男無き里のハーピィ

出会いの午後

 天嵐狼を倒してから一週間、冒険者のランクはDからCランクに上がったものの僕はまた薬草を集める仕事に戻っています。

 まあ、レイさんとは別行動をとっているわけだ。まあ、喧嘩してペアを解消したというわけではなく、レイさんが魔素の濃い砂漠地方への冒険をしている事が理由である。

 通常魔素が多い場所は危険な魔物が多いため、僕が一緒では足手まといになってしまうためついていくのは自分から辞退した。それを告げた時のレイさんの精気は0になっていたが…まあそういうわけで僕は今は個人で活動しているのだ。

 そして、僕は今一人で街の郊外に位置する見張り台の上にいる。

 

「はあぁ!風が気持ちいいなあ!!」


 ここは昔に大きな戦争があった時に建てられたものだが、今では人同士の争いもなく魔物に対しても役に立たないためただの形骸と化している。

 前に一度ビイプに連れてきてもらって以来、この場所を気に入ってしまった。煙と何とかは高いところが好きとか言わないでほしい…仕方ないじゃないか!気に入ったんだから!

 そういうわけで、最近は日帰りの冒険を終えて、組合に向かう前にこの高台に寄るようにしているのだ。

 

「やっぱりここは風が強くて、疲れも吹き飛ばしてくれる気がするなあ~」


 そんな感じでスゥ―スゥーと吹く風を感じていると、心がポヤポヤしてくる。風が僕の呼吸に合わせるようにゆっくりになってくるような気さえしてくる。ああ…眠たくなってきた。

 周りに女性もいないしひと眠りくらいしてもいいんだけど、こんな考えをしてるとビイプに怒られるんだよなあ。

 

「はぁああぁ~ああ」


 冒険の疲れも相まって大きな欠伸を漏らしてしまう。女性に口の中を見せるとセックスアピールになるからといつもは控えているけど、いいややっちゃえ!

 

「はあああ~」

「…す……れ。た…けて…く…」


 風に乗って小さな声が聞こえてくる。さらに眠くなってくる。

 柱に体を預け、目をつむって寝心地のいい姿勢を探す。ああ…この姿勢だ。

 この重たい瞼はしばらく開かないだろう。

 

「すぅ…」

『そこのお兄さん!!助けて!!!』

「のわああ!女性の声だ!!!寝たら犯される!!」


 完全に無防備な状態で女性の声を聞いたせいで、いつも以上に驚いてしまった。こうやって、なんだかんだ女性に警戒心を持っちゃう癖は直さないとなとおもいつつもやっぱり出ちゃうもんだなと反省する。

 いや、そんなことよりも女性だ。


「お兄さん!早く早く!落ちる!!!」

「どこですか!?今助けます!」

「ここだよ!ここ!」


 よく見れば町側の安全柵のヘリに小さく手が見えた。急いで駆け寄って、柵の後ろ側を見る。

 

「たすけてぇ…お兄さん…」


 金髪オカッパボブの少女が大きな瞳を潤ませて助けを求めていた。

 

 

 ………

 

 

 …

 

 

 …

 

「いやあ~助かったよ~お兄さん力あるネ!」


 助けてみたらその金髪の少女が異国の軽い口調でお礼を述べてくる。

 しかし、なぜ柵につかまって落ちそうになっていたのだろう。

 しかも白衣も着てるし…ん?白衣着てこんな街はずれに来て柵につかまって落ちそうになってる?しかも男性が一人でいる横で?


「これかかわったらビイプに怒られる奴だ…」


 ビイプがやばい女性にはかかわらないで欲しいということで、最近危ない女性講習をビイプから受けた。間違いなく深入りしてはいけない女性の共通点に一致している。早々に帰ろう


「お兄さん?どしたの?」

「いえ、無事でよかったです!」

「え?お兄さん!ちょっと話してこーヨ!!」

「いえ、僕は帰ろうと思います」


 そういって踵を返して街に向かおうとすると、足に衝撃を感じた。


「な!なんだ!?」

「お兄さん!ちょっとだけネ!ちょっとだけ!」


 少女が立ち去ろうとする僕の右足にしがみついているではないか!

 

「いえ!帰ります!」

「帰らないで!あ…そうだ!お礼しなきゃだ!ご飯連れてってあげるネ!」

「いえ間に合ってます!」

「え??じゃあ他には……ワタシが落ちそうだった理由知りたくない?どう?」

「それはちょっと気に…いや!帰ります!」

 

 全く動かない…くそーーやっぱり男って非力だあああ

 よく見ると目が据わってる。


「すみません!この後用事あるので!」

「いーや!お兄さんにはこの後用事ないネ!私は知ってるヨ」

「え?なんで知ってるんですか!?」

「しまった!!い、いや、今のはカマかけただけ!お兄さんがこの後組合に報告行くだけとか知らないヨ!!」


 それに両足の先をくぼみに引っ掛けて動かないようにしている。この人本気だ。


「だから!なんで知ってるんですか!?もしかして、ずっと観察してます…僕のこと?」

「しまった!また墓穴ほったネ!」

「認めた!この人ストーカーしてるの認めた!」


 まさかのストーカー申告してくる人がこんな郊外までついてくるなんて。いや、この後の予定を知っているといるということは下手した冒険中も尾行してきていたのか!?

 さすがにやばい人だと思って逃げようと本気で力を込めるが…全く動かない。


「ホントに力が強いですね!!」

「だから、話をするだけね!!お兄さんこのままだと一生この体勢ヨ!しかもこんな郊外にだれも助けに来ないネ!」

「う…確かに…!」

「ワタシ嘘つかない!話するだけ!」


 いや、女性のこの『先っちょだけ』みたいな『~だけ』っていう言葉は信用しちゃダメだってビイプに教わったけど、もうこっから自力で逃げだせる気もしないしな…。


「大丈夫!セクハラとか絶対しないヨ!!」

「本当ですか?本当に襲わないって誓えます?」

「襲うなら、もうすでに押し倒してるネ…本当に話をしたいだけネ」

「まあ確かにそうか…」


 確かに襲うならもう僕を押し倒してるか…。どっちにせよもう逃げられないのだ。

 

「分かりました…座るので足を放してください」


 そう言って、木の床に腰を下ろして胡坐をかく。

 こういう人に甘い姿勢をとると危ないらしいので、できるだけ威圧的に見えるような態度をとる。これもビイプに教わったやり方だ。


「それで…話をするってなんの話ですか?」


 金髪の少女も向き合って座ってくる。


「まあ、まずは自己紹介ネ。私の名前はファウランっていうヨ。研究者をやっているネ」

「ぼくはアルノーです。冒険者してます」


 簡単な挨拶をするとファウランはうんうんとうなずく。それにしても、研究者か…僕としては好感がもてる職業ではあるけど。

 

「研究者なんですね!だから白衣を着てるんですね!」

「そうネ!自分で言うのもあれだけど、なかなか高名な研究者ネ!あのクウロンの一番弟子ネ!!!」


 聞いたことのある名前が出てきて少しホッとする。あの宮廷直下の研究者のクウロンさんの一番弟子なのか。なら、信頼してもいい人だ。出会い方のため警戒していたが杞憂だったようだ。

 

「へえーそれはすごいですね!なんの研究しているですか?」


 ファウランは自信満々に答える。

 

「モンスター娘と男の生態について研究しているネ。だからストーキングしてたよ」

「えッ!!?」


「だから話聞きたいネ!一つ目の質問するヨ!オ〇ニーは週何回するカ?」


 やっぱり危ない人だった。僕は全力で逃げた。


 

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