ハーピィ登場
馬車が進むにつれ草木が少なくなり、ごつごつとした岩肌が目立ってくる。
ハーピィという翼をを持った鳥型の種はこういった切り立った場所に巣穴をほって過ごす傾向がある。こういった場所では四足型の魔物は過ごし辛く安全が確保しやすいというのが通説であるが、未だにその理由は解明されていない。
そして、馬車が進むたびにガコッ!ボコッという音が大きくなってくる。
「ハーイ!御者さーん!ここまででいいですヨ~!」
ファウランが御者に命じて馬車を止めさせる。さもありなん、この岩肌では車輪が傷つくだけだ。そんなファウランが僕の手を引っ張る。
「少年!じゃあ!行くネ!」
「あ!ちょっ!」
腕を引っ張られて少しこけそうになるが、そんなのもお構いなしとファウランは僕を馬車の外に引っ張り出す。
「わわわっコケるって!わぷっ!」
馬車の入り口完全につまずいてしまった!
しかし、痛みは訪れることはなく、柔らかいものに包まれていた。ファウランの胸だ。
「オオー?なんだ?甘えたかったのカ?私のおっぱい飲むカ?」
「違うわ!!シャウランが引っ張ったからでしょ!!」
「アハハ、ごめんネー?」
ケラケラ笑ってからかってくるファウランを見て、思わざるを得ない。『この人めんどくせーと』。
そんなファウランは僕を馬車から降ろしてすぐに、御者に向き直り何かを渡していた。
「それじゃ!御者さん!これお金ネ!バイバイ!」
「え?え?いいの?」
その直後、御者は馬に鞭を入れすぐさま町へ引き返していく。
馬車は少しずつ小さくなっていく。
この岩壁に囲まれた場所から街へ帰る術が無くなってしまったことを意味している。
「ちょ…ちょっとファウラン!これどうやって町へ帰るの?馬車帰らせても良かったの?」
「もう街には帰らないヨ!」
「は?」
「だから街には帰らないッテ?」
いやいや、馬車が進めないような切り立った崖においていかれて、こんなところで何をするというのか?てっきり、馬車を拠点にしてここ一帯を探索するものとばかり思っていた。
「いや、どうするんですか!?ここから!!万が一ハーピィの集落が見つからなかった時にも馬車は待っててもらう方が良かったんじゃないですか!?」
「いやーそれだとお金かかるしネ~」
「お金なんてものを気にしてる場合ですか!このままだと飢え死にますよ!!」
「大丈夫ヨ!!」
「大丈夫って!何が!!」
「何がって万が一は無いカラ!」
その瞬間ファウランがピィイイイイイイイ!!と指笛を吹いた。すると、空に二つの影が浮かぶ。
バサ!バサ!とその影は大きくなりこちらに近付いてくる。
「あれ何!?ってハーピィ!!?」
「そうネ!!私がハーピィの知り合いなしで少年にこんな依頼するわけないネ」
「え?ああ…そうなの?」
いや、そりゃそうかって思うと同時に『先に言えよ』って怒りも沸々と湧き上がる。この怒りをどうすべきかって考えている時にもう二人のハーピィは僕たちの周りにふわりと降りてきた。
「ファウラン!この少年か?回復魔法が使えるのは?」
「本当にお嬢は治るんだろうな!?」
二人の肩から先は完全に翼になっていてそのウィングスパンは三メートルはあるだろう。間違いなくハーピィだ。服装はほぼ下着に近いような布面積しかなくて目のやり場に困る。こういう、薄着を好むところもハーピィの特徴である。
二人はよく似ていて、髪を一つにくくっているか二つにくくっているか程の違いしかない。双子なのだろうか?
そんな二人にも引くことなくファウランはズケズケと言葉を紡いでいく。
「そうネ!この少年がこの前言ってたアルノ―なのネ!」
「おお!そうか!よく来てくれたな!早速里に向かおうか!」
「姉者…その前に自己紹介と挨拶を…」
ファウランの言葉に喜色を浮かべる一つくくりさん、それをたしなめる二つくくりさん。この二人はやっぱり姉妹だったのか。
そんな二人が僕の近くにトテトテと近づいてくる。よく飛んでいる分歩くのは苦手なようだ。
「君がアルノーか?私はワシワシ、それでこちらが妹のタカタカだ」
「私たちは双子の姉妹なんだ…まあ…よろしく頼む」
「あははー!どっちがどっちか私も覚えてないネ!だから少年も覚えなくてイイヨ~アッハハ~」
またファウランはケラケラと笑っている。そんなファウランを見てハーピィの二人もギロリとにらんでいた。その気持ちとってもわかります。
しかし、すぐにこちらに向き直して真面目な顔に戻る二人。
「挨拶もそこそこで悪いが君にして欲しい事があるんだ。お嬢を助けて欲しいんだ!」
まあ、助けてって言われたら助けるけど、こんなに真面目な顔をするほど悪いのか?少し心配になる。
ワシワシの言葉不足を補うようにタカタカが口を開く
「姉者…それだけじゃアルノー君には伝わらないだろう…事細かに説明してやってくれ」
「おお!そうか悪いな…まずお嬢ってのは私たちの長の娘だ。じき長の候補としても有力な私たちのリーダーでもある人なんだ。そのお嬢がな…翼を怪我して飛べなくなってしまったんだ。飛べないってのはハーピィにとっては半人前と同義だ。だから今は族長会議にも呼ばれなくなっててな…。その…見てて可哀そうなんだ」
確かに飛べなくなるのは可哀そうだ。できるならば直してあげたい…。しかし、問題は傷の程度だ。超高位でも回復魔法は万能ではない。要らぬ希望を持たせるのも可哀そうである。
「なるほど…それで傷は深いんですか…?」
「傷の深さは大したことはない、自然治癒でも数週間で治るだろう。だが、問題はケガをした理由だ。なんかお嬢は『裸で森を走ってる男を見かけて落ちてしまった』などと意味の分からないことを言っていてな。頭がおかしくなってしまったんだ…くそおお!」
説明している時にお嬢様を思って感極まったのか、慟哭する。それよりも『裸で走る男』って…。いや、そんなわけないよね…。
悔しさで続きを説明できなくなったワシワシの代わりにタカタカが説明を続ける。
「そして『裸の男事件』で頭がイカれたと非難された。お嬢は精神的に落ち込んだのとケガが相まって飛べなくなってしまったんだ。ほんとうに悔しい事だ。我らがついていれば…」
「…あのぉ…それっていつ頃の話ですか?」
「いつ頃の話?森に天嵐狼が出たと言われている日だ…だから、お嬢は天嵐狼にビビってその嘘をつくためになんて言われているんだ。本当にあの勇猛果敢なお嬢がそう言われているのが悔しい!!!」
いやそれ俺やないかーい!!とは言えない状況だ。これもしばれたらやばいやつ?お嬢様やそれに続くハーピィ達が怒りのあまり僕を性奴隷にするなんてこともあり得るわけで…。
いい、いや!放置が一番ばれた時ヤバいやつだ!それに、これは僕の行動が原因となっているわけだ!僕が責任をもって直してあげないとな!
「分かりました!責任を持って僕が頑張ります!」
「おお!そうかやってくれるか!」
「なんとありがたい!君は音に聞く男神みたいだな!」
二人の感謝がまぶしい。いやあ本当にばれないように上手くやんないと…。
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