調査一日目!

 

 冒険者レイシャルは恥ずかしさと興奮でどうにかなってしまいそうだった。体は熱く、手足の先からでさえ火が噴き出るような熱さだ。


「くそぉ、くそぉ、相棒は私をこんなに興奮させてどうするつもりなんだ」


 パンツがもらえたとしても大万歳だし、もらえなくてああやって冷たくされるのもレイシャルにとってはただの興奮促進剤だった。

 実際に、こんなにもレイシャルの心は高ぶっていた。


「あの…んっ…かまととぶった表情からの!勝手にやってきてください…あぅっ…のコンボとか!もう我慢できないだろ!」


 レイシャルはこの心の状況を形容するすべを持たない。この何かが絶望的に足りないのに満たされている矛盾したこの心の状態を。

 だから、ぶつけるのだ。欲望を。頭の中のあの相棒おとこに。


「くそおお!私のものに…はぁっ…なれよ…」


 だが、レイシャルは相棒アルノーを襲うことはない。それをしてしまうと、これまで真面目に積み重ねてきた冒険者稼業への…自分への裏切りになるからだ。

 また、相棒というものは<<幼馴染は冒険者>>という文庫を崇拝するレイシャルにとっては聖域なのである。そういったことも相まってレイシャルは絶対に暴走しないのだ。


「ふぅ…ふぅ…もう一回だ相棒…、そこの木に腰をつけるんだ…あっ」


 しかし、たまるのは仕方がない。これは生理現象なのだ。自然事象なのだ。それに男性とこんなにも長時間過ごした事など人生において存在しない。Aランクの冒険者のパーティに来ていたおじさんと数分話したくらいだ。もしくは、町の店員さんと事務やり取りしただけ。それが急に森での共同生活などとレベルが高すぎる。


 しかも、相棒アルノーはとても美しいのだ。私よりも小さく、黒みがかった目と髪。庇護欲をそそる話し方、物腰。冒険に対する熱意。どれをとっても女冒険者の妄想が具現化したとしか考えられない存在だった。

 もう会ってから、何回頭の中で犯しただろうか?そして今日も…


「もう一回か…ふふ…底なしだな…相棒は」

 



 ………



 ……


「しまったああぁあ」


 妄想がはかどり過ぎてしまった。欲が収まった時にはもう半刻が過ぎていた。

 収まったかどうかで言えば、全然収まってないわけなんだが…夜もしなければならない。


「それよりも!相棒!」

 

 相棒に一人で作業させていることにも申し訳ないし、何よりも相棒がモンスター娘に襲われていないか心配だった。

 相棒からそこまで離れた位置に来ているわけではないため、悲鳴や騒ぎ声などが聞こえればすぐに駆け付けるつもりでいた。私の名前が呼ばれていないということはおそらく無事なんだろう。しかし半刻が一瞬で過ぎ去ったと錯覚したほどの熱中度合だ…急がねば


「んって!んああああああぁぁぁ!いったたあ…」 


 全力疾走をしていたレイシャルは何かに躓き思いっきりずっこける。


「なんだよぉ…」


 周りを見渡すとここは小さな窪地になっているようだった。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 朽ち木の枝を調査している。特にここ最近に折れたような形跡もないし、大きい動物が移動していったような痕跡もない。うーーーむ。

 あ、これは…違った。銀色の毛かと思ったら、金色の毛だった。おそらく、蜂娘かレイさんの毛だろう。見つからないなあ…



「…んあああ…ああぁぁぁ!……」


 微かな叫び声が聞こえる。レイさんの声だ。助けに行かなきゃ。


「大丈夫ですか!?今行きます!」


 声が聞こえた方向に向かって、思いっきり走り出す。

 そんなに遠くはない距離だ。レイさんが叫ぶってことは不測の事態…ってことは魔物か?急がなきゃ!


「ってわあぁぁあああああ!!!!」


 MAXスピードに乗って窪地を転がり落ちてしまう。そのまま、レイさんに向かってどーーーん!!!

 しかし、痛みはない。僕をその大きな体で優しく受け止めてくれたからだ。


「大丈夫か?相棒」

「はい、すみません。レイさんの声を聞いてすぐに駆け付けようと思ったんですが…逆に助けられちゃいましたね」

「いや、私の方こそありがとう。それでこそ相棒だ」


 周りを見渡すとここは直径八メートルほどの窪地になっている。

 

「レイさん、ここはなんなんだかわかりますか?」

「私にもわからないんだ…。もしかして、ここは銀狼の巣なのか?」

「いえ、ここは水辺からそんなに近くありませんし、銀狼の巣ならもう少し小さいです」

「ふーん、そんなものなのか…じゃあ何なんだろう?」


 二人して思案しているところに声がかかる。

 

「お!?先客いんじゃねーかよ」

「ほっほ、オヤビンはしゃぐでない…」

「そうっすよ、オヤビン先客いるなら混ーぜーてって言って、一緒に遊べばいいっすよ」

「すんっすんっなんかいい匂いがする。くんかくんか」


 僕にとっては懐かしい顔ぶれだった。あのレイさんにぶっ飛ばされたゴブリン娘四人組だった。

 ゴブリンは一つの獲物に対する執着が強いと聞く。拳をキュッと握りこんだ。そんな様子を見たレイさんが声をかけてくれる。


「大丈夫だ、ゴブリン娘など私の敵ではない」


 なんだ?再開してからのレイさんは普段の五割増しでイケメンに見える。やだかっこいい。


「おい!ゴブリンども!こんなところで何をしている。私の相棒を狙いに来たのか?」

「相棒って?あああお前の後ろにいる子!あのどエッチな奴じゃねえか!?」


 その言葉を聞いたレイさんが怒気を発する。後ろにいる僕でさえ感じる不機嫌度合いだ。

 

「オヤビン…気を付けて…わたしあいつにやられた…なすすべなく。」

「っひ!!…いや、確かにやばいのは分かるビビビビビビっちゃ…いねーがな」


「おい、もう一度問う。私の相棒に何しに来た」


 レイさんが、今にも殴りそうな表情で…後ろにゴゴゴゴッゴッという効果音をつけながらもう一度訪ねる。

 ゴブリン娘たちが生贄を差し出すようにオヤビンを前に押し出す。

 

「っほっほら!オヤビン!言ってやって」

「おおおい!お前ら!いや、あのそ「早く言え」


「その…お前たちにあったのはただの偶然なんだ。私たちはここに遊びに来ただけ…」


 結論から言えば本当にゴブリン娘たちは遊びに来ているだけのようだった。ここの窪地は開けていて、遊び場に適しているのだ。それに、ここ一帯は土も柔らかくゴブリン娘たちは大層気に入っていた。


「じゃあ、お前たちは本当に相棒を捕まえに来たわけじゃないんだな?」

「最初からそう言っているじゃないか…まあ、もらえるなら欲しいけど…」

「ああ!?今なんて言った!!!???」


 モンスター娘には辛辣なレイさんであった。僕はというと他のゴブリンたちと追いかけっこして遊んでいた。


「わあつかまっちゃったーー」

「んふふー捕まえったす」

「わしもわしもお!!」

「くふふ、くふふふ」


 ふふふ、僕にはビイプがいるから小さい子の相手はお茶の子さいさいなのだ。万が一危なくなっても、レイさんがいるしね!


「ところでみんな、いったいいつからここで遊び始めたの?」

「見つけたのは、1か月前とかかの?」

「そうっす!汚れてたからみんなで掃除して遊べるようにしたっすよ!」


 そうなんだ、お掃除できるいい子なんだねって頭を撫でてあげるとみんな蕩けた表情をする。

 

「ちょっちょっと!みんなして何ご褒美もらってんだ私にもやれよう!!」

「いいよなでなで、なでなで、どう?」

「んふ…て…天に上りそう」


 そんなやり取りをしていると、レイさんが口を開く。

 

「相棒…あんまり、モンスター娘にいい顔するんじゃない……妬くぞ」

「っとごめんなさい…」

「それに暗くなってきた。寝床の準備をしなくちゃならない、私も夜通しゴブリン娘を監視できるわけでもない。帰ってもらえ…」


そう言ってテントの準備を始めてしまった。レイさんの機嫌をこれ以上損ねるわけにいかないのでゴブリンたちには帰ってもらった。


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