レイさんとの野営
とりあえず夜越えの準備はできて、あとは火の番を交代でしながら朝を待つだけだ。
しかし、僕は火の前で死んだ目をしている。なぜ目が死んでるかって?簡単なことだ。軽い気持ちだったんだ。
「昨日言ってた<<幼馴染は冒険者>>ってどんな話だったんですか」
「そうか、相棒も知りたいか~なら教えてやろう。でも実際に読んでほしいからな私のすきなシーンだけ演じてやる」
僕はなぜあんなことを言ってしまったのか…あれから二刻の間、延々とレイさんの一人芝居と考察や解説を聞かされ続けている。確かに始めの半刻はおもしろかったよ。でも、話が意味わからなくなったあたりから僕の目は死に始めた。
「そこでな、アベルははじめてレストの脇を舐めるんだ。そんなこと男性にされたことが無いレストは言うんだ。<やっぱり、あなたしかいない。私はあなたの剣になる。だから、あなたは私だけの玉袋になって>ってな。そうしたら…」
いや、なかなかに衝撃的な殺し文句だなと心の中で突っ込まざるを得ない。というかそれよりどうして鼻を舐めるとかそういう状況に至ったのか…謎に謎が深まる。
「そうしたら…アベルは断るんだ。<そんなこと言わないでほしい。困るよ>って」
そりゃそうだ。私だけの玉袋になってとか言われたら引くよ…ふつうなら。
「でもアベルはこう続けるんだ。<僕は君の玉袋にはなれない、僕は君の竿になりたいんだ。>」
違った。アベルもなかなか頭のねじが飛んでるやつだった。
「なかなか、アベルってキャラやばいですね」
「やばいだろう。男の中の男って感じだ。そして、そのまま二人の初体験シーンに移る。ちなみに私はこのシーンで数えきれないくらい、お〇にーした」
ずっとこんな感じだ。<<幼馴染は冒険者>>の感性がぶっ飛びすぎてて、僕には理解できないのだ。しかし、この作品ー百万部を売り上げた伝説の作品らしい。女性のやりきれない性欲にささる言葉や場面がもう僕にはわからない。今日得た教訓は僕は作家にはなれないだろうということくらいかな。
「そして、二回目のエクストリームボンバーエッチの話なんだがな」
「いや!?エクストリームボンバーエッチってなんなんですか!?」
もう突っ込まざるを得なかった。
「説明しよう!エクストリームボンバーエッチとは噴火することだ。それも無限に!そしてしなやかに!!」
「それって、火山でするってことですか?」
「いや、違う精神性かつ肉体的にという意味だ」
「…へ、へえ~そうなんですね…そ、それはすごそうです…ね?」
なんなんだよ…わからない。本当に意味が分からない。女性って心の中ではエクストリームボンバーエッチを望んでるのか。もしかしたら、僕の初体験もエクストリームボンバーエッチになるのか?いや、僕は普通がいい…
「<<幼馴染は冒険者>>って高尚文学でもあるからな。ふふん!」
もうそういわれればそうなのかもしれない。だって全然わからないもん。これよりも前の話で出た"精出る処の天子、精を、精没する処の天子に致すためのえっち"もよく分からなかったし。
しかも、レイさんの興奮はとどまるところを知らない。これ、下手したら朝までこの話が続くかも…。それは何とか避けないと!
「あの、なんか一番良いシーンってどこなの?」
「ん?今まで言ったシーンはすべて名シーンだが?」
「いや、そうじゃなくて感動できるというか、泣けるというか。心にささるというか…」
「ああ、そういうことか…それなら、レストが初めて依頼に失敗したシーンだな。アベルがな失敗して落ち込んでるレストに向かって言うんだ。<頑張って…相棒、僕の信じた相棒なら絶対に立ち上がれる>ってな!しかも膝枕と頭ナデナデつき!」
あるじゃないか、普通のシーン…。
。
………
……
結局、それからさらに一刻の間レイさんの熱弁は続いた
熱弁した後に時刻を確認したレイさんはなんだかんだ反省していた。
「こんな時間まで悪かったな…他の人との冒険での夜ってこんなにテンションが上がるものなんだな。今度からは気をつける…火の番は私が先にするから休んでてくれ」
「それだったら、僕はお手洗いに行ってから休ませてもらおうかな」
「トイレ!?いや、御不浄!?いやレストルームか!?」
「別に言い直さなくても…」
少しの沈黙が生まれる
「……」
「先に言っておきますけど覗かないでくださいね」
「いや、覗くわけないだろ!!!!私を見くびるな!!!」
そういって、窪地から少し出た。茂みの後ろまで行く。
あたりはかなり暗くなっているが、月の光が明るいためまだ目が利く。だから、多少火元から離れても行動はできる。今日が満月で良かった。
森の夜って少し冷えるな。茂みの裏まで行ってから、ガサゴソとズボンを下す。
「ふぅ、はぁああ、ってレイさん何してるんですか?」
僕の真横にレイさんが仁王立ちで立っていた。
「いや、気にしないで続けてくれ」
「そうですか…って覗いてるじゃないですか!??」
「すまん、私はするつもりはなかったんだ。が私の体が行け行けってうるさくてな、仕方なく来たんだ。でもこっそりするのもあれだしな堂々と来てみた」
「なんの言い訳にもなってないですよ!」
「この後ろ姿と音だけでご飯三杯はいけるな」
「かなり上級者!??」
そう言いながら、身動き取れない僕の肩に顎を載せてくる
「ひう!?やっやめてください!!」
「大丈夫だよ…私に任せくれ…すぅぅぅぅぅ」
レイさんは大きく深呼吸しだした。まるで森のマイナスイオンみたいな扱いだ。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「なんで、そんなに落ちついてるんですか!?もう終わりです戻りますよ!ってか火の番はどうしたんですか!?」
そうだ!火の番をしてくれ!山火事でも火が消えてもやばいことになるんだ!甘く見てはいけない。
「いや、しばらく魔法で維持してるから大丈夫だ。安心してくれ」
「え?レイさんって魔法使えるんですか?」
一般的に魔法ってかなりの勉強とかなりの練習を必要とする。それなのに、覚えても大して戦闘で使えない、日常でもあまり役に立たないことで、習得している人は少なかった。
「そうだな、一人冒険で火の番がめんどくさくなってな。火の簡単なやつだけ覚えたんだが、覗きに行く時間稼ぐくらいしか使い道ないな。」
「そんな使い方魔法が泣きますよ…」
「いや、私としては今やっと初めて頑張って覚えたかいがあったなと思えた」
火の維持を少しの時間するって簡単な魔法でも覚えるまでに最低二十日近くかかる。素直にそれを頑張ったレイさんを褒めよう。でも、今度から覗きも気を付けないといけないのか…はぁ。夜は火の番あって安全だと思ったんだけどな。
「そろそろ、魔法が切れる時間だから私は先に戻る。ごちそうさまっとだけ言っておく」
「そんなこといいですから!もう見ないでください!ふつうに恥ずかしいです」
そんな抗議を聞くまでもなく、レイさんは戻って行ってしまった。
……
…
夜風が体を少し冷やす。月はきれいに出ていてテントへの帰り道を照らしてくれている。
「とりあえず僕も戻らないと」
そういって振り返った。すると視界の端に不自然な形の木が見えた。今日の昼に見たものと同じ形である。数センチへこんでいてそこに金色の髪の毛みたいなものがくっついている。
そういえば、先が白くなっているのも昼と一致している…
先が白い金色の髪の毛が木に付着している…
そういえば、今日テントを張っている窪地も昨日の窪地と形が似てるな。
おおきい慣らされた窪地?
へこんだ木群?
僕の中で思考がグルグルと回る。聞いたことある情報がこれじゃない、これじゃないと取捨選択されてくる……もしかしたら…もしかするのか?でも、そんなことってあり得るのか?
とにかくレイさんが危ないかもしれない!僕の予想が外れている可能性もあるが早く戻らないと!!
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