最強の蝙蝠、ここに見参!!!


 飛び出したのは漆黒の蝙蝠、大きさは手に乗るほどだ。その蝙蝠は…

 

「ちょ…ちょ、なに!?くすぐったいよ!!あひゃあ!?」


 僕の服の中に飛び込んできた。お腹や背中など服の中を縦横無尽に暴れまわる。

 しかも、言った先で甘噛みしてくるものだからくすぐったくてたまらない。

 

「あひぃ!?ちょ…まって!!ねぇ!?」


 服の中に手を入れて引っ張り出そうとしても背中の方は見えないし、上手く捕まえることができない。

 さっきまで流れていた甘ったるい空気は完全に消え失せていた。

 

「サクヤ!サクヤ!助けて!!」


 近くにいるサクヤに助けを求めてみても…

 

「おへそおへそおへそおへそ…かわいいおへそ舐めまわしたいおへそ、おへそを中心として渦巻き状に舐めていきたい…ていうか上の先っぽ見え…見え…」


 あ…蝙蝠が暴れまわるせいで服がギリギリのところまでまくりあがっていた。

 サクヤはもう…呪詛の様なものを唱えていた。

 

「サクヤ!!!サクヤ!!ねえ、はう!?」


 蝙蝠はみぞおちのあたりを中心に甘噛みを始めた。ちょっと、このままいくとヤバいかもしれない。

 

「サクヤ!やばい!早く!サクヤァ!!」

「は!?ごめん!今助ける!!」


 そんな様子に気付いたのか、サクヤも正気を取り戻して…取り戻して…あれぇ?

 

「サクヤ!!違う!!ズボンの中には何もいないって!?上のシャツの中!!」

「はぁっ…はぁ…ここに隠れてるのかしら…」

「違う!!そっちじゃないから、サクヤぁああ!!!!」


 もうサクヤは僕の腰元から手を突っ込んで太ももを揉みしだいていた。羽根がこすれてくすぐったさも倍増だ。力が抜けていく。

 四面楚歌だ。もう自分一人で戦うしかない。腹筋に力を込めて、くすぐったさを跳ね返す。右手でサクヤの侵入を防ぎながら、左手で悪戯蝙蝠を探す。

 幸い蝙蝠も動きが鈍ってきたようで、何とか捕まえて服の外に出すことに成功する。

 

「どおりゃああああ!!!」

 

 捕まえた蝙蝠を投げ飛ばすと同時にサクヤも振り払う。その時にビリッィイイイ!!僕のズボンの股の部分が破れる。そりゃそうだ、サクヤが思いっきり掴んでたんだからな。

 

 振りとばしたサクヤはズボンの切れ端とともに地面へ、投げ飛ばした蝙蝠は…あれ、煙とともにその姿を女性のそれへと変えていた。


「ふん、よくぞ我を振り飛ばしたな…貴様の汗…堪能させてもらったぞ」


 現れたのは黒髪長髪の女性。首から上だけを見ると完全に高貴な令嬢といった感じなのだが…首から下は残念なことに裸にマントという姿だった。

 へ、変態だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 しかも、この人僕の体を甘嚙みしてたのかて…い、いや考えない様にしよう。

 こういう変態は相手しないに限る。

 

「我は最強の吸血鬼!!クロスアルメカ・ブラッドルグラスその人である!!」


 自己紹介はじめちゃった。急いでこの場から逃げたい。

 サクヤを連れてしれっと帰ろう。

 

「サクヤ…サクヤ…今日は帰るよ」

「んふふ…この布切れいいにおいするわ…は!?これで私の口を抑えれば息もしにくく酸欠状態になれて、入ってくる空気もこの最強フィルターを通した最強の空気になるわ!!シュコーー!シュコー!」


 サクヤはサクヤで僕のズボンの切れ端で酸欠プレイを楽しんでいた。

 そっちはそっちで後ろを振り返れば…

 

「少年、私の眷属になる気は無いか?いや、結婚してやることもやぶさかではない。なあ、結婚するぞ!!結婚!!実家から早く世継ぎ産めってめちゃくちゃ怒られてるんだ!なあ!」


 吸血鬼のクロスアルメカが早口で喋っていた。

 もう相手をしたら負けだ!精神を強く持とう。

 

「そうですねー機会があればねーじゃあ、僕たち帰るんで!!!」


 しかし、言葉のチョイスが良くなかった。

 反応したのはクロスアルメカでは無い、サクヤだ…。

 

「は!?アル!!『そうですねー機会があれば』ってこいつと結婚するの駄目よ!!あんたはあたしと結婚するんだから!!」


 そう言って、クロスアルメカに見せつけるように絡みついてきた。

 

「ほらアル耳舐められるの好きでしょ…れろぉ…どう?あ、ズボン破れてるじゃない大事なパンツが隠れてないわ!私が隠してあげる!!ふぁあ!?ごめんなさい大事なところ触っちゃったわ」


 顔を真っ赤にしながら、クロスアルメカに対してアピールを続ける。

 

 この時点で僕の心は無の意味をとは何かを哲学し始めていた。ええと…イデア的な観点から見た無とはその外側に存在する有というものの補集合であり…

 は!?違う現実逃避は駄目だ!!!しかし、依然として状況はぐちゃぐちゃであり、僕の心は現実逃避に向かう。

 

 

 

 しかし、この状況は殺気一つで集束に向かうこととなる

 

「ふざけるな…小娘ぇ!!!」


 威厳のある声を出したのはクロスアルメカ、空気が一瞬ピリッと引き締まるのを感じる。それは戦士であるサクヤにも伝わったようでサクヤは完全に戦闘態勢をとる。

 

「あんた、何もの…?」


 サクヤは軽く冷や汗をかいていた。それもそうだろう、この天嵐狼を凌ぐほどの殺気。好意を向けられている僕でさえ恐怖を感じる。


「我はブラッドルグラスの五代目、クロスアルメカ・ブラッドルグラスである!」


 威厳を持ってその名を発する。

 しかし、その威厳は長くは続かなかった。


「貴様、我の婿に向かってその無礼…許せはしないな!!お前は我が手で直々に…その…へぇー…」


 クロスアルメカの視線がサクヤから少しずつ左の方に動く。そして少し下。

 僕のパンツやないかい!!

 クロスアルメカは明らかに僕のパンツを凝視して鼻の下を伸ばしている。

 

「ちょっ!!ちょっと、そんなに見ないでください!」


 そう言って隠せる部分は何とか自分の手で隠す。

 すると…

 

 

 …ツーー鼻から一筋の赤い血が流れだした。

 

 

「やるではないか、少年…私に血を流させるとは…こんなこと山女サイクロプスと戦った時以来であろうか…」


 嬉しそうに微笑み…いや、にやけながら言葉を続ける。

 

「今日はこれぐらいにしておいてやろう…また相まみえるときまで!!ハアアアッハッハッハッハァアア!!」


 その高笑いをした瞬間に黒い風が吹き起こり、クロスアルメカの姿は消え去っていた。

 その瞬間サクヤの力が抜ける。しなしなと、地面に倒れこむ。

 

「なんて相手なの…殺されるかと思った…」


 


 それにしても、クロスアルメカとは何だったのか…、吸血鬼がなぜハーピィの里に…、それにあれだけの強さ、何のために…。

 

 とりあえず、この一連の流れを理解しきることは僕にはできなかったので忘れることにした☆

 

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