第十二話(一)
忍び込む度が重なるにつけ、探偵をする気はないが自然鼻王一家の事情が見たくもない吾輩の眼に
鼻王が顔を洗うたんびに念を入れて鼻だけ
近頃は門番の横をこっそり通り抜けて、石塀の陰から見上げて石窓が開け広げれられて物静かであるなと見極めがつくと、
おや、見知った滑らかな顔がおるではないか。
あれはトジュロー君に相違ない。だが随分と覇気の感ぜられぬ
「あの……。昨日の件で再び参ったのですが、王様の
「本心? どういう意味かね」
「あの猫様を魔王討伐に向かわせると
「無論だ云ったとも。ああ云ったな」
吾輩が魔王討伐に?――鼻王の奴、乱心したのではあるまいか。少なくとも正気ではない。
「勇者が勇者たる確かな
「ですが――猫ですよ!
「只の猫が
「だからと云って無闇に魔王討伐に担ぎ出すと云うのは感心しません」
「同じ猫でも勇者猫たれば必然と云うもの」鼻王一向に採りあおうとしない
「それよりやっぱり神社の拝殿へ彫り付けられてる方が無事でいいと思いますが」
「何が
「真の勇者を召喚すべきかと進言します。
「それがおいそれと出来んから云うておるのだろうに」
鼻王はげんなりとした顔付をして見せた。それから鼻を
「パートロクロスと云えば死んだそうだな。気の毒だ、いい腕の男だったが惜しい事をした」
「さぞ腕は善かったのでしょうが、老いからは
「腕は善かったが、飯を
「
「
「お怒りになったでしょう」
「ところがそうでもない。腹くちくなったのであれば結構などと抜かしおってさっさと割れ欠けを焚火の内に放り込んで燃してしまって素知らぬ顔を極めこんでおる。大した逸物だよ」
「ははあ。左様で」
いよいよもって吾輩はトジュロー君の事が気の毒になってきた。この様子ではいつまで嘆願をしていても、とうてい見込がないと思い切ったトジュロー君は突然かの偉大なる頭蓋骨を石床の上に
「やはりお考え直しいただけませぬでしょうか。あまりに無謀で無体です」
「またぞろ勇者猫の
「願わくばお
「そんな論理がどこの国にあるものか」
「なければ隣国から都合して貰えばいいでしょう」トジュロー君は自棄になって言い返す。
「君は先日大賛成だったじゃないか。今日はいやに軟化しておるぞ」
「軟化なぞしておりません、僕は決して軟化しておりませんがしかし……」
「しかしどうかしたんだ。なあトジュロー、君も城仕えの末席を汚す一人だから参考のために言って聞かせるがね。あのマダナイ
「それはそうですが――」
「君がそうまで
鼻王はいよいよもってトジュロー君の心の臓に狙いを定めたようだ。
「あの旧友たる女神官クシュンの事を
こうなってはトジュロー君を
じきトジュロー君は無言のまま
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