静かな日の調査
空には微かに太陽が昇り始め、あたりを微かに照らしている。ぷすぷすと燃え尽きようとしている薪はもう役目を終えていた。
「おはようございます!レイさん!」
レイさんが目をこすりながらテントから出てこようとしていた。かなりふらふらしててテントの入り口を開けるのにも手間取っていた。どうやら朝にかなり弱いようだ。……あ、こけた。
「あ、いったたあ~…おあよう…相棒…」
「あはは…眠そうですね。出発までやらなきゃならないこといくつかあるので、眠たかったらまだ寝ててもいいですよ」
「いや…そういうわけにも行かないだろう。薪の後始末くらいするよ…はわあぁ~あ」
レイさんは大きなあくびをしながら木の枝で炭を細かく割って、砂をかけていた。
でも、眠そうだけど昨日のおかげで、機嫌は前ほどひどくはなかった。
「今日はどうするんだ?」
「昨日と同じように通り道になりそうな場所を探していようと思います。ただ場所は北の方に行こうと思ってます。」
「わかった、それでいこう。はああわ。北に行くと寒くなるから体寄せ合って暖めあおうな…」
「いやいや、北っていっても森のなかだしあったかいですよ。」
また、大きなあくびをしながら冗談を飛ばしてくる。
こんなに朝が弱いのに一人旅の時はどうやって起きてたんだろう。いまも頭をふらふら揺らしながら、木の幹に頭ごチン!とぶつけていた。
「ふふふ、レイさんって朝弱いんですね」
「笑うなよ、朝は普通に弱点なんだよ」
こういうレイさんの新たな一面を知るたびに嬉しくなる。レイさんと会ってまだ一週間程だ。知らないことの方がまだまだ多い。
「はい、濡れタオルです。顔拭いてください」
「ありがとう……」
「いえいえ、これぐらいなら」
「ん…助かる」
濡れタオルで顔を拭いた後に頬をパンパンとたたき、自分の眠気を拭う。そしてゆっくりぽつぽつと話し出す。
「昨日は悪かったな…相棒の気持ちは分かった。モンスター娘のことは好きになれそうに無いが…まあ相棒の安全は任せてくれ」
レイさんにも譲れないものがあるのだろう。しかし、僕にも譲れないものがある。それを考えて、お互いに割り切ってやっていこうと提案してくれているのだ。レイさんこういうところ本当に真面目で大人だな。それなレイさんに対して僕も絶対に裏切るような事をしてはいけないと誓う。
「はい!よろしくお願いします。新米冒険者ですけど後ろは任せてください!」
昨日より、少し北上して銀狼が通りそうなところを探す。
高度が高くなったこともあって森の木には針葉樹林が混ざり始めていた。あのとげとげの木、枝が頭に落ちてくるとめっちゃ痛いんだよな。
「意外と見つかりませんね」
「仕方ない、そういうものだ。こんな広大な森からたかだか一匹の狼を見つけようとしているんだ。見つからない方が普通だ。」
「まあ、確かにそうですけど」
そんな、気構えでいていいのだろうか…
「いや、見つからない方がいいが正解だろうな。その方がよっぽど安全でいい。」
そうとだけ言うとレイさんは作業に戻っていった。
確かにそうだ。いるはずだいるはずだと思っていたが、いないというパターンも十分に考えられる。楽観的はいけないが、いないかもしれないという視点を持った方が良いことも確かだ。一人よりも二人の方が様々な考えができる。こういうところなんだろうな冒険者ペアが推奨される理由ってとどうでもよい事を考えてしまう。
「ん?なんだこれ?」
それは、違和感があるといえば、あるような気がする形の木群だった。一つ一つには十数センチ程のへこみがついているだけ。しかし、そんなへこみがここ一帯ーーいや自分が立っている周りの数本にだけ見られるのである。
「自然の形にしては少しおかしいな。でも、銀狼が高スピードで移動した際にぶつかった後なら、もっと木がひしゃげるはずだよな」
不思議に思って、木のへこみをよく見ていると…
「数本の長い…糸?いや髪の毛か?」
木のヒビに数本の長い髪の毛みたいなものが挟まっていた。それを引き抜いて観察すると、長さは二十センチほどだろうか。それに金色に輝いている。いや、よく見れば先の方が白くなっている。
「なんだこれは?透かして見ても…?なんもわからないや。まあいいや」
今は手を動かして痕跡を探す時間だ。こんな分からないものを延々と考えてても時間の無駄になるだけだ。夜にでも考えよう…とその髪の毛らしきものをポケットにしまう。
もう七か所目だが、特に何も見つからなかった。レイさんも特に見つからなかったといっている。今日も手ごたえなしか…。
「もう、ここまで見つからないってなると、いないことを証明する方向で明日調査して終わりにしますか?」
もともとこの冒険は三日で終わらせろと組合から指示がなされている。組合も力を入れて色んな冒険者たちに銀狼の調査を依頼している。そのため、お金の都合上一人当たりに三日より長い日程の調査代を出すことができないからだ。
そのため、三日分の食料、水、日用品しか持ってきていない。
「そうだな、明日で終わりの予定だし、そろそろ結論を出さなくちゃいけないからな」
「分かりました。じゃあ明日はいくつか水辺を回って街に戻って報告書を作る方向で行きますか!」
「そうだな、とりあえず今日は暗くなってきたから、野営の準備をしようか。」
確かにあたりは暗くなっており、もうそろそろ準備を始めなければいけない時間だ。暗くなれば魔物の動きが活発になるし、それまでに火の準備や安全確保は行っておきたい。
「向こうの方に開けた窪地があったからそこにテントを張ろう、今日も一緒のテントだな。ぐふふ…昨日はあんな感じになってしまったから…今日こそはしっぽりとできるかもしれん…」
「いや…久しぶりですねこのトリップ。おーい、戻ってきておーい!れいさーん?」
「は!?そうだな、さっさと準備をしよう」
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