特待生、スキルの確認をする

 食後のデザートも終え、四人は焚き火の前で向かい合っていた。


「明日のダンジョン攻略の前に、今日の成果の確認などをしておきたいと思う」


「よし、任せたぜ親友!」


 今日は二十時間近く、みっちりとスライムを倒し続けて、戦闘での連携や、スキルの調節など試してきた。

 それをいったん、まとめようというのだ。


「まず火之神院だが、すでにダンジョン経験があるためか、動きなどは特に問題はなかった」


「まぁねぇ~! お兄様の目を盗んで、ダンジョンに潜っていたからね!」


「最大火力でスキルをぶっ放して倒れていたのも、最初だけだったな」


「うぐぐ……。恋人のそういう見苦しいところは、都合良く忘れるのがマナーよ……」


 むすびはモンスターとの戦いも、パーティーでの戦闘もある程度は最初からこなせていた。

 しかし、明志によって強化されていたスキルは例外で、振り回されていた状態だったのだ。

 全力でスキルを放つと反動や消耗が激しいため、ダンジョンのモンスターに合わせての調節が主な課題だった。


「火力の調節……。火属性だけにね……うぷぷ」


「……ん? 火之神院、ボソッとなにか呟いたか?」


「な、なんでもないわよ」


「聞こえなかったから、もう一度言ってくれ」


「なーんーでーもーなーいーでーすぅー!!」


 旧財閥令嬢ジョークは思ったよりも恥ずかしかった。

 本当に聞き逃していた明志は、話を次に進める。


「優友もスキルを適切な威力にする方向……、それとパーティー戦闘での慣れが課題だったな」


「ああ、うん。おれっち、本当にダンジョンとかよくわからなかったから」


 優友のスキル“石つぶてストーン・バレット”も消耗がなかなかに激しい。

 道中の雑魚すべてにこれを使っていくというのは現実的ではない。

 そこで、むすびの近接スキル“火斬”の要領で、石をメイスに纏わせて攻撃するスキル“土塊つちくれ”を会得したのだ。

 これなら射程は短くなるが、燃費は極端に良くなる。

 普通なら一日で会得できるものではないのだが、どうやら優友には適性があったようだ。


「むすびちゃんから教えてもらった近接スキル、なかなか使いやすかったぜ」


「俺の勘は正しかったな。優友ならできると思っていた」


「へへ……照れるぜ、親友」


 むず痒そうにする優友だった。

 次に明志は、自らのことを話し始める。


「さて……俺のことだが……」


 三人の視線が明志に集まった。

 魔力調整のスキルは強力だが、モンスター相手には使えない。

 なにか強力なスキルでも使えるようになっていたのだろうか? と期待に胸を膨らませる。


「特にスキル方面では進展はなかった。魔力調整はモンスターには利かないし、自分を強化しようとすると成功率1%くらいだろう。博打すぎる」


「そ、そう……残念ね……」


「しかし、ドラウプニルグローブの能力を発見した」


「武器に能力!? そんなものが存在するの!?」


 明志は拳を見せた。

 そこに装備されている、魔石と竜革のドラウプニルグローブが焚き火の明かりで照らされた。


「どうやら再使用時間リキャストはあるようだが、強力な一撃を撃てるようだ。たぶん九分に一発……威力は素手の八倍といったところか」


「単純に強いな……それ……。元のパンチ力が200キロあったら、1.6トンだろ……?」


 想像して優友はゾッとした。

 それだけの威力があれば、プロボクサーを軽く超えて、兵器のようなレベルだからだ。

 もちろん、ただの兵器には魔力が籠もっていないので、モンスターは倒せない。


「パンチ力なら私も聞いたことがあるわ。ゴリラのパンチ力は5トンくらいあるそうよ。その八倍ともなれば……」


「むすびちゃん、突然、彼氏をゴリラと比べるのはおかしい」


「あら? そう? ゴリラ、格好良くて好きだけれど」


 そんなマイペースな優友とむすびのやり取りを気にせず、明志は話を進めた。


「まだ感覚が掴めないから、思いっきり撃てそうな階層のボスにでも試したいところだな。俺だけじゃなく、火之神院と優友のスキルも」


「ああ、明日が楽しみだぜ!」


「そうね!」


 ――そして、会話に参加していない存在が一人いた。

 ザコキャラの低い目線で、主役達の会話を眺めるような幼女部長――大和である。


「あれ? 部長、どうしたんですか?」


「……拗ねてなんかいないぞ」


「ああ、言い忘れていましたが、明日は部長が頼りです」


「なんだと……!?」


「この短時間でのダンジョン踏破は、部長がいなければ成り立ちませんから」


「そ、そうか! そ~か~! よし、わかった! 明日は副部長の期待に応えてやろうではないか! 部長として! 皆の上に立つダンジョン部の部長として!」


 カーッカッカッカと、いつもの元気なキャラ作り笑いが木霊するのであった。

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