僕の一面
僕は貴族の家に長男として生まれ落ちた。まあ、男性が少ないこの世界に次男がどれほどいるのかという話でもあるが、それでも長男である。
それは、それは大事に育てられた。家から出ることも少なく、信頼のある男性の給仕たちや家族と過ごしていた。妹達も可愛かったし、今思えば小さい子が好きになったのは妹たちの影響も大きいだろう。
まあそれは置いておいて不自由は無かったと言っていいだろう。
そんな、ある日父上が僕に家庭教師をつけると言ってくれたんだ。花婿修行だとか、一般常識を知るためだとか色々な理由があったがそんなことはどうでも良い。問題は<<誰が来たか>>だ。
<<ベアトリクス・ロスベリー>>――冒険者稼業一本で国から認められ高位の貴族位を維持している豪傑の一家の長女。踏破できない場所など無いとも片手でドラゴンを屠ったなどとも言われる本物の冒険者である。
色んな話を聞かせてもらった。砂漠の薔薇の群生の話、優しい龍娘に助けられた話、天嵐狼十匹相手の大立ち回りの話。その一つ一つが僕には新鮮だった。外の世界に興味を持つのは時間はかからなかった。
興味を持ってからはひたすらに勉強した。外に行くためには必要な準備だったし、それ以上に未知が一つ既知に変わるだけでとてつもない快感が得られた。
それゆえに僕は魔法や魔術と呼ばれる知見にも手を出した。貪欲に知識を求めている僕と魔術の世界はあっていたようにも思う。私的に論文をいくつか書いてあのクウロンを唸らせたこともあるほどだ。特に『超高位回復魔法の発動環境と実行速度』の研究はよくできた研究だと自分でも思う。
そして、知識を十分に得たと感じた僕は冒険者を目指すために家出した。
――そして重要なことは、目の前の少女がこの一連の流れをどこまで知っているのかということだ。もし、僕の秘密がばらされれば、居場所がばれて家に連れ戻されて、冒険者稼業もすべて終わりだ。目の前に座る少女に向けて一瞥をくれる。
自称研究者のファウラン、敵なのか味方なのか。墓穴を掘って自分の要らないことは話したくない、でも相手の持ちうる自分の情報は知りたい。どう話しかけていいものか迷っていたところ、言葉はシャウランの方から切り出された。
「私が何で少年のことを知っているか聞かないのネ?」
「なんだ、喋ってくれるの…?」
「うーん、ドーしよっナー?」
自分で持ちかけておいて、聞こうとしたらどこ吹く風のファウラン。
まあ、僕にとっては重要事項だ知らなければならないことだ。
「話してよ!」
「うーん、やっぱやめとこッカナー?」
「じゃあいいよ放さなくても」
「ううん、話すヨ!さいしゅーてきにハ!」
「じゃあ今話せよ!」
「ドーしよっかナー?」
なんだこいつ!めんどくせ~!
うざい!うざい!!むかつく!!!
こんなめんどくさい人に会ったのは初めてかもしれない。もうこの人との交渉自体がめんどくさい。
「じゃあいいよ!もう!」
「ウソウソ、話すヨ!ただし条件があるネ」
なんだこいつ!もういい!と思ったが、熱くなってはいけない。危ないところだった。聞くだけは聞いてみよう。
「な…なに、条件って?」
「エエ~どうしよっかナ~?」
「はよ言え!!!!」
「ワワ!ゴメンネ!?」
大声を出した僕に対してファウランは少し驚いていたようだった。少し悪いとは思ったが仕方がない。なんか神経を逆なでしてくるファウランが悪いのだ。
「条件は私の研究を手伝うことネ」
「研究って…男とモンスター娘の研究のこと?」
「それはまあ…その…語弊があるね。正確には『モンスター娘に対する男性の魔法効果調査』ネ。少年にやって欲しいことは…そうネ、この先にケガをした翼人種―ハーピィがいるから回復魔法をかけてあげて欲しいネ」
驚いた!!この人思ったよりも真面目な研究者だ。しかも題名を聞いてわかる目の付け所が抜群に良いタイプの研究だ。
「それで?どうすル?っマ、この馬車に乗ってる限り断る選択肢は無いんだけド」
ケラケラと笑うファウラン。僕としてもモンスター娘と仲良くしたいため、断る理由はない。それよりもこのファウランが持っている僕の情報だ、そっちの方が気になる。
「条件については飲む、だから僕の情報をなんで持ってるか言ってよ」
「あれ?少年まだ気付いてないのか?私クウロンの一番弟子ヨ?」
「…は?それって嘘なんじゃ?」
「…エェ!?なんでヨ!?なんでそんなウソ私がつくヨ!!正真正銘弟子ヨ!!だから少年がクウロンに魔法を学びに来てることとか知ってるよ」
え!?あああああぁああ!そういうこと!!?嘘じゃなかったのね!弟子の話は!確かにファウランの研究も魔術に関することだしね!ああーーなんかスッキリしたわ。じゃあ、ファウランの身元にある程度の保証があるんだから、こんなに気を張らなくても良かったんだ。ああーーそういう事ね!
秘密を握られて誘拐というなかなかパワームーブをかまされていたやっと少し安心することができた。
「それで、少年の秘密はクウロンと
「え!?」
しかし、僕の心は一瞬で冷えることになる。クウロンと同じくらいってほとんど全部だからである。
「それって、黙っててくれるんだよね…?」
「んふっふーどうしよっかナ?少年の頑張り次第カナ~?」
うわあああぁぁあぁああ!ほんとこいつ嫌いかもしれない!!!
馬車はハーピィの里に向かってガタンゴトンと進んでいく。
ファウランと上手くやっていけるのかなかなかに心配である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます