幕間 男×男、女×女。テントの中で。

 四人は話も終わり、それぞれがテントで寝ることにした。

 男性陣のテントで、寝袋にくるまっているのは明志と優友だ。


「なぁ、親友……このテント、狭くねぇか?」


「ああ、狭いな」


 二人は圧迫感がありまくるテントで、寝袋をギュウギュウに密着させるような形になっていた。

 薄暗く、呼吸の音と、微かに動く相手の感覚が伝わってくるだけだ。


「なんか隙間風も……」


「セールで千円だったからな」


「素人のおれっちが言うのもなんだけど、さすがに千円は安すぎねぇか!?」


「ここは極寒のダンジョンでもないし問題ない。それに一人、五百円も払ったのだからな。五百円あれば、一週間の食費くらいにはなるぞ」


「ならない、普通はならないぜ……」


 優友は、まだ寝袋に入ったばかりで肌寒いため、雪山で遭難して密着して暖を取るシチュエーションを思い出していた。


「はぁ……これが女子とならなぁ……。そういえば、親友はむすびちゃんとどこまでいったんだよ?」


「どこまで……とは? ダンジョンでどの階層まで行ったかというのなら――」


「ちっげーよ! 恋人なんだろう!? そういう恋人のアレだよ、アレ! 手を繋いだりとか、抱き締めたりとか、キスとか!」


「いや、なにも?」


「……は?」


 明志は小さい頃から普通の生活を送っていなかった。

 妹と二人きりになったあとも、外ではバイト、家では妹との生活。

 つまり、恋人とするようなことの知識は皆無だったのだ。


「え、親友って、もしかして……」


「もう寝るぞ。明日からが一番大変なんだからな」


「あ、ああ……うん。おやすみ……だぜ……」


 優友は内心考えていた。


(も、もしかしてコイツ……むすびちゃんに何もしないということは――男が好きなのか……!? それで用意周到に狭いテントを!? おいおいおい、マジか!? おれっち、野獣のような眼光で狙われているのかー!?)


 変なことを考えてしまって、なかなか寝付けない優友であった。




 ***




 一方、女性陣のテントは華やかだった。

 赤く大きなオシャレテントで、生地やフレームもしっかりとしていて、窓のようなモノまで付いていた。

 お値段、百万円超えのブランド品である。

 もはや、ちょっとしたコテージと言っても過言ではない。

 その中で寝袋に入っている、むすびと大和だったのだが――


「……部長って、恋人とかっています?」


「なっ!? 恋人だとぉ!?」


 こちらも深夜の恋愛トークに発展していた。

 大和は突然の話題に驚きの声をあげてしまったが、ハッとした。

 ――もし、ここで年齢イコール恋人がいない、だとバレてしまったら、ライバルのむすびに負けたことになってしまう。


「……恋人……三十人くらい付き合ったな」


「さ、三十人もですか!?」


(やべぇ、盛りすぎた……)


 幼い頃から銀色の物体を、泥団子っぽく磨いてきた頭のおかしな娘。

 そんな大和に恋人なんているはずもない。

 ただでさえ、幼女な外見のせいで同年代から子ども扱いされているのだ。

 異性とのお付き合いはゼロである。


「まぁ、あたしくらいになると、男なんて取っ替え引っ替えというやつだな! 最高で九十歳差まで経験があるぞ!」


「……すごい……幅広いですね……」


 百歳超えのお爺ちゃんが『やぁ!』と、爽やかな恋人笑顔をしているイメージが浮かんだ。

 ……秒でボロが出てきたので、大和は話題を逸らすことにした。


「そ、そういう火之神院むすび、お前はどうなのだ……!?」


「わ、私ですか!? 私は……その……。まぁ、それなりに経験豊富ですよ……えぇ……。火之神院グループの跡取りですし……」


 ちなみにむすびも、お付き合いの経験はゼロである。

 超箱入り娘だったのと、自由に行動出来るようになってからもダンジョン方面ばかりに目を向けていたので、浮ついた話の一つもない。

 一応、むすびのファンは多いのだが、大抵は告白に至るまでに“何か”の圧力で消され――……という感じになっている。


「えぇ、そりゃもう私も取っ替え引っ替えですとも!」


「お、お前もか! カーッカッカッカ!」


「は、はい……ウフフフフ!」


「そ、それなら……副部長とはどこまでいったのだ……?」


 むすびは一瞬、フリーズした。

 そういえば、偽りといえども恋人になってから、なにもそれっぽいことをしていないのを思い出してしまったのだ。

 しかし、この流れでは正直に言うことができない。


「それは……Aとか……」


「なに!? Aだと!?」


 大和、Aがなにかもわからないが、とりあえず驚いてみた。


「そこからZまでしましたとも! はい!」


「そうか~……Zまでしたのか~……」


 わからないが、なにかすごそうという雰囲気を感じて納得だけしておいた。


「田中明志、Zのときは激しくて、情熱的ですごかったですから」


「なに!? あの朴念仁っぽい副部長がだと!? なんかすごいな……Z……。いや、Zは知っているが、すごいな……」


 次の日、大和は明志をチラチラと見ていたのだが、その理由は女二人だけの秘密である。

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