救出
「アル!!助けに来たわよ!!」
ここにいるはずの無い純白の少女、息を切らして飛び込んできた。純白の羽根には枯れ葉が、純白の肌には土くれがついており、急いで飛んできたことが伺えた。
「アル、怪我はない?痛いところは?ていうか、服がズタボロじゃない!?誰に!?何されたの?」
クロスアルメカによって引き裂かれた僕の衣服を見て、心配そうに僕の怪我を確認するサクヤ。
しかし、ツバルクさんは鬼の形相を浮かべる。
「…ハーピィ新手か?アルノー君の柔肌をじろじろ見て怪しい奴だ…おい!そこのハーピィ!!今すぐアルノー君から離れろ!!」
凄まじい剣幕と殺気をサクヤに向け、恐怖に陥れる。
しかし、サクヤも震えながらそれに応える。
「な!…何よ!!あんた!あたしとアルの仲を引き裂こうたって、そうはいかないんだから!!あんたなんかにアルは渡さないんだから!!」
しかし、そんな物言いにツバルクさんはカチンと来たようだ。
僕の肩を抱き自身の胸元に引き寄せると共に、サクヤから引きはがす。
「何を言ってるんだ?アルノー君は人間だ、それに冒険者組合の一員家族みたいなものだ。君みたいな有象無象モン娘に渡すことはできない!!」
「はあ!?あ…アルは私のお…おむ…えと……あの…、もういいわ!お婿さんになるべき男の子なの!!だからいいの!!それよりあんたこそ何なのよ!!私のアルにべたべたと触って!!離れなさいよ!この痴女!!」
サクヤはツバルクさんに向けて、羽根でズビシ!と指しながら暴言を放つ。
その時、ツバルクさんは口をもごもごとさせ帰しを少し言いよどんだ
「くぅっ…わ…私はアルノー君の……冒険者組合の…上司だ…。だが!!私にはアルノー君を守る義務がある!!」
「ふんっ!ただの上司?それだけでこれだけ追い回してるなんてあんた相当な色狂いね!そんなんじゃ結婚相手の一人もできないわよ!ほら!アルは私が守るからさっさと帰りなさい!」
「なっ!!?余計なお世話だ!!私にはちゃんと婚約者がいる!!今の言葉は撤回しろ!!」
ツバルクさんがサクヤに明確に殺意を持って剣を向ける。流石にこれは駄目だ!僕が止めないと行くところまで行っちゃう…。
「ツバルクさん!!やめてください!!サクヤは仲間です!!剣を収めて!!」
「アルノー君!?」
「アル!?」
「サクヤはただの友達です!だから、戦う必要はありません!だからサクヤも…あれ、サクヤ?」
サクヤは翼で心臓を抑えて哀愁を放っていた。
「ただの…友達…ただノ…トモ…ダチ?アタシタダノトモダチナノ?」
サクヤはうなだれながら廃人のようになってしまう。
「まあいいや!ツバルクさんもサクヤも分かってくれた?二人が戦う必要は無いんだよ!だからいがみ合わないで!!」
そんな僕の姿にツバルクさんは勝ち誇ったようにニコッと笑って、相槌をうつ。サクヤも息も絶え絶え納得はしてくれた。なんで、そんなにきつそうなんだろう?
「それで…僕はこの子…サクヤと話すことがあるんだけど、ツバルクさん少し待っててもらってて良いかな?」
僕の言葉にツバルクさんは表情をすぐさま真剣なものに切り替えた。僕とサクヤが話すことが気に食わないのか?
そう思ったが違うみたいだ。ツバルクさんの注意は真後ろに向いている。
「どうやら吸血鬼はもう待ってくれない様だな…」
剣を下段に構え闘気を鋭く体中にまとう。そんなツバルクさんの鋭い目線の先にはクロスアルメカ…体中に黒いオーラを纏い姿勢を低くして戦闘の準備は万端だ。
「我は無視されるのが一番嫌いでな…先ほどから憤怒が止まらん…。さっさと決着を付けようではないか…」
「大口を叩きますね…たかだか吸血鬼のぼんくらが…いいでしょう、私もさっさと終わらせたかったところです」
二人の殺気が場を支配する。あらゆる場所でせめぎ合い、動くのもためらわれる程だ。
にっちもさっちもいかない僕の姿を見て、ツバルクさんは後ろ姿のまま答えてくれる。
「そこのハーピィに話すことがあるんでしたよね…好きにしてください…ただ一つ、ここは戦場になるので速やかにそこのハーピィとこの場所を離れてください…私はこの吸血鬼を倒してから後を追います…」
その言葉を皮切りに轟音が鳴る。
ガギィイィイイイン!!グガァアアアアアアアン!!
地形が変形するような音と共に二人の姿が消える。
僅かに目で追えるのは二つの光の線。二人の残像だ。
その光の線は飛び交い、あたりの木が倒れ伏していく。
そして、その二つの線が交わるたびに激しい火花が飛び散り、あたりの草地を灰に変えて行く。
そんな頂上の戦いに僕の目は離せないでいた。
「す…すごい…」
そんな時不意に裾が引っ張られるのを感じる。ふと我に返り引っ張られた先を見ると
「アル!さっさと移動するわよ!こんなのに巻き込まれたらひとたまりもないわ!!幸いあのくそ剣士が飛び火から守ってくれてるみたいだけどそれもいつまで続くか分からないわ!だから早くのって!!」
「え…えっと…」
背中を僕に向けて乗せるように指示するサクヤに僕は一瞬ためらってしまう。このままツバルクさんを置いて行って良いのかという躊躇だ。
しかし、そんな僕の迷いをサクヤは察して否定をする。
「ほら、私たちがいても何もできないの!!だから!行くわよ!」
「わ…わかった!!!」
僕がサクヤの背中に乗った瞬間、サクヤはすぐさま空へ向かい飛び立つ。
後ろから伸びてくる黒いオーラで構成された無数の腕の様なものが伸びてくる。
「待てええぇえええええええ!!!わがおっとおおおおおおお!!」
「させるか!!武装迅技八の択!夢葵!!!」
しかし、その無数の腕は無数の剣閃によってすべて撃ち落される。
「いけえええええ!!アルノー君!!!」
その言葉と共に僕たち二人は戦地を後にする。
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