特待生、ランカーに気に入られて奢られる
ダンジョン部のメンバーは現地解散して、それぞれが帰宅することになった。
明志はまだ道に詳しくないので、最短ルートの繁華街を一人で歩いていた。
「学校の敷地内なのに、随分と賑やかだな……」
学生だけでなく――普通に大人たちも多く、人でごった返していた。
ここは東京冒険者学校と呼ばれてはいるが、実際は研究機関や企業などの施設も多くあり、その関係者たちも利用しているのだ。
当然、学生がいたら注意されそうな繁華街も用意されている。
「こらーっ! そこの学生! こんなところでなにをしているー!」
「!?」
その声に、明志はビクッとした。
特待生が繁華街をうろついていたとなれば、下手をしたら問題になるかもしれない。
恐る恐る声の主を見てみると――
「なーんちゃって。ハハハ、ボクだよ~」
「なんだ、クラウディウス先生か」
「なんだとは、ひどいな~。一応、これでも生徒を監督する立場だよ~?」
ランカー三位“重力皇帝”こと、クラウディウスは笑いながら、そう言った。
高い身長に、少し日焼けした肌、軽薄そうな笑みを貼り付けている様は、私服というのもあって繁華街の住人にしか見えない。
この優男を、教師と言っても誰も信じないだろう。
「俺は寄り道しないで帰るんで、それじゃ」
明志は、特に用事もないのでスルーして横を通り過ぎようとしたのだが、肩をポンと叩かれた。
「いやだな~。教師のボクが、生徒を繁華街で見つけてタダで帰すわけないでしょ~」
「くっ」
「ちょっと、いいことを一緒にしたら見逃してあげてもいいんだけどな~?」
***
「……なんて教師だ」
「ほらほら、どんどん入れていこ~!」
メチャクチャ笑顔のクラウディウスと、冷めた目をしている明志。
二人がいたのは、繁華街にあるゲームセンターのメダルコーナーである。
「こ、このメダルというのを入れればいいのか……?」
「そうそう。ボクの奢りだから、遠慮なく使っちゃってよ~。増やしすぎて、使い切れないだけなんだけどね!」
「奢りか……。奢りなら遠慮なく……」
倹約家の明志は、奢りという言葉に弱い。
普段なら断ってしまうようなシチュエーションだが、奢りという言葉の魔力には抗えなかったのだ。
ゲーム機にメダルを次々と投入していく。
中に落ちたコインが、他のコインを押し出していくというシンプルなルールだ。
一番下まで落ちると、取り出し口から報酬のコインとして手に入る。
「これは……シンプルだが、奥が深いな……。タイミングによって、奢られたコインが無駄になるかどうかが決まる……」
「お、明志くんも楽しさがわかってきたか。珍しく、表情がほころんでいるよ。少しだけどね~」
「べ、別にそういうのじゃない……。タダならなんでも嬉しいだけだ」
微妙に照れているような口調の明志を、クラウディウスはニヤニヤと見守っていた。
優男でも、大人の貫禄である。
「……なんで、俺をこんなところに連れて来た?」
「さぁ? でも、強いて言うのなら……ボクが本当にメダルを余らせていたのと、キミがちょっと子どもらしくなさすぎるというのが気に入らなくてね」
「子どもらしくなさすぎる……?」
明志は、相手がなにを言っているのかわからなかった。
明志にとっては、この性格が普通だ。
「キミは気が付いてないだろうけど、もっと子どもっていうのは誰かに頼ってもいいんだ。……今は、妹さんだけじゃなく、ボクたち大人も近くにいるんだからね」
「……大人に頼ってどうなる」
大人に頼った結果、悲惨な目に遭った。
そう言おうとしたのだが、クラウディウスの表情が真剣だったために、口ごもってしまう。
まるで、同じような体験をしてきたような、厳しくも優しい眼差しだ。
「まぁ、まだ世界に失望していないのなら、必要なときはボクを頼りなよ。キミの重すぎる重力を解放するくらいの世界は見せてやれるさ……。あの人――キミの父親への恩返しも兼ねてね」
「俺の父親と知り合いなのか……?」
「まだ駆け出しのころ、命を助けられたのさ。いや、失敬。そうじゃなくても、キミはボクの生徒だ。親とか大人とか関係なく、助けてみせるさ」
「なぜ、そこまでするんだ……?」
クラウディウスは、クスッと笑った。
偶然、ぬいぐるみキャッチャー前で困っている子どもを見つけると、そちらへ向かった。
どうやら、ぬいぐるみが取り出し口の上で引っかかってしまい、子どもが店員を呼ぶ勇気がなくて立ちすくんでいたらしい。
「【重力Lv10】
ぬいぐるみの重力が操作されて、子どもの手元までフワリと浮いてきた。
「――ふふ、ボクは普通の教師じゃない。人類全員の夢を背負っている、ランカー第三位“重力皇帝”でもあるからね。歴史上の皇帝が皇帝であるように、ボクもそうあるべく振る舞うのさ」
「……そんな考え方をする大人もいるんだな」
「あっ、ボクのことを見直した? 明志くん、もしかしてボクに惚れちゃったのかな~? でも、ごめんね~。ボク、順番待ちの女の子たちがいっぱいいるからさ~! ハハハ!」
「……」
――その後、店内でスキルを使ったことがバレて店員さんに怒られるクラウディウスだったのだが、明志は知らない人のフリをして先に帰った。
「ちょ、ちょっと明志くん!? ひどくないかい!? で、でも、必要なときは頼ってくれよ~!」
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