特待生、焚き火で焼きマシュマロを作る

 食後、明志はバーナーを点火して温かい飲み物を作ることにした。


「コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、ココアがあるけど、どれにする?」


「結構、種類があるのね……」


「こういうものは一見、必要なさそうに思えるが、ダンジョンのメンタル管理で必要なんだ」


 明志の言葉に、三人は『なるほど』と頷いた。

 今までのダンジョンのイメージはモンスターを倒して、そのまま地上に帰還するというものだった。

 しかし、泊まりで探索ともなれば、閉所でのメンタルケアとしての嗜好品が必要になるのだろう。


「それじゃあ、私は紅茶をお願いするわ」


「おれっちはコーヒーで!」


「あたしは……渋みで色々洗い流したいから濃いめの緑茶で……」


 明志はコッヘルを人数分、取りだした。

 飲み物はティーバッグやインスタントだが、慣れた手つきで作っていく姿は頼れる男という感じだった。

 最初に煎れた紅茶を、むすびに手渡した。


「熱いから気を付けろよ」


「ありがとう。……って、そういえば、砂糖を入れてないわね」


「おれっちのコーヒーはブラックでもいいぜ! なんか……こう……身体に“漆黒”を取り入れているような感じがして好きなんだぜ……」


「漆黒」


 急に世界の闇を悟ったような眼の優友に、ツッコミを入れそうになる大和だった。

 そこはスルーで、明志は砂糖を入れていない理由を告げる。


「焚き火で焼きマシュマロを作るから、飲み物は甘くない方がオススメだ」


「「焼きマシュマロ!?」」


 その有名スィーツに女子二人が反応した。

 材料や作り方は簡単でも、なかなか実際に作る機会も、食べる場所もないという焼きマシュマロである。

 お年頃の女子なら興味があって当然ともいえる。


「作り方はかなり簡単だが、念のために手本を見せる」


 明志は、真っ白い大きめのマシュマロを鉄製の串に刺して、焚き火に近づけた。


「妹……たま子が『女子がいるなら作ってあげなよ!』と言ってきてな……。たま子、今頃どうしてるかな……」


「私の方の執事とメイドを送っておいたから、心配しなくて平気じゃない?」


「その執事さんとメイドさんの料理が美味しすぎて、俺の料理を食べてくれなくなったらどうしよう……。不安で不安で仕方がない……」


「心配するポイントがおかしい……。って、焦げてる! 焦げてるわよ田中明志!」


「そう、炒め物を作るときに焦げが一ミリでもあったら、きっと舌が贅沢になってしまったたま子に食べてもらえなく……」


 明志はトリップしてしまっていたのか、まともに話を聞いていなかった。

 結果、真っ黒焦げのマシュマロが誕生していた。


「不甲斐ない兄でごめんよぉ……たま子ぉ……」


「副部長、妹が絡むとマジでダメになるな」


「「うん」」


 珍しく三人の意見が一致したのであった。




 ――その後、明志は焦げたマシュマロを口にして冷静になり、普通に焼き始めた。

 真っ白だったマシュマロに焼き目が色づき、少し膨れあがって、甘い香りを漂わせる。


「わぁ、美味しそう……」


「ほら、火之神院」


「えっ!?」


 むすびの前に差し出された焼きマシュマロ。

 それはむすびの視点からすれば、恋人である明志が真っ直ぐに見つめてきていて、ドキッとしてしまう光景だ。


(こ、これは……はい、あーん……というやつね!)


 そんな焼きマシュマロに負けず劣らずの甘い思考が走り、そのままパクッと食いついたのであった。


「なにこれ、とろふわで甘くて美味しいわ! 田中明志!」


「……自分の手で持って食べろ。危ないぞ」


「えっ、こうやって食べろってことじゃ……!?」


「いや、食べたそうだったから、手渡そうとしただけなんだが……」


「そ、そうよね~!」


 焚き火に照らされるむすびの顔は、その炎のようにボッと赤くなってしまった。

 それを見ていた優友と大和は、青春だな~という表情で焼きマシュマロを炙っていた。


「ああ、そうだ。この焼きマシュマロに一手間加えてスモアにしよう」


「スモア?」


 明志は取りだしたクラッカーの上に焼きマシュマロを置いた。

 その上に割った板チョコを載せて、もう一枚のクラッカーでサンドする。


「こんな感じにしたのをスモアというんだ、食べてみてくれ。……自分の手で取ってからな」


「わ、わかってるわよ!」


 明志が作ったスモアを、むすびはまだ照れているのか、ひったくるようにして口へ運んだ。


「んぅ~! サクサクのクラッカーと、熱で溶けたチョコ、それと焼きマシュマロが――三位一体になってるわ! ああ、もう! なんでダンジョンで食べるものってこんなに美味しいのかしら!」


「ふふ、そうだな。子どもの頃から思っていたが、ダンジョンで誰かと一緒に食事をすると美味い。何故だろうな」


 ふと見せた明志の微笑みに、三人も笑顔を見せた。


「田中明志……アナタ、実はダンジョンが嫌いじゃないでしょ?」


「おれっちも、親友は実はダンジョンが好きに見えるぜ」


「カーッカッカッカ! あたしもダンジョン部を守ってきたかいがあったというものだな!」


 そう言われた明志は、バツの悪そうな顔で少し恥ずかしそうに――


「べ、別にダンジョンなんて好きでもなんでもないぞ……」


 と、小さく呟いた。

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