なんだかんだの引きこもり
お昼の食事を終え、ベッドに二人で座る。僕は食事後の休憩を兼ねてゆっくりしていたが、サクヤは赤い顔をしてもじもじしていた。
「その…今日はしないの?」
「え…するって?」
「その…あの…治療よ!治療!!私に言わせないで少しは察しなさいよ!!」
横に座ったサクヤがポカポカと肩をたたいてくる。
察して?いや治療に恥ずかしがる意味とかないから、はっきり言って欲しいと思わないでもない。しかし、ここで追求しないのがいい男の条件なのだ。
「そうだね…どうしようか…」
「あたしとしては昨日みたいにしてくれても全然いいんだけど…その方が回復も早いんでしょ、たぶん?い…いいぃ痛いのは…嫌だけど、回復が早いんじゃ仕方がないわね~!!」
サクヤの翼の状態を見て、今後の治療のプランを思考する。昨日頑張ったため翼の状態はかなり良くなっていたし、羽根の生え変わりも少し見られた。
今日は落ち着いてできそうだ。痛いの嫌って言っているしそのほうがサクヤにも負担にならないから、今日はゆっくりやろう。
「ああ、治療のことね…するにはするけど昨日みたいな事はもうしないかな?」
「は?なんでよ!しなさいよ、めちゃくちゃに!!あれ!?…あ?え…え?もしかしてそういう事?もしかして、あたしのこと嫌いになったとか…そういうこと…なの?」
それを伝えると烈火のごとく怒りだしたかと思えば、急転直下に落ち込みだした。
もう彼女のことが分からなくなってくる。何がしたいんだ…。
「え!?昨日みたいなことしたいの…?あれ痛くない?」
「は?いや!…その…したくないわよ!痛いのなんか嫌いに決まってるわ!でも…あなたがどうしてもって言うのならするのはやぶさかではないわ」
「だから…翼の状態がいいから今日は別にしなくてもいいと思う」
サクヤの負担を考えてやっぱりしない方が良いのではないか?
しかし、サクヤはさらに食い下がってきた。それに対し、必要ないというのがやっぱり僕の意見である。
そんな僕にサクヤは渾身の一言をぶつけてくる。
「いや…でも…した方がいいんじゃないかしら?それに、『しなくてもいいってあなたが疲れるからしたくない』ってだけじゃない!!言い訳してる暇があったら早くやりなさいよ!!!」
…ぷっつん。僕の中で何かが切れる音がした。
「僕はサクヤのためを思って言ってるんだよ!!」
「いーや、嘘ね!あなたが疲れたくないだけね!」
ぶちぶちぶちぃ!!
「ムキィイィイイイ!!分かった!分かったよ!!やってやるよ!!昨日より痛くするからな!今日の夜、覚悟しておけよ!!」
「…やった♡」
サクヤはにんまりとしていた。あれ、僕ってはめられた?
「ま…まあ、筋肉ほぐすのは今日の夜にするとして、今日は体力トレーニングからしようか…引きこもって体力が落ちている分、飛ぶときに困るからね」
「確かにそうね、確かに…飛んだあとにぜえぜえ言ってるのはダサいわね…それで体力トレーニングって何するの?」
今後の予定をサクヤに伝えると、サクヤもそれに対しては賛成の様子だった。ここに対して意見の齟齬が出なかったのは助かる。
「そうだね、歩行訓練がいいかなって思ってる、ハーピィって歩くことが少ないから歩行訓練ってけっこう体力使うでしょ」
「たしかにいいアイデアだと思うわ、でも問題があるわ!」
「問題?それってどういう?」
サクヤからプランの細かい部分に対して指摘が入る。
自分の中では完璧だと思ったプランだが、人の意見を聞くことも重要である。
「歩行訓練って、この部屋でやるには狭すぎるわ!なんだかんだ言ってもあんたのプランってがばがばなのね!」
「は?」
「だから、この部屋では疲れる程歩けないって言ってるの!!」
「え?何言ってるの?普通に外で歩くけど…」
「え?」
「え?」
サクヤが指摘してくるが、言ってることの意味が分からない。
それに対してサクヤも僕の言っていることが通じていないようだった。
お互いに困惑した顔を見合わせる。
「だから、外の広いところで歩く練習するつもりけど」
「え、それって誰がやるの…?」
「誰って?サクヤ以外いないでしょ」
「え?私が外に出るの?」
「そりゃそうだよ」
サクヤは「ああ、なるほどそういうことか」と分かった顔になったが、その後すぐに無の表情に戻った。
そして、すぐに僕の胸に飛び込んで泣きじゃくってくる。
「ムリムリムリムリィ!無理だって!お外に出るの怖いもん!またみんなにいじめられるもん!無理だって、絶対に無理よ!…うぇええええん!!」
「ちょ…ちょっとサクヤどうしたの?」
いきなり泣きじゃくるサクヤを見て困惑するーと同時に思い出す。そういえば、サクヤって夜部屋の中で一人で泣いてたなあ…と。弱気なサクヤを見て少し可哀そうに思ってしまう。
「無理よ…お外怖いもん…ね!一緒にお部屋にいようよ…」
弱気に震えているサクヤを見て心が揺らいでしまうが、いつかは乗り超えないといけない試練だ。それに、ここで甘えさせてしまってはいつまでも彼女はこの小さな部屋から出ることができないだろう。
「サクヤ大丈夫だよ…外に出よ!ね!」
「む…むりぃ、だってみんな私のこといじめるもん…」
「大丈夫だよ!僕も一緒だから!あ、そうだタカタカさんやワシワシさんにも来てもらおうよ!」
「一緒?みんな一緒なのぉ?…ぐすん」
押して、押して、押して、押しとおるのだ。幸いサクヤも少し涙は収まってきている。もう少しかもしれない!
「そう、みんなでサクヤのこと守るから、絶対大丈夫だから!!」
「…ほんとにぃ?」
「僕が今まで嘘をついたことがあった?」
「………ない」
「僕に任せてよ!絶対に大丈夫だから!」
「ほんとに…?」
疑り深いサクヤだが、僕も一歩も引く気はない。
「本当だって!」
「…お手てつないでくれる?」
「手ぐらいいくらでもつなぐよ!」
「ちゃんとできたら頭なでなでしてくれる?」
「するよ!する!」
「…お兄ちゃんって呼んでもいい…?」
「それは…ちょっと…?
お兄ちゃん呼びは少し恥ずかしいなと思いつい本音が漏れてしまった。
すると、サクヤの目に再び涙がいっぱいにたまる。
「うぇえええええぇぇん!!やっぱり無理だよおおおおお!!」
「ごめん!ごめんって!!呼んでいいから、好きに呼んでいいから!!」
「うぅ…ぐすん…じゃあアルお兄ちゃんって呼ぶ…ぐすん」
「じゃあ、お外に一緒に行こう!」
「でも、やっぱりお外怖いよ…あるお兄ちゃんでもあたしのこと守れないよ…」
これは怖がっているが、たぶんもうあと一押しだ。ここで必殺のセリフを述べる。
「大丈夫だって!もし約束破ったら、何でも言うこと聞いてあげる!」
「…ほんとに?」
「本当だって!」
「…じゃあいく…」
言質をとった。
しかし、この後泣き止んだサクヤは恥ずかしかったようで、なだめるのに苦労した…。
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