思いの違い
薪の音がパチパチと小気味いい音を奏でている。虫の音、微かに動物の足音なんかも聞こえるが、なぜこんなにも静かに感じるのだろう。
いままで僕は日帰りの冒険しかやったことがなく、冒険者ペアとの連泊の冒険など初めてだった。
「すごく静かですね」
「そうだな…静かだな」
「薪の火ってすごく落ち着きますよね」
「そうだな、落ち着くな」
「今日楽しかったですね…」
「そうだな…楽しかったな」
僕たちがゴブリン娘たちと別れてから、ずっとこの調子なのだ。ずっと生返事。まあ、僕がゴブリン娘と仲良くしているのを見て何か思うところがあったんだろうことは予測がつく。
「レイさんさっきから元気ないですよ、どうしたんですか?」
「そうだな、元気ないかもしれないな」
こうやって聞いてもずっと生返事だ。ここは一発かますか。
「こんな夜はえっちしたくなりますね」
「そうだな、えっちしたくな…ってえっち!!?したくなるってそんな初物じゃないみたいな言い方しないでくれ!!いや?本当に初物じゃないのか?それはそれで…」
「くすくす、あははは!レイさんうろたえすぎ!あははは!」
「え?いや…あの?どうした相棒?」
「やっと、こっち見てくれましたね」
こうやって、カマをかけるとすぐに引っかかってくれるレイさんは本当にかわいらしい。やっぱりこの人と冒険を続けていきたいな。
そのためにもしっかり話しあわないと。
「レイさん思ってる事があるならちゃんと言ってください、言ってくれないとわからないですよ」
「言ったら嫌われる。絶対に言いたくないもん」
「もんって…大丈夫ですよ。嫌いになんかなりません」
うつむいたレイさんの瞳はうるうると揺れていた。意外とレイさんってこういう弱いところがあるんだなと安心できた。こういう弱いところこそ相棒の僕が支えてあげないと。
「ホントに言っても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。僕たち相棒じゃないですか」
そう言った時に、レイさんは伏せがちな目をしっかりこちらへ向けてくれた。
そしてゆっくりと口を開く。
「相棒はさ?なんであんなにモンスター娘にやさしくするんだ?」
それは女冒険者にとって当然の疑問だった。モンスター娘は女の人にとっては積極的に退治する必要もないし、とくに危険もない。しかし、積極的に優しくする必要もない。
なぜなら、彼女らは男を奪い合うライバルなのだから。そして、畳みかけるようにレイさんが続ける。
「今日だって危なかった。蜂娘はもうすぐそこまで来ていた。なんで…」
「逆に僕はなんで…優しくしちゃダメなんですか」
「なんでもなにも…理由なんて簡単だ…これを見ろ!」
そういって出されたのは本だ。表紙には<<幼馴染は冒険者 第6巻 ~ぐるぐるえっちっち~>>と書かれていた。
「これを読んでみろ…軽くでいいから。あと217ページをちゃんと読んでくれ」
パラパラとページをめくって読んでみる。
内容はこうだーーあるところに若い男アベルと若い女のレストがいました。二人は幼馴染で一緒に冒険者になり、いろんなところで愛し合いました。ところがある日、レストが大蛇の魔物と間違えて森の精霊である
そして、217ページにはレストの後悔と情欲が赤裸々に描写してあった。
「相棒はこれをよんで…どう思った?」
どう思った?っていや…その…言っていいのかな?
「5巻まではなアベルとレストの二人の生活が細かい描写で書かれていたんだ。そりゃ、女ならレストに感情移入するだろ!」
「……」
まだ絶えろ、絶対に笑っちゃいけないやつだこれ。
「十五歳の時にこの巻を呼んだが当時の私の魂の抜けようはすごかった。それ以降NTRとモンスター娘が無理なんだ…」
とても真剣な顔で、悲痛な面持ち自分の気持ちを語るレイさん…
「あはははっははっは!あはっ!あはっおなか痛い」
「な…なんだよう。笑うなよう」
「レイさんも乙女なところあるんですね、あはは」
「い…いいじゃないか別に…もう知らない!」
恥ずかし気に顔を真っ赤にしてプイっと向こうを向いてしまった。あやや、すねちゃったかな?
「レイさん一つだけ僕の昔聞いた話、長い話になりますがしていいですか?」
「…いいよ、勝手にしろ」
「ごめんなさい、そうすねないでくださいよ。レイさんが言ってくれた通り勝手に話しますからねいいですね?」
「……」
沈黙はOKのサインだ。
「僕の知り合いの話なんですけど…昔に山で遭難したとき、もう体力もつきかけて食料も残り干し肉が数切れしか残ってなかったらしいです。そんな時、
僕の知り合いのサバイバルの達人ベアトリクスさんの話で実話だ。
初めて聞かされた時には人間とモンスター娘の友情に心が熱くなったものだ。
「だから、ぼくはモンスター娘に優しくするんです。ダメですかね?」
そう言い放った僕に対して、レイさんは否定の言葉を投げかける。でも僕にはとっておきの秘策があるのだ。
「ダメじゃない…けどそういうことしてたらいつかアベルみたいになってしまうよ」
「いえ、絶対にそうはなりませんよ」
「なんで、そう言い切れるの?実際、今日だって蜂娘にされそうになってた。」
そんなの決まってる。考えるまでもない。そうはならない自信がある。訴えかけるような目で、レイさんの唇に人差し指を当てて言った。
「いいえ、大丈夫です。だってレイさんが守ってくれるでしょ」
一瞬でレイさんの顔はさえずり草のように真っ赤になり、手をわたわたと動かしたと思ったら、がばっと勢い良く立ち上がった。
「おおおおておておて御手あら洗いに、お手洗いに行ってくる!!」
そのまま、レイさんは茂みの中に特攻していってしまった。
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