第四章 絶対なる1%の賭け

特待生、ダンジョンの走り方講座をする

 朝になり、四人はキャンプ道具をダンジョンボックスに片付けた。

 全員、新鮮なキャンプ体験をしたあとの清々しい表情だ。

 前日の疲れも、若さでカバーしている。


「さてと。ただのキャンプなら、さっき食べた朝飯で地上に戻るのだが――」


「朝のキャンプ飯は美味かったな~……。パンに目玉焼きを載せるとか、某アニメ映画でしか見たことがなかった……うへへ……」


「……部長、こちら側に戻ってきてください。ええと、今日は二層から九層までの攻略で」


 その明志の計画に、むすびが疑問の声をあげた。


「田中明志。実際のところ、二層から九層を一日って、どうやってやるのよ? 各層のチュートリアルはスキップできるとしても、普通にモンスターはうろついているわけだし、倒す時間を考えたら――」


「倒さないで走り抜ける」


「……え?」


 驚いたのはむすびだけではなく、他の二人も同じような顔をしていた。


「も、モンスターを避けて通るって結構、高度な攻略法よ……? 仮にやるとしても、かなりの斥候スキル持ちが必要で……」


「かなりの斥候スキル持ちか。――どう思いますか、部長・・?」


「山盛りのミートボールスパゲティもキャンプで奪い合ってみ――……え? なんであたしに話を振ってくるんだ?」


 朝ご飯のことで頭がいっぱいになっていた大和は、その一言で現実に引き戻された。


「ああ、そういえば、まだちゃんと話していませんでしたね。部長が昨日手に入れたスキルは、斥候スキルです。――それもかなりの」


「なにぃ!? 自分のことなのにメッチャ驚く!」


「たぶん、部長が生み出した猫の“銀ちゃん”と感覚を共有、増幅するものだと思われます」


「だ、だから昨日から何か敏感になっていたり、ズレのようなものを感じていたのか……」


 大和が調子が悪いように思えていたのも、感覚が鋭敏になるスキルに慣れていないためだったのだ。

 明志はそれを見越して、昨日は後ろから見ているだけと指示していた。

 一日経った現在、スキルの原理を聞いた大和は、銀ちゃんとの繋がりを感じ取れる。


「ん、いけそうな気がするぞ! 銀ちゃんに頼んで、前を走ってもらえばいいんだな? ……でも、そうしたら銀ちゃんがモンスターに襲われないか?」


「大丈夫だと思います。観察していたのですが、スライムにも反応されていませんでしたし。それと昨日から銀ちゃんの姿を確認できなかったので……たぶん、高ランクの認識阻害スキルを持っていると思います」


 三人は、たしかに銀ちゃんの存在を忘れていたことに気が付いた。

 そこにいると強く意識しなければ、今も大和の足元にいる猫を認識できないでいる。


「たしかランカーにも一人いたわね……認識阻害スキル。すごいわ……」


「あたしの銀ちゃん――さしずめ、ステルス忍者キャット……というところにゃんだにゃ」


 微妙に突っ込みたい気持ちを置いといて、大和以外は出発の準備を始めた。




 キャンプ地の結界の外に進むと、気配が一変した。

 野生の臭気が鼻をつき、肌もザワザワと何かを感じ取っていた。

 この感覚は、ジャングルの奥地などに近いかもしれない。


「見た目的には変化はないけど、コイツはおれっちでもわかるぜ……。一層目とは桁違い……明らかに強い敵意を持った奴らがいる場所だ」


「ああ。道もいくつかに分かれていて、階層によっては構造が時間で組み変わったりもする。ダンジョンというのはモンスターだけではなく、地形も手強いものだ」


「な、なぁ……。やっぱり、親友がそれだけ言うんだから、危ない……んだよな?」


 優友は、つい最悪の事態も想定してしまう。

 しかし、明志は首を振った。


「いや、練習用ダンジョンに限っては、そこまで危険ではないらしい」


「そうなのか?」


「制服に特殊な仕掛けが施されていて、この練習用ダンジョンの中で生命の危機に直面するような状態に陥ったら、学校の保健室に転送されるらしい」


「つ、つまり、危なくなったら外へワープするってことか!」


「ああ。それに噂では、保健室には凄まじい回復スキル持ちがいるらしい。腕一本なら余裕で直せるとか」


「ひえっ!? ……そうなる前に、もう少し早めに転送してほしいぜ~」


 やはりダンジョンは恐ろしい場所だと再確認したところで、明志が隊列の説明を始めた。


「ダンジョンを走り抜ける隊列なのだが――銀ちゃんが先行。かなり後ろに俺、部長、火之神院、優友の順番で。銀ちゃんの感覚を共有した部長が俺に指示を出して、ひたすら走ります」


「カーッカッカッカ! ダンジョン部のリーサルウェポン、この金剛大和に任せておけい!」


「疲れたら言ってください。おぶります」


「……それはちょっと恥ずかしいかな。なにかの拍子にZとかされそうだし」


「……Z?」


「な、なんでもない! さぁ、説明を続けるのだ副部長!」


 明志は意味がわからなかったが、言われた通りに話を続けるのであった。


「どうしても避けられない敵がいた場合は、俺が殴り倒して走り抜けます」


「ワイルドぉ……」


「後ろから追いつかれそうな場合は、火之神院と優友に任せる」


「ええ、任せて! 私たちなら遠距離から攻撃できるしね!」


「特に最後尾の優友は重要なポジションだ」


「お、おう! 重要……重要か……へへ」


 重要なポジションと言われた優友は気を引き締めた。

 初めて親友から期待をかけられ、ドキドキする感じすらある。


「防御力の高いお前が、追ってきたモンスターを全身で食い止めることになる」


「って、たしかに重要だな!? いや、重要というか危険なポジション!? この防御力高そうな装備はそれを見越してか、親友……」


「アクシデントでも起きなければ、その状況にはならないから心配するな」


「そ、そうか……。お前がそう言うのなら……おれっち、安心したぜ……」


「では、そろそろ行こう。ダンジョンは思ってもみないことが起きる。アクシデントは必ず起きるものだと考えて行動するように」


「どっちだよ!?」

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