第三章 廃部阻止のため、ダンジョンを超速クリアせよ!

特待生、ダンジョンの超速クリアを提案する

「良く聞け部員共、このままだと廃部することが決定した」


「は?」


「決定しました、マジで……」


 放課後、ダンジョン部に集まった四人。

 そこで部長の金剛大和から発せられた一言が――“廃部”だった。

 白目を剥きながら口から魂がはみ出ている大和に、明志は冷静に質問をした。


「部長。部員が四人になったから、廃部は避けられたのではないのか?」


「そ、それがね、それがねぇ~……」


 ザコメンタルモードになった大和は涙目で語り出した。


「部員数による廃部は免れたけど、最近のダンジョン部としての実績がないから、このままだと廃部確定に……」


「なるほど。その日の米は確保したが、電気もガスも止まっている状態みたいなものか」


「その貧乏たとえは良く分からないけど、とにかくピンチなの……もうダメだぁ~……」


 コテン……と死んだように倒れる大和に、優友が珍しくまともな質問をした。


「大和ちゃん、廃部までの期限と、具体的にそれを回避できる実績は提示されなかったのかい?」


「んぇあ~? ……廃部までの期限は一週間……ふふへへ……。それを回避できる一番簡単で……ぜんっぜん簡単じゃない実績が、学校の練習用ダンジョンをクリア……ふへふへ……」


「うーん、つまり一週間で練習用ダンジョンをクリアすればいいんだろう? よく知らないけど、なんか簡単そうじゃね? 練習用って名前だしさ」


 そこで、それまで口をつぐんでいたむすびが、顔面蒼白で叫んだ。


「そ、そんなの無理に決まってるでしょー!!」


「うわっ、ビックリした……。むすびちゃん、急になんだよ~?」


 むすびは張り詰めた表情で、指をビシッと立てて説明し始めた。


「いい? 練習用ダンジョンは安全が確保されているとはいえ、この学校の在学中にクリアできればいいという難易度よ? そりゃ、プロ冒険者からしたらなんとかなるでしょうけど、私たちはただの学生冒険者……。数年分を、一週間に縮めろって言っているようなものよ……!?」


「あちゃ~……。それはきついっぽいな~」


 普段は楽観的な優友でさえ、その説明で渋い表情になってしまった。

 ザコメンタルの大和も、現状を説明されてさらに絶望を感じ取り、ゾンビのように倒れてうめき声をあげていた。


「あう゛ぁ~、お終いだぁぁぁあ~……」


「……いや……その条件ならクリアできる」


「「「え?」」」


 明志が呟いたあり得ない言葉に、三人が一斉に反応した。


「ふ、副部長……今なんて……!?」


「田中明志、一週間でクリアできるって本当なの!?」


「親友、さすが親友! 信じていたよぉ~!」


 その反応を不思議そうに見ながら、明志は提案をした。


「みんなが、少しだけ頑張ることが要求されそうだが……三日あれば十分だろう」


「「「三日!?」」」


 学生が数年かけて攻略する練習用ダンジョン、それを一週間でも常識では考えられないのに、さらに短縮して三日でクリアすると告げた。

 普通なら無理と一蹴される言葉なのだが、それでも三人は明志ならやってくれるかもしれないと信じられた。


「さすが私の恋人ね……! やっぱり、私たち二人がパーティーを組めば無限の可能性が――」


「いや、俺はパーティーは組まないが?」


「は?」


 思わぬ否定をされたむすびは口をポカンと開けているが、明志はいたってマジメだった。


「俺は妹のために、危険なダンジョンに入ってケガをしたくない。今回は外でサポートするだけだ」


 それを聞いて泣きついてきたのはむすびではなく、意外にも大和だった。


「副部長ー! お願いだから一緒に来てくれぇぇぇ!」


「むぅ……、部長……」


 部長に抱きつかれた形になっている明志は、身長と体重が似通っている妹をイメージしてしまった。

 大切な家族である妹が、こんな感じで泣いて困っていたら……と。


「し、しかし妹……ではなく、部長。俺の硬い意思は崩すわけにはいかないので……」


「――そうだ副部長! なんでも言うことを聞いてやるというアレ! たしか小学生の妹の友達になってほしかったんだよな!」


「は、はい……。妹は友達がいないので……」


「ならば、パーティーを組んでくれれば、オプションで……その……あの……なんだ……。ら、ランドセルを背負ってやろう!」


「ッ!?」


 大和、苦渋の決断だった。

 小学生の友達というロールプレイを深めるために、高校生がランドセルを背負うという屈辱のプレイ。

 ザコメンタルの大和は頭がフットーするくらい恥ずかしかったが、それでも我が身を生贄に捧げる事によって、ダンジョン部の廃部を回避できるかもしれないのだ。

 大和は、チラッと明志の顔を上目遣いで眺めた。


「くっ!? ……部長。わかりました……そこまでの覚悟がお有りとは……」


「えっ? なんか恋人の私のときと、部長とでリアクションが違いすぎない?」


 むすびが禍々しい嫉妬を込めた眼で抗議をしてくるが、当たり前のようにスルーされた。


「部長……ただし、パーティーを組むのは、練習用ダンジョンの中だけという条件でお願いします」


「うん、わかったよ! あたしは“どこぞのお嬢様”と違って、わがままクソ野郎じゃないから!」


 そう言い放つ、素晴らしい笑顔の大和だった。

 その後、大和とむすびが取っ組み合いのケンカになったが、明志と優友の男二人は、それを横目に三日間クリアのスケジュールを組み始めたのだった。

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