特待生、金属系最強と噂のスキルを粉砕する

 廃倉庫の中、不良たちは時間を潰していた。


「このキャラおもしれ~」


 ゲラゲラ笑いながらマンガを読む不良や、


「よし、ドロー2にドロー2な」


「ばっか。おめーそれ、ルール変わってできねーよ」


 カードゲームで遊ぶ不良などがいた。

 どんな相手が来ても、二十人近くの不良がいるため楽勝モードなのである。


「今日もおれの愛する単車は美しいぜ~。……そういえば、今からやってくるカワイソ~な奴らって、どんなスキルを持ってるんだっけ?」


 廃倉庫の壁際で大事そうに改造バイクを磨いている不良が、そんな疑問を口にした。

 インテリの不良が、メガネをキラッと輝かせながら、それに答える。


「僕のデータによると、やってくるのは最大でも三人です。一人目は火之神院むすび。旧財閥令嬢のお嬢様で、中等部の頃のデータでは【炎LV3】の使い手……ですが、この人数なら平気でしょう」


「ぐへへ……お嬢様か。ぜひ、お近づきになりたいぜ」


「二人目は石土優友。こちら、中学の頃のデータでは、ハズレ属性の【土Lv1】ですね」


「ヒャハハ! ザコかよ!」


「三人目は田中明志。特待生……というのは、なにかの手違いかコネでしょう。東京冒険者学校に来る前のデータはありませんが、どうやらノーカラーのようですから」


「ノーカラーだぁ? ザコを通り越してモブだな! せいぜい、金を貢いでもらって、おれの可愛い単車の改造パーツ代の養分になってもらうかぁ!」


 廃倉庫の中で、『そりゃいいや』と下品な笑いがあがる中、壁にピシピシと亀裂が入った。


「え?」


 バイクをいじっていた不良がそちらに目を向けた瞬間――視界が吹き飛んだ。


「な、なんじゃこりゃあーッ!?」


 ダイナマイトでも爆発させたかのような轟音。

 壁、バイク、一緒くたに空中にバラ撒かれ、見るも無惨な姿になっていた。

 不良たちは、あまりのことに認識できなかった。

 それは外部からのスキル一撃によってブチ空けられた大穴だと。


「こんにちは~。ハズレ属性の土――ザコのおれっちで~っす」


 いつものように緩くやる気がなさそうな優友が、平然と大穴から現れた。

 そのまま不良たちの方に振り向き――


「【土Lv1】石つぶてストーンバレット


 壁をも砕く石の砲弾を連射したのであった。


「うぎゃあああ!?」


 直撃ではなく、手加減で足元に打ち込まれているが、不良たちは恐怖のあまり泣き叫びながら混乱していた。

 跳弾ならぬ跳石がビュンビュンと飛んできている。

 そこに長い髪をなびかせながら突進してくる、影のような存在が現れた。


「あ、新手の侵入者か!? けど、近付いてくればこっちのものだぜ!」


 不良は鉄パイプを構えたのだが――


「【炎LV3】火斬かざん


 炎によって、鉄パイプは一瞬で溶断された。


「ひっ!?」


「魔力のもっていない鉄くらい、斬れて当然よ」


 ニコッと笑う影――それは身体強化で、動きが目で追えない程に速くなっていたむすびであった。

 次々と、不良たちを峰打ちで気絶させていく。


「あぢぃぃぃい!?」


 ……峰打ちなのだが、刀身が熱くなっていて熱ダメージも与えているようである。

 素直に気絶できなかった場合は、何発か追撃を喰らっての地獄が待っていた。


「あら、ごめん遊ばせ?」


 むすびはお嬢様っぽい口調で可愛く、わざとらしい謝罪をした。

 数十人の不良が地面に倒れ伏していく。

 やがて、残ったのは不良一人となった。


「な、なんだテメェらは!?」


「俺たちは……部長を助けに来たダンジョン部だ」


 最後にやってきた明志が、鋭い眼光で言い放った。


「だ、ダンジョン部だと!? こんなに強いはずがねぇだろ……!?」


 不良は本能で、どんなヤバイ奴らを相手にしてしまったのかというのを感じ取ってしまった。震え上がり、倉庫の奥に逃げ込むのだが――


「ほう、やっと来たか。……どうやら、随分と派手にやってくれたじゃねーか」


「て、鉄柄さん!」


 不良は、奥から現れた大男――鉄柄に押しのけられてしまった。

 その拍子にこけて、ジロリと鉄柄に睨まれた。


「それで、お前ら全員……ノコノコやられちまったのか……?」


「で、ですが鉄柄さん、コイツら強くて……」


「あぁん? 強い? 強いだぁ? オレの“コレ”よりも強いっつーことかぁ!?」


 鉄柄は鬼のような表情でスキルを発動――金属の鎧に包まれた拳で、不良を豪快に殴りつけた。


「ぐぎゃッ!?」


 吹き飛んだ不良は壁にビタンと当たり、そのまま落下してピクピクと痙攣していた。


「さてと、オレがテメェら三人をまとめて相手にしてもいいんだが――」


 鉄柄がそう言うと、後ろから不良に拘束された大和が現れた。


「あ、あたしのことはいいから逃げろ!」


「金剛大和――コイツは人質だ。つまんねぇバトルをさせねぇためのなぁ」


 大和がジタバタするも、拘束している不良との体格差でどうにもならないようだ。

 それを見ていたむすびが、大声で抗議をした。


「人質なんて卑怯よ!」


「あぁん? 卑怯でもオレが楽しければなんでもいいんだよ。主導権を握っているのはこっちだ。条件は二つ、『逃げるな』……それと『一人選んでタイマンで勝負』……ってところだな。テメェらを一気に蹴散らしちまうとつまらねぇからなぁ」


 自信満々に言い切る鉄柄を見て、むすびと優友は一対一でも勝てる気がしてきた。

 二人のスキルの威力は五分か、それ以上なのだから。

 しかし、明志はその考えを見抜いて止めに入った。


「鉄柄という男のスキル、アレは二人とは相性が悪い」


「え?」


「金属の鎧で、石つぶてを弾き――」


「じゃあ、私の火斬の熱で!」


「いや、あの鎧の特殊な形状。アレはたぶん廃熱機構だ。火斬の熱をも通さない可能性がある」


 明志が指摘した機械のような鎧の形状。たしかに各部が開き気味の鱗のようになっていたり、後方にダクトやパイプが見えていた。


「ほう、オレのスキルを一目でそこまで見抜くか。だが、コイツの本来の目的は防御と耐熱程度じゃねぇ。あまりのみなぎりすぎるエネルギーが! パワーが! つい腕を熱くしちまうのさ……!」


 凶暴な獣の嗤いを見せる鉄柄を、明志が冷静に見据える。


「そうか。それはすごいスキルだな。――それなら俺が適任だ」


「はぁ?」


「俺がタイマンをしてやると言っているんだ」


 相手の強さを分析して、なおも一歩前に出る明志。

 信じられないという表情でそれを見る鉄柄と大和だった。


「ノーカラー、お前頭がおかしくなっちまったのか?」


「よ、よせ副部長! もう、あたしのことは放っておいて逃げろよぉ!」


 泣き声に近い大和の叫びが廃倉庫内に木霊こだましても、明志は歩みを止めない。


「部長、ダンジョン部を復活させたいんですよね?」


「そ、それは……もう諦めた……。あたしなんかにできるわけなかったんだ……」


「自分のせいで部員が抜けてしまったあとも、他の部員が全員いなくなったあとも――ずっと頑張ってきたって言ってましたよね?」


「そんなの……ただの後ろめたさがあっただけだよ……。他のみんなみたいに特別でもない、ザコのあたしが部長とかムリだったんだ……。今だって、ほら、また足を引っ張ってる……」


 明志の問い掛けに対して、大和はすべて否定の言葉で返していく。

 しかし、明志は進む。相手の気持ちの中にまで手を差し伸べるように進み続ける。


「そんなのどうだっていい。ただ自分のしたいことを言ってください。……そうやって部員を信じてくれたら、副部長の俺が――それをやり遂げます、絶対に」


「自分の……したいこと……」


「部長、あなたはどうしたいんですか?」


「あ、あたしは……」


 大和は、心の中を見抜かれたような感覚に陥り、気持ちが、熱が溢れ出そうになっていた。

 金属のような硬い否定の壁を作っても、明志はすぐに溶かしきってしまう。

 大和がずっと望んできた答え、それが自然と口から出てしまう。


「――ダンジョン部をやりたい……! あの頃みたいに、いや、あの頃以上にすごい部活にしてやるんだ! だから……だから……」


 大和の目には大粒の涙が溢れていた。


「この不甲斐ない部長を助けてくれ!! 田中明志!!」


「わかりました――……全力で助けます」


 明志は、ただ右拳を握って、一発で勝利するかのような腕を掲げるポーズを取った。

 それを見ていた鉄柄はこめかみに血管を浮き上がらせて、ピクピクと怒りの表情をしていた。


「おい、おいおいおい? 黙って聞いてりゃあ、ノーカラーが金属系最強のオレとタイマン貼ろうってのか?」


「最強? 笑わせるな。俺は、お前より強い金属系を山ほど知っているぞ」


「テメェ、挑発のつもりか!? 舐めやがって……ちょっとわからせてやるくらいのつもりだったが、気が変わった。全身の骨をバキバキに折ってやるぜ」


 巨体の鉄柄が明志の前に立つと、とてつもない体格差が目に見えていた。

 たとえるのならクマを相手にした人間である。

 しかも、そのクマのような鉄柄が、金属の機械鎧に包まれていて、恐ろしいパワーで殴りかかろうとしていた。


「オラァ! 起きたら病院のベッドの上だぜェー!」


「そうか。お大事に・・・・――!」


 明志に対して、鉄柄の殺人鉄拳が凄まじい速度で打たれる。

 その威力はドラム缶を軽く破裂させるものだ。

 しかし、明志も逃げずに、そのまま右拳でストレートを放った。

 狙うは互いの拳と拳。

 凄まじい音が鳴り響いた。


「グアァァァアアアアアア!?」


 ぶつかり合い――情けない悲鳴があがった。

 その悲鳴は予想に反して明志ではなく、鉄柄の方だった。

 外側の鋼鉄の鎧が砕かれ、中の拳と腕がひしゃげ、すぐに骨が砕かれているとわかった。

 鉄塚が言っていた『起きたら病院のベッドの上』というのは、ある意味正しかった。


「スキルに頼りすぎだ。バイトで身体を鍛えた俺の方が……素のパワーが上だったな」


 それは明志がインパクトの瞬間に“魔力調整コンダクター”を使って、殺人鉄拳を無効化して――ただ思いっきり殴っただけの結果だった。

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