特待生、ダンジョン装備を選ぶ
ブロックルの店“迷宮永住権”の中も、ダンジョンのイメージとは程遠い近代的なものだった。
テントなどが置いてあり、大型キャンプ用品店そのものだ。
「それじゃあ、まずはこのコーナーで買い物を――」
「あ、私は装備揃ってるから、別のところを見てくるわね」
「ああ、わかった、むすび。あとで合流しよう」
むすびは別行動となり、店の奥の方へと行ってしまった。
明志は気を取り直して、優友と大和とともに買い物をすることにした。
「なぁ、親友。おれっちわからないんだけど、どうしてダンジョンに潜るのにキャンプ用品なんて見てるんだよ? 武器とか防具とかじゃねーの?」
それは――と明志が答えようとしたのを遮って、大和がドヤ顔で割り込んできた。
「優友ぉ~! お前、そんなこともわからないのか~! しょうがないからあたしが! このダンジョン経験者のあたしが! 教えてやろう!」
「おぉ~。大和ちゃん、たのんます」
「そもそも……どうして、こんなキャンプコーナーに来ているかというと――」
「というと?」
「おやつタイムのときに、現地で作れると三倍美味しいからだ!!」
「なるほど! たしかに現地で作るおやつとかって、美味しいよね! 焼きマシュマロとかさ!」
なにか盛り上がっている大和と優友に対して、明志は真顔で突っ込んだ。
「違う。ダンジョンに二泊三日することになるから、現地で寝泊まりするための装備だ」
それを聞いて大和は一瞬フリーズした。
ダンジョンは日帰りの浅い経験しかないため、そういう発想が抜け落ちていたのだ。
しかし、部長としての威厳があるために、ザコメンタルを振り絞って復活する。
「そ、その通りだ副部長! あたしは知っていたが、お前の知識を試したのだ! それにこうやってわざと間違った知識をワンクッション入れた方が、優友の方も理解が深まるしな? カーッカッカッカ」
「一理あります。さすが部長、俺も見習わなければ」
意外にも明志は、素直に言葉を受け取った。
それを見た大和は、明志の純粋すぎる心に、汚れきったザコメンタルを浄化されて死んだ。
「あ、大和ちゃんが縮こまってしまった」
「部長の手を患わせるまでもない。俺が優友に説明していく」
「さすが親友だな。こういうのにも詳しくてすごいぜ!」
まずはテントコーナーにやってきた。
寝泊まりするための基本アイテムである。
ダンジョンの休憩場所にはモンスターが来ないため、冒険者たちは普通のテントを使っている。
ただし、テントを地面に固定するペグが刺さらないところもあるので、そこは注意しなければならない。
「へ~。結構、種類があるんだな~」
「俺、むすび、優友、部長の四人だから、少し大きめのを選ぶか」
「いやいや、そこは男女で分けようよ……。あ、おれっちと明志のテントは格好良いのにしようぜ!」
そのテントの下に敷くグランドシートもセットで買っておくことにした。
中で寝るときに使う寝袋と、寝心地を良くするためのマットも必要だ。
「枕が変わると寝られないタイプだから、おれっち自分の枕を持ち込むぜ」
「俺も」
あとは折りたたみ式の椅子やテーブル、料理をするためのバーナーやコッヘル等々――残りのキャンプ用品を揃えていった。
「なんか、こういう細かいのを揃えるのって楽しいな!」
「……俺としては、金が飛んでいくことに恐怖を覚える」
「あ~、親友は倹約家だったね」
「特待生だから、それなりの金額は支給されているが、本当なら全額貯金して妹のために使いたいくらいだ……。消えていく諭吉グッバイ……」
意外とキャンプ用品は高いので、これも学生がダンジョンに泊まりで潜りに行かない理由の一つかもしれない。
もちろん、明志のように詳しい人間がいなければ、選ぶ手間も大きいが。
「さてと、次は俺たちが身につける装備だ」
「お、待ってました!」
明志たちは、『武器、防具はこちら』という案内板を頼りに、店の奥へと進んでいく。
徐々にキャンプ用品の牧歌的な雰囲気は消え去り、武具の殺伐としたエリアが見えてきた。
「うひょ~! なんか男の子って感じで燃えてくるな!」
「こういうのが好きなのか、優友は……。あたしはもうちょっと可愛い感じのがいいなぁ……」
陳列棚に飾られているのは、剣、槍、短剣、斧などの近接武器だ。
防具はマネキンに装備されていて、種類は近代的な樹脂製のプロテクターや、ダンジョンの素材を使った中世ファンタジーのような鎧兜などがある。
「すげぇ品揃えだぜ~!」
優友がキョロキョロと目移りさせていたが、いちいち広い店内の装備を見ていたら日が暮れてしまう。
そのため、明志は声をかけて話を先に進めた。
「それじゃあ、優友の防具から選んでいくか」
「うーん、おれっちはどんな装備を選べばいいんだろう……?」
「基本的には、自分の戦闘スタイル……スキルに適した装備だな」
その言葉に、優友は自分のスキルをイメージした。
手から“
必然的に、敵との距離が離れた状態になる。
「……ってことは、おれっちだと防具はあまりいらない?」
「いや、スキルの拡張性を考えて、優友だと頑丈な防具がオススメだ。あとはなにか武器……。そうだな、メイスなんていいかもしれない」
「うん? 親友、おれっちの戦闘スタイルは遠くから撃つ感じじゃね? スキルの拡張性ってなんだよ?」
「そうだな……強いて言うのなら……」
「言うのなら……?」
明志は真顔で、言葉を選ぶように間を空けながら言った。
「勘だな」
「勘」
優友と大和は、その一言に呆然とした。
「ははは……お前でも冗談を言うんだな」
ダンジョンで大切な装備、しかも三日で初心者ダンジョンをクリアしなければいけないというときに、この明志が冗談を言うのかと思ってしまうのも当然である。
しかし、明志は冗談を言っていなかった。
「こういう時の俺の勘は大体当たる。優友に“魔力調整”を使えると確信したのも勘だ」
「えぇ……!?」
「もしかしたら、俺の勘はスキルなのかもしれないな」
「マジか」
「これは冗談だ」
「あまり表情が変わらないからわかりにくい」
明志は、優友に試着させてから決めようと思っていたため、気配を消して隠れていた店主のブロックルに呼びかけた。
「試着していいか? ブロックルのじっちゃん」
「コッソリ見ていたのに、まさか気付いているとはのぉ」
「魔力の流れで見えている。それと、店の中を飛び回る、なにかも」
「ほう……。魔力とな。それでワシの手伝いをしている風の精霊も見えるわけじゃな。父親と似て、凄まじい才能の持ち主じゃ」
ブロックル一人で、この大きな店を経営できているのは、普通の人間には見えない風の精霊を使役しているためである。
それを明志は、魔力の流れを見ることによって感知していたのだ。
「いや、そんなことより試着したいんだけど……」
「いいぞいいぞ、どんどん試着せい。レジェンド装備でもあるまいしな。その代わり、面白そうだからワシにも見させてもらうがのぉ」
「いいけど、その分値引きとかしてくれると嬉しい」
「ホッホッ、ちゃっかりした性格に育ったのぉ」
その二人の会話に、優友と大和は次元が違いすぎて置いてきぼりを食っていたのであった。
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