特待生、某RPGの一列移動でモンスターを轢き倒していく

 走る――駆ける――突き進む――

 ダンジョンの狭い景色がめまぐるしく流れ、魔力を帯びた空気が風を切って後ろへと消えていく。

 身体が熱を持ち、呼吸と心臓の音が大きくなってくる。


「副部長、次の道を右だ。そっちにモンスターはいない」


「了解です、部長」


 明志は背中側にいる大和の指示で、ダンジョン内の移動ルートを決めていた。

 そして、ひたすら走り続ける。

 これは廃部回避、パーティー編成、ダンジョン構成などの複合的観点から見て最適解なのだが、客観的に見てしまうと――


「ねぇ、田中明志……。この移動方法って、結構シュールじゃない? なんか、昔のRPGっぽいというか……」


「ゼェハァ……おれっちも思ってた……。みんなで一直線に並んで全力疾走とか……」


 後方の二人――むすびと優友が、つい口に出してしまった。


「そうなのか? 俺はRPGというものがよくわからない……」


 ちなみに優友は、魔力による身体強化を少しは修得してきたのだが、装備の重さで息を切らせている。

 気合いという名の魔力だけで、速度を維持しているようなものだ。


「むむ……副部長、大変だ」


「どうしました?」


「この先の一本道、モンスターが一体いる。感知できる範囲、どのルートでも避けられそうにない」


 大和のスキル、銀ちゃんが高速移動と広範囲感知でルートを共有してきているのだが、それでもモンスターを避けられない場合も出てくる。

 そこで、この隊列の出番なのだ。


「オーケー。全員、上下左右、飛んでくるモノには気を付けるんだ」


「やっぱり、やるのか……」


「はい、先頭の俺がモンスターを殴り倒して進みます」


 パーティーの一直線隊列の前に、一匹のモンスターが現れた。

 昨日の夕食だったローパーだ。

 全力疾走してくる明志たちに気が付き、戦闘態勢を取ろうとしたのだが――


「ソォイ!」


「ピギィッ!?」


「すげぇ、一撃だ!」


 明志のダッシュ右ストレートによって、殴り飛ばされていた。

 あわれなローパーは空中で消滅して、ドロップの生肉が出現――後方を走っていたむすびの顔面にビタンと張り付いた。


「ちょっ!? なにか飛んできたんですけど!?」


「だから、飛んでくるモノには気を付けろと」


「こ、これ……もしかして昨日焼いてた……」


「ああ、言ってなかったか。バーベキューの肉はローパーからのドロップだ」


「……」


 うら若き乙女がウネウネグログロのローパーの肉を食べていた。

 美味しい美味しいと頬ばっていた昨夜の記憶と、ヤァと触手で挨拶をしてきそうな生ローパーの姿が浮かぶ。

 むすびは現実を直視できなくて、白目を剥いて速度を落としてしまう。

 後方にいる優友が煽りを受けて、その背中を必死に支えて走る状態になっていた。


「副部長、次は前方にローパー二匹だ~ッ!」


「了解」


 こうして、暴走特急はモンスターを轢き倒して、ダンジョンの二層目を突き進み続けるのであった。

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