特待生、魔法の箱を説明する
三連休の一日目。
早朝、ダンジョン部の四人は、学校にある練習用ダンジョンの前に集まってきていた。
「おはよう」
「ふわ~、おはよう。おれっち、超ねみぃ……」
「私もダンジョンが楽しみすぎて眠れなかったわ……」
普段通りの明志に、寝不足そうな優友とむすび。それと――
「カーッカッカッカ! 常に平常心を保ちたまえ! あたしと副部長のようにな!」
いつもの癖のある高笑いをする大和がいた。
「大和ちゃん、元気だね~。おれっちでさえ、心配で寝付けなかったのに」
「こういうときは、なにも考えないのが一番なのだよ!」
「ああ~、そういう方向で元気なんだ……」
特に難しい事は考えずに寝る。
大和のザコメンタル保護のための処世術でもあった。
「あ、そういえば……おれっち、気になることがあるんだけど」
「どうした、優友?」
「この大荷物を背負ってダンジョンに潜るの大変じゃね?」
優友が心配するのも無理はない。
四人とも、装備や食料だけでなく、キャンプ道具などを大量に背負ってきている。
その姿は登山家のようだ。
このままではダンジョンでの戦闘など不可能である。
「そうか、優友はダンジョンに潜るのが初めてだったな」
「そうなんだよ~、親友~」
「それなら、実際にアレを見た方が早いな」
「……アレ?」
明志は、石のほこらのような形をしている練習用ダンジョンに入っていった。
後ろからついていく三人。
中は意外にも広く、椅子や箱などが置かれた休憩所のようになっていた。
「これに荷物を詰めておく」
「……箱? ここに荷物を詰めてどうするんだよ。おれっちたち、ダンジョンの地下――つまり一層目にこれから入るんだよな?」
置かれていた箱は、蓋付きの木箱だった。
大きさは、背負っている一人分の荷物が余裕で入るくらいだ。
常識で考える場合、ここにキャンプ道具などを置いていってしまったら、ダンジョンの中で使用することはできない。
「この箱はダンジョンボックスといって、ダンジョンの各階層にある同じ物と繋がっているんだ」
「おぉ! つまり、この中に入れておけば、必要なときにダンジョン内で取り出せるってことだな!」
「その通りだ。飲み込みが早いな」
明志は背負っていた荷物を、ダンジョンボックスの中に詰め込んでいく。
その後に蓋を閉めて、優友が空けると中になにも入っていなかった。
「あれ? 消えた……?」
「個人個人を認識しているらしく、持ち主が蓋を開けないと出現しない仕組みなんだ」
「へ~、すげぇなダンジョンボックス」
優友は素直に感心したあと、ふと気になることが頭に浮かんだ。
「……ちょっと思いついたんだけどさ、おれっちがダンジョンボックスの中に入ったら、ダンジョンの中にワープできないかな?」
「いや、生きているものは効果が発揮されない。それに自立式のドローンなどでズルをしようとしても、“ダンジョンの意思”に感知されてダメだ」
「そっか~、地道に行くしかないか」
各自、ダンジョンボックスの中に大きな荷物を入れて、個人で持ち歩く物を選んでいく。
飲料水、携帯食料、小型医療キット、制服に取り付けるタイプのライト等々――。
あとは昨日選んだ装備を付ければ、見た目は一端の冒険者である。
「さてと、それで――」
赤い部分甲冑を装備して刀を帯びたむすびが、チラリと明志に視線を送った。
「どうやって三日で練習ダンジョンをクリアするつもりかしら? 普通にやるなら数年がかりって前も言ったけど」
「むすび、その“普通”のやり方はどんなものだ?」
「そりゃあ……練習ダンジョンの名に相応しい、各階層のチュートリアルみたいな試練をクリアしていって……」
「それなら、その“普通”というものを調整してやればいい」
むすびは首を傾げたあと、少ししてから明志がなにを言おうとしているのか気が付いた。
「あ、もしかして……試練をスルーして進むのね!」
「その通りだ」
「で、でも……試練って強制的に始まって、それをクリアするまで先への扉がロックされるとかじゃ……。クリア済みの人間でもいれば別だけど」
「してる」
「……え?」
「俺が小学生のころにクリアしてる」
その明志の言葉に、三人は唖然としていた。
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