特待生、部長のスキルに魂を吹き込む
「さて、最後は――」
三人の視線は、まだスライムを一匹も倒していない大和に向いた。
「あ、あたしか……いいだろう……あたしだな……」
大和は引きつった笑いを見せていた。
やる前から結果が見えている。
きっと、スキルと呼べるか怪しい銀の流線型の物体――通称“銀ちゃん”で殴っても、一発ではスライムも倒せない威力しか出ないだろう。
レアカラー“ガンメタルシルバー”とは名ばかりだ。
自分が部長なのに、一番役立たず。
この先も、昔と同じように足を引っ張り続けるのだろう――と、トラウマがある初心者ダンジョンで色々と考えてしまうのだ。
内心はかなり複雑といえる。
「あ、部長、待ってください」
「うん? どうした、副部長?」
明志は、大和のスキルである銀ちゃんに手を当てた。
「【Lv0】魔力調整――」
「こ、これは……!?」
銀ちゃんが輝き、
地面に落下しそうになったのだが、シュタっと華麗に着地。
その正体は――
「あたしの銀ちゃんから、猫が出てきた!?」
銀色の美しい毛並みをした、優雅な猫だった。
大和は混乱した。
なぜ、自分のスキルである銀の塊から猫が出現したのか。
それと、自らの頭部になにか違和感がある。
手で触ってみると、頭頂部に二つの三角パーツが装着されているようだ。
「猫……って、もしかして、あたしにも猫耳が……?」
「部長、お似合いですよ」
「ありがとう。……じゃなくて、いったいこれはどういうこと!?」
「俺の魔力調整で、部長のスキルを少しイジりました。いえ、本来あるべき形に導いたというのが正しいでしょうか」
「……本来のあるべき形……あたしの本当のスキル……」
大和の脳内に新たなスキル名が浮かんできた。
「【金属Lv8】
「れ、レベル8ですって!? ランカー一歩手前のクラスじゃない! それに鉄柄の【Lv6】
「大和ちゃん、すげぇ……」
むすびと優友が驚くのも無理はない。
ダンジョンでボスを倒せば上がっていく冒険者レベルと違って、スキルレベルは先天的な要素が大きいのだ。
ランカーたちも大体は元からスキルレベルが高く、少しずつ現状最高のLv10に上げていった者が多い。
「……マジか、あたし」
「いえ、当然の結果です。ただの銀色の塊を十数年も、毎日愛情を込めて育てたのですから」
大和の足元に、命が吹き込まれた猫の銀ちゃんがスリスリとしていた。
その様子を見て、大和の目頭が熱くなってきてしまう。
「ただ、猫がこうやっているだけで、なんか泣きそうになってしまう……。変だな……アハハ……」
「俺は最初からわかっていました」
「また勘ってやつか?」
「鉄柄に言ってやった『お前より強い金属系を山ほど知っているぞ』――という一人が部長ですよ」
大和は、今までの明志の態度を思い出していた。
こんな自分みたいなザコ部長に謙虚な態度であり、天然ボケなのかと思っていたのだが、本質を見抜いて接していただけなのだろうか? と。
明志のことを改めて、強く信頼すべき相手だと感じ、胸が温かくなってきた。
なにか感謝の言葉を伝えたい。
気持ちを巧みな言葉にして、十でも、百でも伝えたい。
そう心が言っているようだ。
「あー、その……副部長……」
「はい」
「あ、あんがと……」
「どういたしまして」
赤面して俯いてしまった大和を、明志はポンポンと頭を撫でた。
「わ、忘れるなよ……あたしは年上なんだからな……。けど、たまにはこうすることも許してやる。特別だからな、お前は…………………………副部長だし」
その後、急に口下手になった大和と、猫そのものな銀ちゃんは『可愛いわ!』『可愛いぜ!』と二人のオモチャにされた。
一通りじゃれ合ったあと、少しだけ疲れた顔の大和が立ち上がった。
「――って、あたしのスキルの性能を試すんだった!」
「あ、そのことなんですが――」
「いけー! 銀ちゃん! 生まれ変わったパワーを見せてやるんだー!」
大和はビシッと、前方のスライムを指差して指示を出した。
銀ちゃんは気乗りしないのか、クァ~とアクビをするだけだった。
「……あれ?」
「そのことなんですが、部長。今日は後ろで見ていてください」
「……え? だって、Lv8のすきりゅ……」
「よし、いくぞ! 火之神院! 優友! 今日は三人でパーティープレイの練度を上げていく!」
「わかったわ!」
「おう!」
大和は、走り出す三人を見送りながら、呆然としていた。
その顔は、宇宙の真理を考える猫のような表情だった。
「……Lv8すきりゅ……」
「ニャ~ン」
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