真のボス?
戦い始めた時は夜だったが、いつしか空は白んでいた。目の前には倒れ伏した狼が一匹。
そんな様子を見て思わざるを得ない。勝ったんだと…僕たちは死闘を制したのだと。
「相棒やったぞ!勝ったぞおおお!!」
レイさんが両手を広げて走り出す。レイさんが無事であることが嬉しい。僕も抱きしめ返してあげたい。…でもここは毅然とした態度で迎えなければいけない理由がある。
「つーーーん!」
「え?え?その?なんで?」
レイさんは目に見えてうろたえていた。広げた両手は手持ち無沙汰にふらふらしている。
「つーーん!」
「あの…ご褒美のハグてきなものって…」
「ハグ?……その前に何か言うことはないですか?」
「え?え?優しくするから私に体を任せて…とか?」
「知らない…プイッ!」
「うわあああああ!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
そうだ…レイさんは回復直後あの天嵐狼に向かって戦いに行ってしまったのだ。逃げようっていう僕の提案を無視して。
「心配したんですからね…本当に。せっかく回復したのに逃げずに、勝手にまた戦いに行って…」
僕の言葉によってレイさんは少し伏し目がちになってしまう。あの瞬間レイさんには間違いなく逃げるという選択肢は無かった。僕が何を言っても変わらなかっただろう。ただ、それは今後の冒険に必ず悪影響を及ぼす場面も出てくる。
「そうだな…確かに相棒の言葉を無視して戦いに行ってしまった。…でも仕方のない事だったんだ。私の矜持を示すためにも」
「それで…もし死んじゃったら?僕はもう一度殺すために
ウグッ!と明らかに体が揺れる。呼び方がレイさん呼びに戻ってるのを見て、かなり心臓に来ているようだった。
「その…悪かった…ごめんなさい」
「許します。それじゃ…どうぞ相棒!」
手を広げてレイさんを迎え入れる。僕も怒りたいわけじゃない。分かってくれれば良いのだ。ただ、下げてから上げる落差が大きすぎてしまった…いきなりガシィィと体に衝撃が訪れる。
「うわあああああ!!相棒おおおお!!」
「ちょっと、落ちついて!ちょ…」
「相棒!ペロペロ!相棒美味しい!!」
「なめ…舐めないで」
「うぉぉぉおお!すりすり!!気持ちいいい!!」
「ここぞとばかりに擦り付けないで!!」
戦いの後でアドレナリンが出ているところに、男の裸に、この心のアップダウン。三連コンボにレイさんの自我は崩壊していた。
「もう放さないぞ~おらあ!すりすり」
「だ…誰か…助け…助けて」
体が少しずつそして強くレイさんに包み込まれている。だ…誰か…
「メ!ダメ!お兄さんいじめちゃメ!!」
ゴブリン娘のクフ子だった。必死の力でレイさんを引っ張る。それでもレイさん外れません。
「おい!やめろよ!さすがにやりすぎだ!」
次に来たのはオヤビンです。一緒にレイさんを引っ張りますが、まだまだレイさん外れません。
「女冒険者!や、やめるのじゃ!!」
「お兄さんが嫌がってるっすよ!」
長老とセッコーも加わります。それでもレイさん外れません。
そこからさらに手伝ってくれるモン娘が増えても、レイさんが外れることはない。童話『大きなパンツ』みたいにみんなで引っ張っても無理なものは無理なんだね…。
そこに、長老から助言が飛ぶ。
「腹をくすぐれ坊や!!力が抜けたところをみんなで引っ張るぞ!!」
「分かりました…やります!3…2…1…コショコシュコシュコシュ!!」
目いっぱいくすぐる。力が少し弱まってくるのを感じる。
「コショコショ…どうですか?レイさん!!」
「くふ…くふふ」
くすぐったがっている、レイさんの力がさらに弱まってくる。
「もっと、効くようにくすぐらないと」と思い、レイさんの反応を見るために顔を覗き込む。
「なんだ…そういうことか……相棒も私を求めてくれてたんだ…もっと触ってくれえええ!!!!」
完全に目がハートになっていた。
「うおおおぉぉぉぉぉおおお!!両思いだこれええ!!合意だあああ!!」
「ひいいぃいぃいい」
「坊や!!手を止めるでない!力は弱まっておる!心配するな」
「ひぃぃいいいい、頑張りますうぅ」
「相棒おおお!!先っちょだけ!先っちょだけだ!痛くしないから!!」
「今だみんな!力を込めろ!引っ張れええええ!!!!」
内側と外側から力が加わったレイさんはバン!と外れていった。
その時、レイさんの剛腕によって僕の身に着けている葉っぱくたくたになっており、レイさんが外れた衝撃でそれも飛んで行ってしまった。
「あれ?僕…裸?」
モンスター娘達からは天嵐狼を倒したときよりも激しい歓声が上がる。
「「「「ウオオオオオオオオォォォオオ!!!」」」」
……
…
テントから予備の衣服を回収して着替えた時、さすがにみんなは落ち着いていた。
「みなさん、お見苦しいものをお見せしてごめんなさい…」
「「「いえいえ」」」
ほぼ裸で森を走り回るなんて、緊急事態だったとは言えかなり恥ずかしいことをしてたな…と今になって反省する。
そんな時、オヤビンから疑問が飛んでくる。
「お前たち、そこの戦利品どうすんだ?倒したのはお前らだからお前らが好きにしろよ」
「食べる!!!狼鍋にする!!」
最速で返答したのはレイさんだ。レイさんはずっと食べたがっているのは知っていたが…おいしいのかな?しかし、僕にも提案がある。決めるのはレイさんで構わないが、聞くだけは聞いてほしい。
「レイさん提案があります!みんなで倒したんだしみんなで食べませんか?」
「まあ明らかに、二人で食いきれる量じゃないからいいぞ」
「それと、この狼の報酬結構出ますよね?」
「まあ大物だからな、かなり出ると思う。一般家庭の年収ぐらい出るんじゃないか?」
「そのお金のぼくの分使ってパーティーを開きたいんです。その料理にこの狼を使いましょう。それで…その…パーティーに戦ってくれたモンスター娘のみんなを招待したいんです!!」
それは、街に相当数のモンスター娘を入れるということだ。この提案はモンスター娘嫌いのレイさんにはダメだといわれるだろうか?明らかにレイさんは難色を示しているように見える。
「………」
「………」
僕とレイさんの沈黙が続く。心配になって口を開いてしまう。
「あの…やっぱり駄目でしょうか?だめなら、ここでみんなで食べちゃいましょう…」
本当は街でみんなで食べたいが、レイさんが望まないならここでも仕方ない。
しかし、レイさんからの返答は思ったものと違っていた。
「いや、いいんじゃないか?あとお金は私の分も使っていい。豪勢にいこう。」
「え?いいんですか?」
「なんで駄目なんだ?」
「いや…その…レイさんモンスター娘嫌いって言ってたし…」
「今回のことで、モンスター娘を鼻から毛嫌いするのはやめた。助けてもらった恩は返さないといけない…そういうことだ」
今回の一件でレイさんの考えも変わったようだ。僕と同じ考えをしてくれるのは本当にうれしい事だ。この気持ちをレイさんに伝えざるを得ない。
「レイさん…そういう考え方してくれるの僕…うれしいです」
「そういう表情するな…ムラムラしてくる」
いや、レイさんはいつも通りだった。
呼び方相棒じゃなくてレイさんに戻そう…そう決意した
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