締めのぱーてぃー

 

 多くの人がこのパーティー会場に集まっている。会場前方には『天嵐狼討伐祝勝会』と書かれた垂れ幕が下がっており、誰もがお祭りムードだ。

 しかしそんな中一人だけ、疲れ果てている者がいる――僕の専属組合員ビイプだ。


「アルノー様が天嵐狼を持って帰ってきた時は驚きましたよ…」

「いやあ…僕も対峙したときは肝が冷えました」


「でも、そんなことよりも報酬全部使って、モンスター娘も呼べるパーティー開いてくださいって聞いた時の方が驚きました」

「いやあ…申し訳ありません」


 言い終えた瞬間にビイプに大反対されたのも記憶に新しい。そりゃ大人数のモンスター娘を街に入れるのだ。反対意見があるのも仕方がない。

 しかし、それから三日…色々なところに頭を下げて何とか実現できて良かった。


「でも、ビイプが助けてくれたからここまでできたんだよ!ありがとう」

「…そういうこと言われると…あんまり怒れませんよ」


 周りを見渡すと、人間だけでなく戦いに参加してくれた多くのモンスター娘達も見える。男の人をナンパしているモンスター娘もちらほら見かける。あ…撃沈した。


 そんな、光景をほほえましく見ていると背中にポフンとした感触を得る。


「お兄さん…こんなところにいた…」

「クフ子ちゃんじゃないか。パーティー来てくれたんだね」


「くふっふっ、お兄さんがいるなら私はどこでへでも現れる。たとえトイレの中でも」

「あはは…それはやめてね…」


 クフ子ちゃんが僕の背中に鼻をこれでもかというほど埋めながらセクハラを飛ばす。これだけ匂いを嗅がれるとさすがに恥ずかしいな…。でも、こんなにも小さくてかわいらしい子なんだ多少のことは許してあげないとな。


「お兄さん…匂い薄くなってる。あんまりお風呂に入らないでほしい。あともっと濃いところの匂いも嗅がせて欲しい。具体的には皮の中とか…」


 前言撤回!これ放っておくといつかヤバいことになる。


「クフ子ちゃん…少し離れてくれないかな」

「やだ!」

「その…僕色んな人にあいさついかないといけないから…」

「やだ!」

「…………」

「やだ!」


 この子を外すのは骨が折れそうだな。そもそも、腕力で負けているし力づくでも外すことができない。どうすればよいのか…

 

 思案しているところに助け船が渡される。

 僕に向かってカツカツと歩いてきた女性がクフ子を剥がしながら挨拶をしてくる。

 

「アルノー君!久しぶりだな」


 蒼髪に落ち着いた黒を基調としたドレスをまとった女性が話しかけてくれた。なんか見覚えあるような気もするが微妙に思い出せない。頭の中を必死に検索するが、答えが出ることはない。

 

「ええと…お久しぶりです…その」

「ああ…ツバルクだ。ギルド本部から来て、君とレイシャル君にペアを組ませた張本人だよ」

「え!?ツバルクさん???」


 以前あった時にはツバルクさんは真っ黒な鎧を纏っていた。それが、今日は綺麗なドレスを纏っている。以下にも名家のお嬢様という感じで艶っぽい。

 

「すまないな、私にはこういう服が似合わないと思っていても、こういう場所では鎧というわけにも行かなくてな」

「いえ!?そういう驚きじゃなくて、とってもお似合いだから驚いたんです。」


「いやいや、無理に褒めなくてもいいよ、思ったことを言ってくれれば」

「いえ、月並みですけど普段の鎧姿は騎士みたいでかっこいい感じで、ドレス姿は御姫様みたいでとってもきれいですよ」


 そう言って褒めると、僅かにニッコリと微笑み返してくれた。

 そして目を伏せて手をもじもじさせながら、言葉を漏らす。


「そうか、それならば良かった…私の許嫁にもそう言ってもらえると嬉しいのだが」


 そうか、前言ってた男の対応に慣れてると言ったのは許嫁がいるからだったのか。許嫁がいるということはなかなかの名家の出身ということだ。

 

「絶対言ってくれますよ!だってツバルクさんこんなに綺麗なんですから…」

「そうかな…そうだと嬉しいな…」


 ツバルクさんは人差し指をくるくる回しながら僅かに頬を紅潮させる。あの、女気あふれるツバルクさんでも許嫁の話になるとこんなにしおらしくなるのかと親近感がわく。

 僕はこういうツバルクさんをもうちょっと見てみたいと思い許嫁の話を続ける。

 

「それで、許嫁ってどういう人なんですか?」

「いや…恥ずかしいことにな、実はあったことがなくて」


「許嫁なのにあったことないって?」

「その、正確に言うと私の姉の許嫁でな…私はついでの『家族婚』なのだ」


 『家族婚』とは貴族の一族に対して男一人で婿入りし、その性欲を一心に受けるという結婚のことを言う。なかなか男にとっては体力的にきつい結婚になるのだが、この男が少ない社会では仕方がない。国からも推奨されている結婚方法だ。

 しかし、そんな家族婚を考慮しても結婚相手になる人に会ったことないのは珍しい事ではあるのだが…そんな目をしていると焦ったようにツバルクさんが取り繕い始める。


「いや!会ったことないとは言っても、文通はしている!その中で私たちはラブラブなんだ!手紙にも『きれいな文章を書きますね早く会ってみたいです』って書かれてたんだ。彼はだなあ…頭が良くて、度胸があって、冒険者の私の姉にもびびらない強い男でなあ…」


「へーそうなんですかー」



 もう分ってしまった。ツバルクさんは男に慣れているわけじゃないのだ。

 ツバルクさんは一人の男しか見えてなくて、他の男に対して落ち着いた対応を取れる人だということが分かるいい演説だった。そして、よかったと心底安心した。

 ともかく、ツバルクさんの話は長くなりそうなので話半分に聞くことにする。

 

 ………


 ……


「それでなあ、顔合わせをする一週間前にその男の人がな…ぶつぶつ」

「へーそうなんですかー」


 ツバルクさんは許嫁のことになると完全に無能になるようだった。許嫁への愛をいくら語っても語り切れないようだ。困った僕が助けを求めようと、クフ子に顔を向けるとクフ子は熱っぽい視線を返してくれた。そういうことじゃない!

 

 そんな中ビイプが助け舟とばかりに口を開く。

 

「あの、そろそろあの性獣…いやレイさんの話が終わるのでアルノー様準備をした方が良くないですか?」

「確かに、ありがとうビイプ!!それじゃクフ子ちゃん、ツバルクさんまた!」


「あ、お兄さん逃げた!」

「私の許嫁は姉妹や従妹を含めた中でも私のことを一番好きでな…ブツブツ」


 変態ゴブリン娘、一途騎士をおいて僕は壇上へ向かう。


 壇上へ向かう間にも女性やモンスター娘たちにタッチを求められ、それに応じる。


「かわいこちゃん!ええ話頼むで!」

「よ!天嵐狼討伐の立役者!!」 

 

 女性たちからヤジが飛ぶ。まるでヒーローにでもなった気分だ。僕は尊敬する冒険者に一歩近づけたような気がする。


 壇上への階段を一歩、二歩、三歩と上っていく。


 壇上からの景色はモンスター娘も女冒険者も街の人たちも一緒になって騒いでいて、本当に楽しそうだった。

 そんな人たちが喜色の笑みでこちらに右手に杯を掲げてこちらに向けてくれている。『頑張れよ、私たちは話を聞くぞ』っていう合図だ。こんなに嬉しいことがあるか?僕はこのパーティーを一生忘れないだろう。

 

 緊張しながらも僕は話し始める…

 

「みにゃしゃん!おいしょがしいちょこ……」


 盛大に噛んでしまった。観客からは「キャー!!」とか「可愛い!!」とか歓声が飛んでくる。あのレイさんも…

 

「あいぼおおおおお!!可愛いいい!!結婚してくれえええ!!」


 別の意味で忘れられないパーティーになってしまった。

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