特待生、ダンジョンで霜降り肉を焼く

 キャンプ地の結界から少し進んだところ――

 二層目の通路にはモンスターがうろついていた。


「特に倒す必要もないし、目的のアレ以外は避けて通るか」


 明志は、むやみやたらとは戦わず、こちらに反応しないモンスターはスルーした。

 もし、襲ってくるタイプのモンスターがいても、まだ弱い二層目なので問題は無い。

 そんな中、記憶を頼りに一つの小部屋に辿り着いた。

 普通なら辿り着かないであろう、曲がりくねった通路の先に“奴ら”はいた。


「よし、夕食分は狩るか」


 トングを持っていない方の拳――ドラウプニルグローブで、“奴ら”を殴り倒していく。

 そのモンスターが消滅したあと、たまにドロップする“肉”があるのだが、それが地面に落下する前にトングでキャッチして袋に入れていく。

 常識的には考えられないが、すでに切り分けられている肉が直接ドロップするのである。


 普通に倒すと肉が地面に落下して汚れ、特殊な菌が繁殖してすぐ腐ってしまう。

 しかし、ダンジョンに長時間潜るための知恵、美味しく頂くためのコツとして、このような戦い方が身につくのだ。


「よし、このくらいでいいか」


 明志は、大きなビニール袋いっぱいになった肉を満足げに眺め、キャンプ地に戻っていくのであった。




 キャンプ地では、ダンジョン部の三人が今か今かと待ちわびていた。


「ただいま~。いっぱい肉が取れたぞ」


「「「やったー!」」」


 飢えた獣のような三人は、ビニール袋いっぱいの肉にゴクリとツバを飲み込む。

 その肉は分厚く、芸術的な脂の霜が入っている。

 最高級A5ランク、ブランド牛のような見た目だ。


「それじゃあ、焼いていくぞ」


 明志は用意してあったバーベキュー台を使い、その肉を焼いていく。

 ジュウジュウと小気味良い音が聴覚から届き、香ばしい肉のニオイが嗅覚をくすぐる。

 待機状態の味覚がまだかまだかと、口の中の唾液量を増やす。


「野菜もスーパーの特売で買っておいた。こっちもバランス良く食えよ」


 明志は一人一人の皿に、キチンと取り分けていった。

 肉と野菜、どちらもシンプルに塩コショウの味付けだが、ダンジョンで仲間と食べれば、それだけで最高の調味料になるというものだ。


「ん、美味しいわ! このお肉! 地上で三つ星シェフに作らせたものよりも、ずっと!」


「ほんとだ! んめぇ! 簡単にかみ切れるくらい柔らかいのに、しっかりと肉って感じでサイコーだぜ! こんなの食べたことがねぇ!」


 絶賛する優友とむすび――

 だが、大和だけは皿の肉を食べ終えたのに、神妙な顔つきをしていた。

 なぜ絶品の肉を食べたのに、この表情なのか……?

 それは、気が付いてしまったからである。

 こっそりと、明志に聞いてみた。


「な、なぁ……副部長」


「どうしましたか、部長。お口に合いませんか?」


「いや、すごく美味いんだが……気になることがあってだな……。この肉……どのモンスターからドロップさせた?」


「ああ、触手がウネウネとした緑色のモンスターで、名前はたしか……ローパーですね」


 明志がダンジョンで倒していたのは、ローパーというモンスターである。

 テラテラとした一つ目の軟体生物で、身体中からおぞましい数の触手が生えている。

 色々と気持ちが悪いとされていて、女子からは『触れたくない』『近寄りたくない』『視界に入れたくない』と、ナンバーワン不人気モンスターだ。


「二層目で肉をドロップしそうなモンスターというので予感がしたのだけれど、まさか……本当に……あのローパーの肉……」


 大和の顔から血の気がサッと引いた。


「部長、肉のお代わりはいかがですか?」


「いいや、あたしは遠慮しておく……。今日はなんか、野菜の気分なんだ……」


 そのリアクションに首を傾げた明志だったが、あまり気にせず皿に野菜を取っていくのであった。


「うおー、この肉うめぇ! 親友、もっとじゃんじゃん焼こうぜ!」


「そうね! いくらでもお腹に入るわ!」


「優友、火之神院……。お前らも部長を見習って、野菜も食え。野菜も」

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