一緒にトレーニング

 

 鳥さんシスターズの後について、お嬢様を外に連れて行く道を歩く。

 あんなに大口を切ってサクヤを説得したは良いものの洞窟周辺の地図に詳しいわけでもないのでこうやって案内してもらっているのだ。

 

 それにしてもサクヤは部屋の外に出てきてから一言もしゃべらずに僕の右腕にしがみついている。さらに、タカタカさんやワシワシさんもサクヤの護衛という立場なので集中しているようだった。

 

「…気まずい」


 数人で無言で歩く。しかも一人は男の腕に抱き着いて顔を青くしている。傍から見ればすごくシュールだろうなと思はざるを得ない。

 しかし、こんな空気をぶち破るを超マイペース少女が一人いる。

 

「ワシワシ?これってどこに向かってるのカ?」


 ファウランだ!普段はこういう空気読めないところが面倒くさいが、今この状況では頼もしい。

 そんなファウランの質問にはワシワシさんが答える。


「岩壁の採掘場という場所だ、洞窟のすぐ横にある所で昔は鉱石が採れたらしいんだが今となってはただの憩いの場になっている」


「へー?そんなところだと他の人が多いんじゃないカ?」

「私たちハーピィはそんな岩場よりも空の方が好きだ、あんまり人はいない」



 二人の話を聞いていて、確かにそれならサクヤも少しは安心できるだろうと思い気が楽になる。横のサクヤも今の話を聞いて僕の腕にしがみつく力を弱める。

 『シャウランのおかげで助かっちゃったな』とひそかに評価を上げるが、そこはシャウラン…



「へ~、ところでワシワシは少年に貸している毛布どうするつもりネ?」


 シャウランが爆弾を投下する。

 ワシワシさんの肩がビクンと震え、タカタカさんの視線も一気にワシワシさんに向く。そこでワシワシさんはとぼけだす。

 

「いや~どうするって?何がだ?何の話か全く分からないな」

「何の話って毛布ネ!四日間体を洗ってない臭いがべったりとついた毛布のことヨ」

「イヤーワタシニハ、ナンノコトカ、ワカラナイナ」


 ワシワシさんそれはとぼけるの下手すぎだよ…

 ファウランの追撃はそんなもので止まるはずもなく…

 

「そうか、知らないカ?なら私があの毛布もらっとくヨ」

「わあああ!!それは駄目だ!!それはわたしのなんだああ!!」


 あっさり白状した。

 

「それでそれをどうするネ?」

「返してもらって…しっかり洗うつもり…だが!?」

「あははー!声上ずってるねー!!絶対ウソヨ!」


 これは返したら何に使われるか分かったものじゃないな。

 そんな、ワシワシさんに対してタカタカさんは不満そうだ。いや、逆にタカタカさんが不満になることが分かっていたからとぼけていたのだろう。

 

「姉者!ハーピィの命である毛布をそんな風につかうなんて見損なったぞ!」

「い…いや!私はアルノー君が固い床で寝づらそうだったから…」

「私がせっせとご飯を運んでいる間に、自分だけ!!」

「いや…すまん…でも!お前のそのご飯運んでるのも好感度稼ぎだろうが!!」

「なにぃ!!」


 なんか…僕が原因で起こる喧嘩を見るのって…不毛だな…助け舟を出すことにした。

 

 

「ワシワシさんも、タカタカさんも助けてくれて僕はとっても嬉しかったですよ!」

「「アルノー君…」」


 喧嘩していた、二人は僕の言葉でピタッと喧嘩をやめてこちらを向く。こういう所は双子だなと微笑ましくなる。

 

「二人とも喧嘩しないでくださいね、毛布は僕が責任取って洗って返しますから」

「「それはもったいない!!」」


 こういう返答まで双子だった。こういうところでは一致しないでほしかったな…

 

 

 

 ……

 

 …


 岩壁の採掘場はワシワシさんの言った通り、広く開けた場所で他のハーピィはあんまりいなかった。あんまりといっても数人の影は見れるのでサクヤも少し緊張している。しかし、贅沢は言ってられない…すぐさま運動だ!!


「さあ、サクヤ運動しよっか、初めは軽く一周ここを歩こうか」

「わ…分かった…頑張る」


 サクヤの翼の人間の手のひらにあたる部分を持って、ペースメイクをしてあげる。

 こういうのは、サクヤのふだん歩くスピードより少し早くしてあげるのがミソだ。

 すこしずつ、スピードを上げて調整していくが、サクヤも何とか食らいつこうとしてくれる。

 

「はい!サクヤ!ここで半分だよ!!頑張って!!」

「ぜぇ…ぜぇ…余裕よ!もっと早く…しなさい!」


 疲れてきて、サクヤも負けん気がでてくる。どうやら、外に対する緊張もほぐれてきているようで良い傾向だ。

 ならと思いさらにスピードを上げる、もう小走りくらいのスピードになっていた。

 

「サクヤがんばって!ここで四分の三だよ!」

「ぜえ!ぜえ!…ぜえ!」


 声を発する余裕もなくなっており、肩で息をするほどだ。「一瞬ここで終わろうか?もう十分だ」と言ってしまいそうになるが、サクヤの目はぎらぎらと燃えていた。

 

「最後までもう少し!ラストスパートだよ!!」

「ふぅ…ぜぇ…はぁ…」


 ゴールに向けて少しスピードを上げる、鳥さんシスターズやファウランも「頑張れ!頑張れ!」と応援の声を挙げてくれる。

 ゴールまであと3メートル、2メートル、1メートル!

 

「やったあ!さくや!ゴールだよ!」

「ぜぇぜぇ…ぜぇ」


「お嬢様!やるネエ!」

「お嬢!お疲れ様です」

「やりましたね!」


 三人も集まって精一杯お祝いしてくれようとするがまだ少し待ってもらわなければならない。

 

「三人さん!ちょっと待ってくださいね!今心拍数が上がってるのでゆっくり少し歩いてきますから!!」


 ランニング直後の静止は体や筋肉に良くない。そのため、普通の速度で少し歩いて落ち着かせる必要があるのだ。

 

「ほら、サクヤ!疲れていると思うけどもう少しだけがんばろうね」


 そういうとサクヤは嬉しそうな顔をした。

 サクヤの翼を引いてあげながらゆっくり歩く。

 ゆっくりゆっくりと歩く、しかしサクヤの足を踏んずけてしまった。

 

「ひうん!?」

「ご…ごめん!サクヤ!?痛くなかった?」

「びっくりしたけど…大丈夫、ハーピィの足って狩りに使うから固くなってるのそんなに痛くないわ」


 痛くないといっても悪いことをしてしまった。反省する。

 こんどは踏まない様にゆっくり…ゆっくりと…

 

「ひゃうぅん!?」

「ご…ごめん!!またやっちゃった!気を付けてたのにごめんね」

「い…いいのよ、許すわ」


 気を付けてるのにな…。ダメだ、僕も疲れてきているのか?

 踏まない様に、踏まない様に…

 

「おふぉおん!?」

「ごめん!サクヤ!本当にごめんね」

「ゆ…ゆりゅ…許しゅわ…」


 本当に気を付けてるのにな…おかしいな。

 今度はしっかりと自分の足元を見ながら、ゆっくりと歩く。

 すると…あれ?サクヤが不規則に必死に足を出してきていた。

 

 今度は、踏む直前に何とかとどまる。

 

「ひゃう……あれ?痛くない…」

「サクヤ?何してるの?」


 すると運動をして赤くなっている顔をさらに赤くして怒る

 

「ばかあ!!何してるってなによ!!何もしてないわ!!」


 ま、まあ、こんな感じで運動一日目は無事終了した。 

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