特待生、部長に正体がバレてしまうも――

 ノーカラーの明志が、あの金属系最強と噂の鉄柄を一発で倒した。

 それをたりにして、助け出された大和はポカンと口を開けていた。


「な、なんだこれ……夢?」


「いや、夢じゃないよ~。大和ちゃん。これがおれっちたちの真の実力ってやつさ!」


 いつものように軽い口調の優友に対して、むすびが呆れた顔でツッコミを入れる。


「私たちというか、ほとんどが彼――田中明志のおかげだけどね」


「あはは、たしかにその通り! でも、おれっちの親友のおかげなら、おれっちの成果でもある! 親友として鼻が高いぜ!」


「もう、調子がいいわね……! で、でも……それなら彼女の私の成果でもある……みたいな?」


 そんな優友とむすびの緊張感を解きほぐすやり取りに、当の本人である明志はやれやれと頭を掻いた。


「まったく、お前らは……。俺は部長に正体を知られてしまったんだぞ。どうやって口止めするのか頭が痛い……」


「ふ、副部長はノーカラーではなかったというのか……?」


 状況を把握できない大和は目をぱちくりさせていた。


「いや、それは本当だ。ノーカラーでスキルが使えるだけだ。ただ、モンスターには効かないから、ダンジョン攻略では足手まといになると思うが」


「――と親友は言ってるけど、実はもっとすごいことが! おっと、これはダンジョンで直接見た方が早いと思うので秘密にしちゃうぜ~!」


 そう言う口の軽い優友に対して、むすびが無言で睨みを利かせて黙らせていたが、明志は特に気にしていなかった。


「その……部長。勝手に見せてしまってなんだが、俺のスキルは口外しないでくれると助かる」


「わ、わかった……。それにしても、直接あたしは見てないが、もしかして優友も冗談ではなく本当に……強力なスキルなのか?」


「うん、おれっちのスキルも結構やるもんだぜ。壁に穴くらい空けられる」


「そ、そうか……。あたしはすごい部員を集めてしまったな……」


 一気に部長としての実感が湧いてきた大和は、感動に打ち震えていた。

 それを見ていたむすびは、指で大和をつつく。


「私のスキルは聞かないの?」


「聞かん」


「ど、どうして?」


「知るか、ふんっ!」


 大和も内心感謝しているのだが、どうしてもむすびをライバル的な相手として見てしまって、素直になれないのだ。

 最初から差がありすぎて本当はライバルとも呼べないのだが、それでも意地やプライドがある。

 一欠片、いや、数ミリグラム残ったそれだけは譲れない。

 そんな意地っ張りな大和を見て、むすびはフッと笑った。


「でも、部長。さっきのはちょっと格好良かった」


「……嫌味か? ただ浚われて、無様に助けを求めただけじゃないか」


「ううん。自分より私たちのことを考えていたし、それでも最後は信じてくれて、ちゃんと助けを求めてくれた。……悔しいけど、私なんかにはないものよ。それに――」


 強がるも涙目になりつつあった小さな大和を、むすびは大きく抱き締めた。


「そういうのが、部長としての資質だと思うわ」


 続いて優友も、大和の背中をパシッと叩いた。


「そうだぜ! 鉄柄みたいな奴と違って、そういう大和ちゃんみたいなのが上にいるのなら、部員のおれっちたちも信じて付いていけそうだぜ」


 そして最後に明志が、大和の頭にポンと手を乗せて一言。


「……ちゃんと言えて偉かった」


 実の妹にするように、少し恥ずかしながらだが、素直な感想だった。


「う、うぅ……お前らぁ……」


「あれ? 部長、もしかして泣いてる?」


「う、うるさいぞ! 火之神院むすび! 部長が、部長が泣くわけ~~~~!!」


 そのあと、大和が大泣きして大変だったが――ダンジョン部の絆は深まったのであった。

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