不良グループのヘッド、ドラム缶を粉砕して強キャラアピール

 東京冒険者学校の膨大な敷地の一角、今は使われていない廃倉庫の中――


「んぅうう~~!!」


 猿ぐつわを噛まされている金剛大和は、不良グループ数十人に囲まれていた。


「大人しく部室を提供してればよかったのによぉ」


「へっへっへ、まったくだぜ」


「これじゃ、まるでガキ相手におれたちが虐めてるみてぇじゃねーか。ギャハハ!」


 そんなことを口々にする不良たち。その奥から、一人の大男がやってきた。

 二メートル以上はありそうな巨躯に、赤銅色の肌。制服の上からでもわかる、大きく盛り上がった筋肉がタダ者ではないことを物語っていた。

 不良たちが道を譲る姿は、まるでモーゼが海を割るシーンのようだ。

 彼が大和の猿ぐつわをグイッと外して話しかけた。


「よお、大和? オレがいない間に勝手なことをしてくれたじゃねーか?」


「鉄柄!」


「あぁん? 呼び捨てか? 可愛い部員ができて、気が大きくなっちまったか?」


 大男――鉄柄が一睨みすると、大和は『ひっ』と小さな声で悲鳴をあげた。


「て、鉄柄……さん……」


「そうだ、それでいい。金属スキルの中でもザコのお前は、同系統最強のオレを崇めておけや」


 獣のような闘気を含んだ眼光は鋭く、目の前の弱者を否が応でも萎縮させる。


「それで……だ。ダンジョン部に新しい部員が入って楽しそうだなぁ、大和よぉ」


「そ、それは……その……」


「おぉっと、ビビるなよ。オレだって鬼じゃねぇさ。念願だったんだろう、ダンジョン部の復活がさぁ? オレもそれを『おめでとう』と祝福してやりたくてなぁ」


 鉄柄が見せた意外な笑顔に、大和も引きつった笑顔で無理やり合わせた。


「え……? ど、どうも……ありがとうございます……」


 少しだけ気が緩んだのだが、そう甘くもなかった。


「だってよぉ、ダンジョン部の部室を快適に使うってのをよくよく考えたら、お前一人だとすぐ廃部になっちまう。だから、これからは新人部員三人にも協力してもらおうってなぁ?」


「ま、まさか……」


「お前を餌に、アイツらを呼び出した。ちょっとボコってやって、従ってもらうように躾けてやるぜ……」


「や、やめてくれ! あたしは今まで通り言うことを聞くから!」


 大和が必死の懇願をするが、鉄柄は下卑た笑いを見せた。


「あぁん? お前みたいなザコが、オレに指図できる立場なわけねーだろ……」


 鉄柄は右手を振り上げ、スキルを発動させた。

 拳から腕にかけて機械のように変化し、そのまま顔半分まで銀色にコーティングされていく。

 それは【金属Lv6】殺人鉄拳デス・メタルだった。


「このままオレが殺人鉄拳を振り下ろせば、お前の人生はジ・エンドだ」


「ひっ!?」


「だが、それじゃあ快適なあの部室が使えなくなっちまう。そこで、このスキルの威力を別の物で見せてやるよ――そこに丁度いいドラム缶があるな」


 鉄塚は、廃倉庫の中に放置されていた大きな工業用のドラム缶に近付いた。

 そのまま正拳突きの構えで、殺人鉄拳を叩き込んだ。


「ふんッ!」


 ドラム缶は吹き飛び、反対側の壁に当たってようやく止まった。

 その姿は無残なモノで、穴が空いて破裂していた。


「人間に使ったらどうなるかわかるだろう? お前の可愛い部員が、あのドラム缶みたいになるところを見たいか?」


「う、うぅ……」


 大和は想像してしまった。

 一番弱いであろう、ノーカラーでスキルなしの明志が無残な姿になるところを。

 みんなで楽しく部活動をしたいだけなのに、どうしてこうなってしまったのか。

 一緒に装備を買いに行くという、できもしない約束をしてしまったことを後悔した。


「や、やめて……」


「――『やめてください』だろう? あと、様も付けておけよ?」


「はい……やめてください、鉄柄様……」


「ハハハ! いいねぇ! やっぱり力っていうのは最高だぜ! どんな相手でも一発で従順になっちまう!」


 鉄柄は上機嫌になったのか、ヒョイッと小柄な大和を片手で担ぎ上げた。


「ひゃっ!?」


「おい、オレはコイツと奥の部屋で休んでるぜ。お前らは新人部員の歓迎でもしてやれ」


「そ、そんな!? あたしが従えば、みんなになにもしないんじゃ!?」


「はい! 歓迎は任せてください、ヘッド! ……それで、奥の部屋でお楽しみですかい?」


 下品な笑いを浮かべて質問してしまった不良は、鉄柄の蹴りによって吹き飛ばされた。


「うごぉっ!?」


「オレは女には興味はねぇよ。コイツが逃げ出すと厄介だから奥に行ってるだけだ。……それにオレが直接戦ったら、加減できなくて明日の朝刊に載っちまうからなぁ。ハハハ!」


 廃倉庫の奥に去って行く鉄柄を見て、不良たちは頼もしさと恐ろしさを感じていたのであった。

 思わず、これから半べそをかきながらやってくるであろう部員たちに同情してしまう。

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