特待生、ダンジョン部の救世主になる

 目の前の幼女が嘘を言っているようには見えなかったので、明志は確認をすることにした。


「金剛大和ということは、もしかしてキミがダンジョン部の部長なのか?」


「その通り!」


 明志は、大和の姿を観察した。

 青みがかったショートカットに、ぱっちりとした大きな目で、よく見ると高等部の制服を着ている。

 しかし、体型的には初等部である妹のたま子と一緒くらいで、どう見ても幼女である。


「……なるほど」


 明志はこういう人間もいるかもしれないと納得したが、むすびは訝しげな表情でツッコミを入れる。


「なにかのスキルの影響で若返っているの?」


「ちが~う! ただ……ちょっとだけ発育が悪いだけだー!」


「あ、そうなんだ……ごめんなさい」


「うぐぐ……火之神院むすび、お前に言われるとすごくムカつく……! いつもいつもマウントを取って!」


 大和は眉間にシワを寄せ、割と発育のいいむすびを睨み付けていた。


「あ、その表情、仔犬みたいで可愛い」


「えぇーい、またマウントか! このー!」


「まぁまぁ、二人とも……」


 ポピーッと頭から蒸気でも出てきそうな雰囲気の大和だったが、そういえばと明志の方へと視線を向けた。


「そっちの男子生徒は誰だ?」


「俺は田中明志、高等部一年だ。ダンジョン部の見学にやってきた」


「な、なにぃーっ!? ほ、本当に見学に来たのか!? このダンジョン部に!?」


「あ、ああ……。そのつもりだったんだが……他の部員はどこだ?」


 冷静に辺りを見回すと、部室は広いが荒れ果てていて、部員はどこにもいない。

 明らかにまともな状態ではないようだ。


「それは……他の部員は全員辞めていった。このままだとダンジョン部は数日後に廃部されてしまうのだ。これは話せば長くなるのだが――」


 ションボリとしながらも話を続けようとする大和を見て、明志は回れ右をして部室から去ろうとした。


「そうか、よし! 残念だが、本当に残念だが帰ろう!」


「逃がさないわよ、田中明志」


「う゛っ」


 むすびにガッチリとホールドされて、動けない状態になってしまった。

 大和は泣いているような仕草でチラチラと見つつ、そのまま過去回想を始めた。


「そう、あれは数ヶ月前――」


 ――当時のダンジョン部はまだ部員も百人近くいて、校内にある練習用ダンジョンを使って部活を行ったりもしていた。

 一年生だった大和はただの部員として参加していたのだが、ボス戦でスキルを暴発させるというヘマをしてしまい、ダンジョン部パーティーは敗走。

 それがキッカケとなり、部員は激減。残った三年も、卒業してしまったのだ。

 結果として、新入部員も入らず、大和一人だけになった。

 その後、広い部室ということでヤンキー集団に目を付けられ、占拠されていたのを、明志たちが追いはらったというわけである。


「そんなことが……。私が中等部の頃に聞いた情報は古かったのね……」


「人を集める努力はしたよ……。けれど、部員を勧誘しても、あたしはこんな弱そうな見た目だし、トゥイッターで募集してもイイネは0……」


「あら、おかしいわね。トゥイッターって適当なことを呟けば、イイネが1000くらい付くけど?」


「うぐぐ、またマウントか火之神院むすびぃ! この学校一フォロワー数を持つ人気者! そんなお前を研究して、フォロワー数を増やして部員募集に役立てようとしたけど、未だにあたしのフォロワー数は一桁だ~っ!」


 大和は、凝縮されたSNSの闇を瞳に込めて、むすびを睨み付けていた。


「も、もしかして、そんなことで私を目のかたきにしてたの……?」


「目の敵じゃない! ライバルだ、ライバル!」


 大和は怒ったチワワのようだったが、はぁ……とため息を吐いてクールダウンした。


「まぁ、それであたしは、部員をあと三人集めないと即廃部って言われてるわけだ……。数ヶ月頑張っても新入部員が0なのに、すぐ三人必要って、もう……無理ゲーだ」


 ガックリとうなだれてしまう大和。明志はその姿を、どこか妹と重ねてしまった。

 ついつい、癖で頭を撫でてしまう。


「一年の田中、これは慰めか……? どうせお前も以前来た見学希望者たちのように、この惨状を知って入ってくれないのだろう……」


 本当だったら、このまま理由を付けてダンジョン部に入らなくてもよさそうなのだが、なにか放っておけなくなった。

 明志はやれやれと、どうするか仕方なく決めた。


「俺がダンジョン部に入れば、残りあと二人集めるだけでいいんだな?」


「えっ!?」


「だから……俺がダンジョン部に入って、廃部を阻止してやると言ったんだ」


「ほ、本当!? お前は救世主か!? やったー!!」


 キラキラの笑顔を初めて見せる大和に対して、まるで妹を可愛がるかのようにフッと微笑む明志であった。

 それを横で見ていたむすびはスッと挙手した。


「私も入りまーす」


「えぇ~……。ナチュラルマウントの火之神院むすびがぁ~……?」


「な、なんかひどい言われようね……今日、初めて会ったばかりなのに……」


「まぁ、そしたらもう部長と平部員の関係! つまり、あたしの方が立場が上になるな! カーッカッカッカ!」


 また奇妙な高笑いをあげる大和に対して、むすびは疑問を口にした。


「その笑い方、なんか変じゃない?」


「へ、変とはなんだ! 生き馬の目を抜くトゥイッターで個性を付けるために、一生懸命に頑張って考えたんだぞ! 笑い声に個性があれば大人気って、マンガでも言ってたし!」


「……この子、色々と大丈夫かしら?」

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