダメ大人にしか思えなかった。
しかし、外部の人間から見れば魅力的に映るらしく、女性ファンやスポンサーが数多くいた。
「クラウディウス先生、困ったことがあったら頼れって言ってたな……」
「親友、おれっちたちは順調に進んでるんだぜ? 大人になんか頼らなくても、このまま学校史上最速でダンジョンをクリアして、廃部阻止を達成だぜ!」
「いや、しかし……」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ! 岩船に乗ったつもりでいろって!」
「泥船より沈みそうだな、それ……。まぁ、たしかにここまで順調に来ている。明日の十層ボスも問題がなければ倒せる戦力だし、考えすぎもよくないか」
少しだけ胸騒ぎの“勘”が働いた明志だったが、これだけ頼れるパーティーなら問題はないだろうと思い、明日に備えるのであった。
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