特待生、ヤンキーたちに勝手に恐れられてしまう

 明志とむすびは、ダンジョン部の部室前までやってきていた。


「いい? 田中明志。この東京冒険者学校のダンジョン部は由緒ある部活で、なんと部員は百人近くいると言われているわ」


「百人も……。たしかに部室の外からでも、それくらい大きな部活だとわかるな」


 賑やかそうな物音が聞こえるし、部室自体の面積も広そうだ。

 中では大勢が部活に勤しんでいるのだと想像できる。


「それをまとめ上げるのは、部長の“金剛大和”! どんな人かは知らないけど、名前的に身長二メートルくらいの大男だと思うわ」


「たしかに百人近くの屈強な冒険者を統制するのなら、それくらいの奴じゃないとだな」


「さぁ、見てなさいよ! ここから私たちの冒険が始まるのよ!」


 むすびは期待に胸を膨らませて、ドアをガラッと勢いよく開けた。

 しかし、そこには――


「……!?」


 ヤンキー集団がいた。

 彼らはヤンキー座りをして、いかにも“!?”な表情でたむろっていた。

 口にタバコを咥えたり、酒を飲んだり、およそ現実世界とは思えない光景だ。

 むすびはソッとドアを閉じた。


「異世界と繋がっちゃったかな?」


「すごいな。この時代で、しかもエリート校にヤンキーがこんなにいるなんて。……一応確認するが、場所はあってるんだよな?」


「あってる……はずよ。も、もしかして、なにかのコスプレ大会かもしれないわ……。冒険者ならそれくらいの遊び心も必要ですものね……」


「もう一度ドアを開けて、挨拶でもしてみたらどうだ?」


「そ、そうね……そうよね……アイサツ、ダイジ……」


 少しカタコトのむすびは深呼吸をしたあと、意を決して再びドアをガラッと開けた。

 ――するとそこには、ヤンキー集団に向かって土下座をする幼女がいた。


「なんでもしますから、もう許してください……」


「あぁ~ん? 今、なんでもっつったかぁ~?」


 むすびはソッとドアを閉じた。


「この学校、大丈夫かしら?」


「お前が言うか」


 明志はため息を吐いたあと、フリーズしているむすびを横にどかして、ドアを開けた。

 もう埒があかないと思ったのと、一人だけいた幼女が心配になったのだ。


「こんにちは、部活の見学に来ました」


「んだぁオメェ!? ここは一般人立ち入り禁止だぞォ!」


「ぶっ殺されてぇのかオラァ!?」


「コイツらテンション高いな。スキルで“狂戦士”でも使ってるのかな? もしかして……素か?」


 明志の皮肉に、ヤンキー集団は眉をピクピクとヒクつかせた。


「んだとぉ!? バカにしやがって――」


「ちょ、ちょっと待て! アイツの後ろにいるスケ、火之神院むすびだぜ!?」


「ひぃっ!? ってことは……もしかして、あの男は付き合ってるって噂の特待生か!?」


 どよめくヤンキー集団。

 なぜか付き合っている噂になっていて、明志は少し恥ずかしくなってきた。


「あの中等部で裏番をやってた、クレイジーな火之神院とカップルになった野郎だ……。絶対に激ヤバだぜ……!? ヘッドもいないし、ここはずらかろうぜ!!」


「おう! あの男も頭とスキルがおかしいはずだ!」


 ヤンキー集団は一目散に逃げ出したのであった。

 明志は、なぜか笑顔が怖いむすびに声をかけた。


「クレイジーな火之神院」


「クレイジーじゃないわよ……? 中等部でちょっとケンカの仲裁をした程度で、なんか変な呼ばれ方をしたみたいだし。それはともかく、アイツらの頭髪をちょっと焼いてくるわ」


「……それは俺がいないときに頼む」


 ヤンキーの方が正しいのでは? と思いつつも、明志はむすびをなだめてから、本来の目的であるダンジョン部の部室に入っていった。

 中に残っていたのは一人だけ――先ほどの土下座をしていた幼女である。

 幼女は、火之神院の顔を見るとビクッとした。


「ひっ」


「なんで初等部の子がこんなところに……? 百人近くいるダンジョン部の部員はどこかしら? 部長さんとかいれば話が早いんだけど……」


「く、くくく……」


 すると突然、幼女が含み笑いを始めた。


「な、なに? どうしたのかな、お嬢ちゃん……?」


「カーッカッカッカ! やはり火之神院むすびだな! いつも通り、その目は節穴だ!」


「ん? どこかで知り合ってたかな?」


「ああ、知っている。すごく知っているとも!」


 幼女は小声で『トゥイッターで知ってる』と挟んでから、声を大にした。


「我が永遠のライバル火之神院むすび! ようこそ! 我がダンジョン部へ!」


「え……?」


「なにを隠そう、あたしが東京冒険者学校高等部二年、金剛大和だ! カーッカッカッカ!」


 少し前まで土下座をしていた幼女――金剛大和が少し変わった高笑いをしてふんぞり返っていた。

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