特待生、ダンジョンにキャンプを設営する
二十時間、みっちりとパーティーの連携を確かめた。
膨大なスライムを倒したが、その数を覚えている者はいない。
死にそうな顔でフラフラと歩く、むすびと優友。
それに比べて、明志はいつもと変わらない表情で汗を拭く。
「さてと。それじゃあ、今日のキャンプ地に進むとするか」
「わ、わかったわ……」
「こひゅ~、こひゅ~……。死ぬ……」
明志は倒れそうな優友に肩を貸してやり、スライムゾーンを抜けて二層目へ足を進めるのであった。
その後ろを、見学していただけの大和が付いていくのだが、こちらも足元がおぼつかない。
「な、なんか……なにもしていないのに感覚がおかしい。まるで自分が二人いるような……」
「部長は明日までに、それに慣れてください。寝たらスッキリするはずですから」
「よ、よくわからないが、わかった……カーッカッカッカ……」
いつものキャラ付け笑いも、なにやら元気がない感じだった。
――そんな四人は、二層目の入り口エリアまで辿り着いた。
石造りの定番のダンジョンという感じで、余裕でテントを二つ設営できる。
オマケに、小さな用水路のようなものもあって、水の心配もいらない。
モンスターが入って来られない結界も張ってあり、至れり尽くせりだ。
まるでダンジョンの意思が、人間を誘い込んでいるような不気味さすらある。
「みんな、疲れてしまったのか」
ケロッとしている明志が、倒れている三人に呟いた。
三人はそれぞれ反論をする。
「田中明志、アンタがバケモノみたいな体力なだけよ……。これくらい疲れるのが普通だわ……」
「ま、まぁ、あたしは慣れないスキルで仕方がないな……!」
「でも、最初がこれだけきつければ、あとは楽勝なんだろう……親友?」
明志は首を傾げた。
「なにを言っているんだ? 明日が一番きついぞ?」
「マジか」
三人は心がへし折られ、石床にゴロンと身体を預けてしまった。
もう起き上がる気力すらなさそうだ。
「仕方がない。俺がキャンプの設営をするから休んでいてくれ」
「「「は~い……」」」
各自、設置されているダンジョンボックスから、用意してあったキャンプ道具を取りだしていく。
それを明志が慣れすぎた手つきで、テキパキと設営を進める。
「さすが私の恋人」
「頼りにしてるぜ、親友」
「ダンジョン部の副部長ならば当然よな!」
ギャラリー気分の三人は、その見事な手際を見ながらヨイショをしていた。
暇なのだろう。
「……いいから、普通に休んでいてくれ」
そうこうしている内に、キャンプの設営が終わった。
テント二つに、テーブルに人数分の椅子。
それと用意してあった薪を組み上げて、中の着火剤に火を付けて焚き火をする。
「おぉ~、すごい」
明志以外はダンジョンでのキャンプ経験がなかったので、感心しきりだった。
そして、暖かな火を見て安心したのか、優友の腹がグゥ~と鳴った。
「そういえば、メチャクチャ腹が減ったぜ……。今日の食事は明志が用意するって話だったけど、なににするんだ? カップ麺? それともスーパーでカレーとかの材料とかを買ってあるとか?」
「いや、今から材料を調達してくる」
「ん? 今から? まだ二層の始めだし、いったん外に買い出しに行くのか?」
「少し先に進んで、モンスターの肉をドロップさせてくる」
「……え? 材料を調達って、ダンジョンの中で!?」
明志はドロップ品回収用の大きなビニール袋とリュック、それと調理用のトングを装備した。
冒険者らしからぬ格好だが、そんなことは気にせず一人で二層の奥へと行ってしまった。
「お、おい。止めなくていいのかよアレ」
「噂では聞いたことがあるわ……。普通はダンジョンで放置される食材系ドロップを食べる冒険者もいるとか……。それに止めるもなにも、もう一歩も動きたくない」
「たしかに動きたくない」
三人はぐったりと倒れながら、明志の帰りを待つのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます