第十八話(二)
人間世界の
さて
「今度は……。あれは一体何だね? 見たことも無い化物だ!」
「この鼓膜を振るわす雄叫びはかなわん! 気が変になってしまうぞ!」
否、断じて蝉であり、やはり虫は虫である。
逐一読者に
単に蝉と云ったところが同じ物ばかりではない。人間にも油野郎、みんみん野郎、おしいつくつく野郎があるごとく、蝉にも油蝉、みんみん、おしいつくつくがある。油蝉はしつこくて行かん。みんみんは
これは夏の末にならないと出て来ない。
ついでだから博学なる人間に聞きたいがあれはおしいつくつくと鳴くのか、つくつくおしいと鳴くのか、その解釈次第によっては蝉の研究上少なからざる関係があると思う。人間の猫に
もっとも蝉取り運動上はどっちにしても差し支えはない。ただ声をしるべに木を上って行って、先方が夢中になって鳴いているところをうんと捕えるばかりだ。
されど木登りにしろ石壁登りにしろ、一見すると簡略な運動に見えてなかなか骨の折れる運動である。吾輩は四本の足を有しているから大地を行く事においてはあえて他の動物には劣るとは思わない。少なくとも二本と四本の数学的
飛ぶ間際に
それは余事だから、そのくらいにしてまた本題に帰る。
しかしおしい君に関しては特筆すべき事もあまりない。おしいつくつくの金切声と飛ぶのと小便をしょぐってくるのを除けば吾輩にとっては
蝉取りの妙味はじっと忍んで行っておしい君が一生懸命に尻尾を延ばしたり縮ましたりしているところを、わっと前足で
だが此度ばかりは少々大なる故にいずれも味わうこと叶わなかった。
まっこと残念至極である。
◆◆◆
さて吾等勇者様御一行はまたもや難敵を退け行軍を
今度は誰れもがそうと気付いた。
あれこそが魔王の居城ではあるまいかと。
「いよいよもって決戦となりましょう。皆用心めされよ」とウインド。
「必ず勝って帰ると誓いましたから、あの方に」
コルドーが静かにそう云うとトジュロー君の脳裏には鼻王めの告げし最後の
「吾等の手で終わらせようぞ、この無益な争いを。太平の世を取り戻すのだ」
そして四人と一疋は今一度互いを見つめて、しっかと
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