特待生、ひたすら走って十層入り口へ

 パーティー一行は、四層入り口の休憩ゾーンで水浴びをしたあと、再び走り出した。

 順調に四層、五層、六層……と道中のモンスターを突破し、ボスを倒して行く。

 全員の連携も取れてきている。

 しかし、モンスターも段々と強くなってきて――


「うおー!? 後ろからメッチャ走ってくる! モンスターが走って追いついてきて、おれっちの背中をカリカリと引っ掻いてるよおぉぉおお!?」


「うるさいわね……少し黙ってて。【火Lv3】上級火球――!」


 背後でトレイン――モンスター群がまるで列車のように追いかけてくる現象に、むすびがスキルを打ち込んだ。

 爆炎が上がり、モンスターが一掃される。

 それを確認した明志は、走る速度を戻しながら呟いた。


「そろそろ俺の開幕一撃じゃ、道中のモンスターを倒せないようになってきたな」


「そうだな~。あたしの銀ちゃんを頼りに、なるべく避けるルートは通ってきているが、どうしても接敵してしまうからな」


 ダンジョンの階層が深くなってくると、当然のようにモンスターも手強くなってくる。

 耐久力が上がった敵を一撃で倒せなくなり、走り抜けたパーティーをモンスターが背後から追いかけるようになるのだ。

 そこで、この隊列の真の効果が発揮される。

 追いかけてきたモンスターを、一番後ろの優友がガード。

 それをむすびが遠距離のスキルでまとめて焼き払う。


「各自の負担も分散されるし、省エネにもなっているな」


「いやいやいや、親友! おれっちがすっごい危険なんだけど!?」


「……ナイス、盾!」


「そっか~! いまさら気が付いたけど、盾、タンクって役割かおれっち~!?」


 そんなやり取りを繰り返し、ひたすらダンジョンの階層を奥へ奥へと進んで行く。

 優友は文句を言っているが、きちんと役割を果たしていた。

 むしろ本人は気が付いていないのだが、普通の盾職学生より適性や対応力が高い。

 落ちこぼれ混じりの急造パーティーのようだが、実はベストマッチされた奇跡のパーティーなのだろう。


「うぎゃー! やっぱ怖ぇーよー!」


 後ろから悲鳴が聞こえてくる程度で、ストレートに階層を突破していった。




 休憩を繰り返しながら、ついにパーティーは十層入り口まで到着した。


「ぜぇ……はぁ……来たわね……十層……」


「ああ、少し無理をさせてしまったようだな」


「こひゅっ……かひゅっ……どこが……少しなんだぜ……おれっちもう……一歩も歩けない……」


 休憩ゾーンに入った途端、優友とむすびはバタリと倒れてしまった。


「カッカッカ! 優友と火之神院むすび、お前たちはだらしがないなぁ!」


「ぶ、部長は途中から……田中明志に背負ってもらってた……でしょ……」


「そ、それはさておき――」


 大和は恥ずかしそうに明志の背中からピョンと下り、コホンとわざとらしい咳をしてから話を続けた。


「あたしたちダンジョン部、たったの二日で練習用ダンジョンの十層まで到達するという快挙を成し遂げた! これも副部長のおかげだな!」


「いえ、全員のスキルが最適だったのと、計画通りに頑張ってくれたからです。俺の功績なんかじゃ……」


「ええい、可愛くない奴め! こんなときくらい、謙遜するな! ということで明日、十層のボスを倒せば、晴れてダンジョン部の廃部撤回となる! みんな、今日は英気を養ってくれたまえよ!」


 そう言うと大和は、率先して慣れないキャンプ設営をし始めた。

 彼女なりに、走って疲れている部員たちを気遣って、せめて自分にできることをという感じなのだろう。

 そんな素直じゃない大和の性格をわかってきた三人は、少し休憩したあとにキャンプ設営を手伝い始めたのだった。

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