シャウランって何者?
「へえーあのクウロン様の一番弟子に会ったんですか!?」
夕食の時間に焼き魚をつつきながら、昼過ぎに会った金髪少女の話をする。
かの有名な宮廷研究者クウロンの名前も出たこともあって、ビイプはかなり話に積極的だ。
僕が危ない女性とかかわっている話をしたら『お兄ちゃんを取られたくない』みたいな気持ちで怒ってくる。そのため、この話をするかどうか迷ったのだが、僕の女性に対する隙が少なくなったことを自慢したかったので話をすることにしたのであった。
「そうそれでね、そのシャウランとかいう子は男性とモンスター娘の生態を研究しているって言ってたんだ」
「んッ?」
僕の一言にビイプの眉間にしわが走る。
しかし大丈夫だ。僕は今回ビイプから受けた『危ない女性講習』の教えを守っているため、ビイプも最終的には落ち着くだろう。
「それで話をしてって引き留めてきたから仕方なく、帰る時間を遅らせたんだよね」
「引き留めてきた?…それはどこで起こった話ですか?」
ビイプの声が低くなっていき、眉間のしわがさらに深くなる。
まあまあビイプ落ち着いて…僕はちゃんと君の教えを守ったんだから大丈夫だよ。 自分の行動が誇らしくなる。えっへん。
「ん?場所は前にビイプに連れてってもらったあの見張り塔のところだよ」
「へえ~人気が少ないところですね」
ビイプのこめかみに青筋がピキピキと立ってゆく。
大丈夫。大丈夫。
「うんそれでね、週に何回一人エッチするのか聞かれたんだ…」
「そりゃ、アウトじゃあああああ!!!」
ビイプの我慢も限界だったらしくその怒りが噴出する。
思ったよりも爆発しているではないか。しかし大丈夫だ。今回は特にセクハラされることもなく逃げてきたのだ。
「いや!でもね!聞いてよ!僕何もされずに逃げ帰ってきたんだよ!!」
ふっふっふ、いくらでも褒めて良いのだぞ!
「関係あるかあああ!!もうそれレ〇プニアピンしてるじゃないですかああ!!」
ありゃ?
ビイプの返答は予想と外れたものであった。
「え?いやでもビイプの教えは守って逃げ…」
「その前に私言いましたよね!危ない人気のない場所には近づかないって!」
「いや、でもあの塔ってビイプが教えてくれた場所じゃ…」
「だから!私と!デートの時だけに!してくださいって!言いました!」
ビイプがノンストップで言葉を発しながらかなりの剣幕で詰めてくる。
「そんなんだから!あの性獣にもセクハラされるんだよ!」
「はいい、はいいい!」
「お前は私だけの
「ひいい、ごめんなさい!すいませんん!」
ビイプが迫ってくる。もう顔の距離は十センチもない。
こ…こわ…怖いぃ。目尻に少しの涙がたまる。
「そうやって、目が潤むとほんとエロく見えるでしょーがああ!!」
「はいい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
………
……
…
そこから、ビイプの怒りが収まるまでしばらくかかった。
思いのたけを述べたビイプは肩で息をしているほどだ。
「ぜえぜえ、すみません…取り乱しました。わ…忘れてください」
壁に手をつきながら、今までの取り乱しを謝ってくれる。いや、もう怖すぎて何言われたかも全く覚えてない。
しかし、僕を思って言ってくれたんだろう…。
「ぐす、ううん大丈夫。もう何言われたかも全然覚えてないけど、僕のためを思って言ってくれたって事は分かったから……ありがとう!」
「…うっわ…エッロ」
小声でボソボソッと言葉を出していたが、僕の言葉に対してすぐニッコリと笑い返してくれる。こういうところは『ダメお兄ちゃんをしっかり見ててくれるしっかり妹』ってかんじだな。
「ふう…私の怒りに任せて漏れた本音が奇跡的に忘れられてて助かった…」
「ん?どうしたのビイプ?」
「いえ、そんなことよりもその研究者についてです!」
急に話を変えてくれるビイプ。こういうちまちま怒らず、スパっと怒りを出し切ってくれるところは本当に助かる。
そんなことよりもあのシャウランって人の話か。
「クウロン様って魔術構成学とか、攻撃魔術学の第一人者ですよね?そういった人の一番弟子が男性とモンスター娘の研究っておかしくないですか?」
一般的に研究者とその弟子っていうのは同じものを研究することが多い。それは師と弟子がお互いに助け合うことができることが多いためだ。違う研究をしている場合もあるが、ある程度分野まで違うことはない。
何が言いたいかっていうと、クウロンさんとシャウランは研究分野が違い過ぎて怪しいのだ。
「たしかに、シャウランとクウロンさんの研究分野違いすぎるね。」
「そうですよ!だからアルノー様に近づく口実に違いありません。」
まあ確かに普通に考えるとそうだよね…。あーあ、クウロンさんのお弟子さんって言ってたから、最新の研究の話とか聞けると思ったのになあ。
「知識で冒険をするアルノー様を狙った高度な戦略です。研究知見を出す代わりに股を開けっていう新手の詐欺です。」
「た…たしかに…。クウロンさんの名前出て安心してしまった…」
ビイプが人差し指を立てて僕の目を見て諭すように言ってきた。
「だから今後はその女が来ても、強い口調で突き放してください。あとできるだけ街中で一人にならない様にしましょう。」
「分かったよ…確かにうかつだった」
そうして、ビイプは今後のアドバイスを残してくれた。
あ、そういえばこういうビイプがめちゃくちゃ怒った日ってあれがあるんだったと大事なことを思い出す。
それと同時にビイプが手を前に組み、もじもじしだす。
「あの、その、いっぱい怒っちゃったからアルノーさまのこと傷つけちゃってませんか?」
「大丈夫だよ、僕のこと思ってくれてのことだから!」
「アルノー様優しいです!でも、それだと私の気が納まりません!」
「気にしなくてもいいよ。大丈夫だよ」
そうだ、怒ったその後はいつも通り自分を責めちゃうのだ。ビイプは自分のやったことに対して日がある時は必要以上に反省する心優しき少女なのである。そんな気にしなくてもいいのに。そして、自責の念に駆られたビイプが言う言葉は決まっている――贖罪の対価を示してくるのだ。
「あの、ほんとに申し訳ないので今日は私がお風呂でアルノーさまのお背中流します…」
ホントはそんなこともしなくていいのだが、これを断るとビイプが落ち込んだままになっちゃう。それは流石に可哀そうだ。だから僕の言うことは決まっている。
「それじゃあ、贖罪も兼ねて背中を流してもらおうかな」
そういうとビイプはニヤリと笑ってくれた。
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