アルノーの悩み
サクヤに何をしてあげられるか?どうすればもっと飛べるようになるのかそればかり考えている。回復魔法によってできることはほとんど全てしてあげたし、もう僕の役割も終わりなのかもしれない。
それでも、何かできることがあるかもしれないと練習には参加し続ける。
鳥人レースまであと四日…
あの吸血鬼が来た次の日の飛行訓練は、安全も兼ねて鳥さんシスターズに来てもらった。今はワシワシさんがサクヤを付きっきりで見ていて、僕とタカタカさんは後方でその訓練を見学している。
これを機にタカタカさんに鳥人レースの全貌を聞いてみることにした。
「鳥人レースってどういうコースを通るんですか?」
「ああ、そういえば言っていなかったな…そうだな、せっかくだし歴史から説明しようか。そもそもハーピィっていう種族は狩りとは別に郵便の仕事で反映してきた側面もあるんだ。」
「あっ知ってますよ!僕も手紙のやり取りするときに利用したことがあります。」
僕の家庭教師ベアトリクスさんの妹のツヴィって子が文通をしてみたいということで僕が相手をさせてもらっていた時期がある。その時には、よくハーピィのお姉さんに手伝ってもらったものだ。
まあそれは置いておいてタカタカさんに話を続けてもらう
「それで五十年ほど前にな郵便の仕事をしてたら誰が一番優秀なのかという話になったらしいんだ、そこでできたのが<<鳥人レース>>、考えられた条件は【長距離の移動】【高速飛行】【自然状況の把握】の三つだ」
「それで『色んな場所を飛んで誰よりも早くゴールを目指すレース』になったってことですか?」
「そうだ…レースは平地、森、次に山を越えて、海まで行き同じ道をたどって帰ってくる、去年のクラモトも帰ってくるまでに18時間57分という時間をかけている、完走しきる奴の方が少ないな」
心の不安が膨らむ。今日の練習を見て少しずつ飛べるようにはなっているが、そんなタフなレースを乗り切れるのか?
そうしてサクヤの方に目を向けると、ワシワシに手を引っ張られ冷や汗を流しながら何とか飛んでいるサクヤだった。
こういう時に回復魔法でしか手伝ってあげられない自分が悔しい。もし僕がハーピィだったらもっと手伝ってあげられたのに…。
鳥人レースまであと三日…
今日はワシワシさんにのみ来てもらって、蝙蝠と会った一昨日に感情を爆発させて以来サクヤの様子は落ち着いている。目覚ましいスピードで飛行のコツを思い出しているようだが、ワシワシさんに言わせればそれでも当時には程遠いらしい。
「もう一回やるわ!!」
あたりが暗くなっても、もう一回もう一回とねだるサクヤ。レースが近くなって焦っているようだった。
まあ、僕としてもサクヤが怪我をする頻度が減ってきているので魔力に余裕がある。今日はもう少し付き合えそうだ。
「サクヤ!!まだ僕は大丈夫だから好きにしていいよ!!」
大声で返す。サクヤも笑顔を返してくれた。その日の練習は夜遅くまで行われた。
それを僕は傍からずっと見ていることしかできなかった。
鳥人レースまであと二日…
昨日からサクヤとは別行動をとることにした。これは喧嘩したとかではなくて理由はサクヤが「アルといると甘えちゃうわ!今日からは寝る部屋も別ね!!」と言い出したことにある。
まあ…実は言い方はもっと辛そうだったことは内緒だが…。
それでも、何かしたいと思いファウランと当日の作戦を練ることにした。
「それでナ~海方面なんだがここは海風と陸風が激しいから飛ぶときには体勢に注意して…」
ファウランとは話すのがあの朝以来だから少し緊張する。
しかし、ファウランは研究者なだけあってこういう話をするときは至って真面目だ、そういう所がさらに僕を緊張させる。
「少年?聞いてるカ??」
「あ!うん…聞いてた!海だよね…海!」
「少年…その話は終わったよ…」
全然聞いていなかった。
駄目だ、何をしているんだ僕は…。パチンッ!自分の頬を思いっきりたたく。
「しょ!?少年?どうしたネ?」
「ごめんなさい!集中した!次は山の攻略する作戦を立てよう!問題は酸素濃度だよね!!」
僕のやる気を察してくれたのかファウランもそれ以上は何も追求せずに作戦を立てていく。
鳥人レースまであと一日
遠くからサクヤの練習の様子を見ている。横にはファウランもいる。
練習では鳥さんシスターズとサクヤが並走して飛んでいた。
「サクヤ結構いい感じなんじゃないかな?」
サクヤは補助もなしでタカタカさん、ワシワシさんと同じ速度で飛んでいる。その顔には少しの余裕も見られた。これはレースにも間に合ったのではないだろうか。
「あ~あれは駄目ネ、前にクラモトの飛行見たことあるけどあんなもんじゃないヨ」
そういうファウランの顔からは冗談の気持ちなど微塵も感じ取れなかった。
レースは明日だ、今日一日では大幅な改善も見込めないだろう。
「そうですか…はぁあ…」
大きなため息が生まれる。
何かもっとできたんじゃないか…そう思わないでもない。そんなため息にファウランは心配そうに尋ねてくる。
「どうしタ?ため息は幸せ逃げるネ!よし!お姉さんが聞いてやろー」
僕の気持ちを洗いざらい話す。ここに連れてきたのはファウランだ、そういう意味でもサクヤに関する悩みはためらいなく話すことができた。
サクヤに優勝してほしい…、無事でいて欲しい…それに、僕にできることはもっとなかったのか、洗いざらいすべてを話した。
しかし、そんな悩みに対してファウランは鼻で笑う。
「イヒっそんなの解決する方法なんて一つしかないネ!」
「え!?それってどういうこと?」
ファウランが解決する方法を知っている!?そんなわけないが藁にも縋る思いで聞く。そんな、僕の疑問にはファウランはしっかりとため息で返してきた。
「はあぁ…本当に分かってなかったのネ…サクヤが可哀そうよ!これができるのは少年しかいないのに…」
そういってファウランは解決策らしいものを熱く語ってくれた。
…そしてついに、鳥人レースまであと0日!!!
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