特待生、初めての部活動でスキルを秘匿する

「カーッカッカッカ! 掃除も終わったし、互いの自己紹介でもするか!」


 すっかりキレイになった部室。

 机を固めて並べ、ホワイトボードも置かれている。

 明志、むすび、優友は椅子に座った状態で、胸を張って立っている大和を眺める。


「大和ちゃん、自己紹介なら大体終わってね?」


「おい、優友! 下の名前で呼ぶなんて馴れ馴れしいぞ! あたしのことは敬意を払って部長と呼べ!」


「え~。大和ちゃんだって、おれっちのことをすでに下の名前、優友って呼んでるし~……?」


「うぐっ……これは釣られてしまったのだよ。と、ともかく! 今回の自己紹介というのは、冒険者ならではの自己紹介――つまりスキルの紹介だ!」


 いつもの通りの気怠そうな優友に向かって、大和は腕組みして部長らしく振る舞っているのだが、幼女体型なので威厳はない。


「いいか? パーティーというのは互いの連携が必要なのだ。全員が持っているスキルを把握しておかなければ、十全には戦えんぞ」


「なるほど、俺もそう思う」


 明志はコクリと頷いた。

 実際、子どもの頃に見てきた父のパーティーも、全員のスキルを連携させて戦っていたのを知っているからだ。


「カーッカッカッカ! さすが明志、わかっているな! 部長ポイントを一点やろう! これが十点溜まると、あたしがなんでも言うことを聞く券と交換だ!」


「なんでもか……」


「本当になんでもだぞ!」


「……妹と遊んでもらう頼みとかいいな」


 明志は倹約家なので、ついでに付くポイント制に弱かった。

 少しだけ笑顔を見せながら、机の下で『よしっ』とポーズをしていた。


「――というわけで、まずは部長のあたしからスキルの紹介だ」


「「「おぉ~」」」


 三人はノリでパチパチと拍手をしてみた。

 大和はそれに少し照れながら、後ろにあった大きなスポーツバッグを、よいしょっと前に置く。

 そして、中から銀色の流線型の物体を取り出した。


「銀色の――新巻鮭あらまきじゃけ?」


「んなわけあるか! これはあたしの物質系スキルで作り出した相棒よ! ここまで育てるのは大変だった……」


「育てる? どういうことなんだよ~……?」


 これはスキルにあまり詳しくない優友が、頭に疑問符を浮かべてしまうのも仕方のないことだ。

 明志はいつものように説明した。


「普通、スキルというのは火を発生させたり、肉体を強化したりする、実体のない――その場限りのモノだ。しかし、物質系のスキルは違う。ゴーレムを作って使役したり、武具を作って装備したりできる」


「それでも、スキルを解いたらいずれ消えちまうんだろう?」


「消えないモノも一部ある。それが部長のスキルみたいだな。そうでしょう?」


 話を振られた大和は、明志の話に聞き入っていたのかワンテンポ遅れてハッとしてから腕組みしてふんぞり返った。


「み、見事な解説ご苦労だ。……その通り! あたしのレアカラー“ガンメタルシルバー”のスキルによって生み出されたのが、この相棒よ! 名付けて銀ちゃん!」


 そう言って大和は、銀色の流線型――“銀ちゃん”を腕に装着した。

 サイズ的に肘から手先より大きくて、小柄な身体が少し傾いている。

 どうやら見た目通りにずっしりと重いようだ。


「重い……しかし、この重みこそが十年以上かけて育て上げた証なのだよ!」


「あのあの、大和ちゃん。質問」


「なんだね、優友」


「育てるって、どんな感じに育てたのさ? 金属の塊だよね?」


「毎日金属粉を餌としてあげて、ひたすら磨いたのだよ。泥団子のように」


「泥団子」


 一応はレアカラーによって生み出された物なのに、泥団子と同等の扱いを受ける相棒の“銀ちゃん”。

 大和以外の視線が同情するような感じになった。


「お、おい。なんだその目は!? まぁいい……そして肝心のスキルがどんなモノかというと……えーっと……だな……」


「どうしたんですか、部長?」


 急にバツが悪そうになる大和だったが、なんとか言葉を続けた。


「殴ったり……できる……」


「あ、ロボットの腕っぽいし、ジェット噴射ですごいパワーが出るとかでしょう!?」


「い、いや……ただ殴るだけだ。それも練習中……」


 三人は、大和がダンジョン部を崩壊させた原因を思い出した。

 ボス戦でスキルを暴発させて――ということだった。

 全員が急に気まずくなり、突っ込みすぎた質問をした優友は、むすびにチョップを食らっていた。


「あ、あたしのスキル紹介は終わりだ。次はお前たちの番だぞ?」


「じゃあ、おれっちで。レアじゃない、よくあるカラーの“マホガニーブラウン”。……なんだけど、色々あって急に壁をぶち抜けるような石スキルになっちゃって、調整中なんだよな~」


「壁をぶち抜く……?」


 レアカラーでもないのに、異常に強力な石スキルの優友。


「えーっと、それじゃあ私で。レアカラー“クリムゾンレッド”で、炎スキルを使うわ。威力としてはバベルのモンスターに通用するくらいね」


「ば、バベル……」


 普通の口調で最強クラスとなったレアカラーを紹介するむすび。

 その二人との圧倒的差に、大和はあんぐりと開口してしまう。

 ギリギリで部長としての威厳を保っているが、もう一押しで崩れてしまいそうだ。


「残るは俺か……」


 明志のスキル紹介に、大和は若干、目を血走らせて凝視していた。

 周りにとっては些細なことでも、本人にとっては部長のメンツというものがあるのだ。


「俺のスキルは――」


 明志は“魔力調整”のことを言おうとしたのだが、ふと思い出した。

 このスキルは、あまり口外しない方がいいと念押しされていたことを――


「……スキルは……なにもない。ノーカラーだ」


「お、おぉ。そうか! お前もあたし同様、苦労しているんだな!」


 大和は仲間を見つけたかのようにパァッと明るくなり、明志に嬉しそうな表情を向けていた。

 そして、その小さな手で明志の手をギュッと握った。


「よし、気に入ったぞ! 平部員の明志……いや、今日からお前は副部長だ!」


「え……? 俺が副部長に?」


「そうだ! お前にはなにか人の心を掴むモノを感じたのだよ! その証拠にあたしの心も掴まれたぞ! カーッカッカッカ!」


 明志は左右の優友とむすびからも、祝福の言葉を受けた。


「やるじゃねーか、親友! いきなり副部長だってよ!」


「……田中明志、おめでとう。でも、なにか女の子に手を握られて嬉しそうね?」


 明志としては、三人からの言葉にどう反応していいかわからなかった。

 特に理由もなく副部長にされた気がしたからだ。


「よし! お前ら部員のスキルもわかったし、今日は解散とするか! 後日、ダンジョンに必要な装備でも一緒に揃えに行こう。副部長、お前の装備はあたしが直々に選んでやろう! 喜びたまえよー!」


 新しく仲間に加わった大和が満面の笑みで楽しそうなので、これはこれでいいかと明志は納得しておくのであった。


「明志たちには感謝してるぞ! これで、やっと念願の部活動ができるんだからな! カーッカッカッカ! 新生ダンジョン部の戦いはこれからなのだよー!」




 ***




 ――そして次の日の放課後、部室に集まった三人が目にしたモノは。


「……金剛大和がさらわれたですって!?」


「マジかよ、おい……。昨日、普通に話してたのに……」


 あまりに突然のことで驚いていた。

 荒らされた部室の中に置かれていたのは、一枚の書き置きだった。

 その内容は、不良グループにさらわれた大和を助けたければ、誰にも知られずに廃倉庫にやってこいというものだ。


「お、おい。どうする明志……? 差出人は不良グループのヘッド、鉄柄てつづかって奴だけど……。別名『殺人鉄拳の鉄柄』っていう、学校一の金属系スキルの使い手って噂だぜ……? さすがにこれは……」


 明志は躊躇せず書き置きをビリビリと破り捨て、こう言った――


「俺一人でも行くが――もちろん、ついてくるんだろ?」


 どうやら三人の気持ちは一緒だったようで、むすびはニコッと笑い、優友は仕方がね~な~とやる気がなさそうにしていた。


「楽しい部活動の始まりだ」


 明志たちは、大和を助けに廃倉庫へ向かうのであった。

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