第七話(二)
例によって城内へ忍び込む。
例によってとは今更解釈する必要もない。しばしばを
一度やった事は二度やりたいもので、二度試みた事は三度試みたいのは人間にのみ限らるる好奇心ではない、猫といえどもこの心理的特権を有してこの世界に生れ
忍び込むと
確かにこれは猫の良心に恥ずるような
元来吾輩の考によると大空は万物を覆うため大地は万物を載せるために出来ている――いかに執拗な議論を好む人間でもこの事実を否定する訳には行くまい。さてこの大空大地を製造するために彼等人類はどのくらいの労力を費やしているかと云うと
しかし猫の悲しさは力ずくでは到底人間には叶わない。強勢は権利なりとの格言さえあるこの浮世に存在する以上は、いかにこっちに道理があっても猫の議論は通らない。
「おい、何か通らなかったか」
「うんにゃ。知らんね」
今日はどんな
おや、御客さんがこちらを見おった。春風もああ云う滑かな顔ばかり吹いていたら定めて楽だろうと、ついでながら想像を逞しゅうして見た。吾輩は人間の美醜を見極める術を持ち合わせてはおらんが、極めて普通である。
「……それで
と鼻王は例のごとく横風な
「なるほど彼女等とは共に学んだ仲ですので――なるほど、よい御思い付きで――なるほど」
となるほどずくめのは御客さんである。
「ところが何だか要領を得んのだ」
「ええ、ラビリスが相手じゃ要領を得ない訳です――あの娘は私がいっしょに学んでいる時分から実に喰えない――そりゃ御困りでしたでしょう」御客さんはくつくつと笑いを堪える。
「いや御話しにもならん。何か尋ねればまるで教師と生徒のように振舞う。儂は王だぞ」
「それは怪しからん訳で――一体少し学問をしているととかく慢心が
「いや、まことに言語同断で、ああ云うのは必竟世間見ずの我儘から起るのだから、ちっと懲らしめのためにいじめてやるが好かろうと思って、少し
「なるほどそれでは大分答えましたろう、全く本人のためにもなる事ですから」と御客さんはいかなる当り方か
「あのラビリスって女はよっぽどな酔興人だな。役にも立たない嘘八百を並べ立てて。儂はあんな
「あいかわらず
御客さんは苦渋を呑んだかのごとく
「そこでだトジュロー、今日わざわざ君を招いたのはだね」としばらく途切れて鼻王の声が聞える。「ちょっと君を煩わしたいと思ってな……」
「私に出来ます事なら何でも御遠慮なくどうか――
いやだんだん事件が面白く発展してくるな、今日はあまり天気が宜いので、来る気もなしに来たのであるが、こう云う好材料を得ようとは全く思い掛けなんだ。御彼岸にお寺詣りをして偶然
さて、鼻王はどんな事を客人に依頼するかなと、石窓から耳を澄してなお聞いてみる。
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