さわやかな朝


 冒険者組合員ビイプの朝は早い。まだ外は日が昇っておらず薄暗い。…というか丑三つ時だ。

 横に寝ているアルノーを見つめる。


 …本当に美しい…、ああ…本当にこの家に引き込んでよかった…


 アルノーがこの町に来たのは数週間前である。こんなきれいな少年が冒険者登録に来たときは驚いたものだった。

 そこから担当になり色々話しているうちにどうやら住む場所のあてがないらしく、ごり押しで自分の家に住まわせることに決めた。


 アルノーはどうやら自分のことを少女だと勘違いしているようで、話はとんとん拍子に進んだ。

 また、勘違いしていることに付け込んで、同じベッドで寝ることに成功しているのであった。


「と、アルノー様の顔を見ていたら、時間なくなっちゃう…」


 こんな狭い小屋で数週間も男性アルノーが住んでいるのだ。もう部屋のいたるところから男性のかぐわしき香りが漂ってくるようになっていて、どうにも欲がたまっていけない。

 

 私は13歳の少女(ということにしている)なのだ。メスの匂いを漂わせてはいけない。


 

 …ということで、毎晩アルノーが寝ている時にトイレに行くことにしているのだ。そして今日も…


 …………



 ……



 …ふぅ




 ビイプがトイレから戻ってくるころには半刻ほどが経過していた。

 それでも、アルノーの様子には変化がない。


 ここ数週間、一緒に過ごして分かったことがある。アルノーの眠りがとても深い事である。

 一度寝たアルノーは朝になるまで起きない。となると、することは一つだ……


 …………



 ……


「んしょ…んしょ…ここに腕を通して…」


 ビイプは今日は攻めていた。普段は寝相が悪いふりをして、足を絡ませるくらいで止めているのだが今日はその限りではない。

 レイシャルの存在だ。レイシャルがアルノーと帰ってくるのを見て、はらわたが煮えくり返っていた。


「あの、性獣め…ぜってーゆるさねえ」


 ビイプがレイシャルのことを性獣と呼ぶのには理由がある。

 以前ビイプがレイシャルの担当になぜチームを組んで冒険をしないか聞いたことがあった。Aランクであるレイシャルは引く手数多だったし、単なる疑問として聞いたのだが帰ってきた答えは予想と違ったものだった。

 

 「レイシャルって毎晩数回アレしないと我慢できないらしいのよ…アレ?アレって言えばアレよ!言わせないで」と返ってきたのだ。

 当時はそれを聞いて爆笑したが、今は笑えない。


「レイシャル絶対明日もアルノー様に絡んでくるだろうな…くっそ~」


 

 やきもちをいくら焼いても焼き足りない…

 だから今日は攻めるのだ。アルノーに気づかれない様に…寝相を装って…


 ゆっくり…

 ゆっくり…




▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 僕が起きると何となく体重たかった。

 いや、けっこう重たい。かろうじて動く首を回して確認するとすごいことになっていた。


 ビイプが僕のズボンに頭を突っ込んで、右足の裾から右手、左足の裾から左手を出していた。

 さらに、下半身を僕のシャツに突っ込んできていて、いわば僕たちは一つの衣服を二人で着ているような状況だった。


 本当に寝相が悪いなあと心の中でくすくす笑う。なにはともあれとりあえず起こさないと!


「ビイプ!起きて、朝だよ」

「ん…うーうん…」


 ビイプがもぞもぞと僕のズボンの中で動き出す。ビイプの髪の毛がくすぐったい!


「ちょ!ちょっと!あんまり動かないで!」

「うーん、ごろごろ、すぴー!すぴー!んふんふ」


 本当に起きないな。全く世話が焼けるんだから!とビイプの脇腹に手を当て…


「こちょこちょ!おきろおぉぉ!」

「ぴゃあああ!んひゃひゃひゃ!」

「起きた?」

「はい、起きましたっ…てこの状況また私やっちゃいましたか…?」

「そうだね、寝相みたいだね」

「本当にごめんなさい…すぐにどけて朝ごはんの準備しますね」


 そういうビイプの肌はつやつやとしていたが、目の下にはしっかり隈ができていた。







 食卓には切ったパンに焼いた卵を乗せたものといくらかのサラダ、そしてミルクが並んでいる。 

 いい匂いだあ…とおかずを見ていたら、ビイプがサラダを取り分けてくれた。


「今日も冒険に向かわれるんですか?」

「うん、今日は森の奥の方に行ってみようと思ってるけど…」

「あのー、言い忘れてたんですけど今日の昼に冒険者組合本部のお偉いさんの方がお見えになるらしくて、アルノー様にも会っていただきたいんです。」


 冒険者組合ともなるとそんな仕事が増えるのか…しかたない。


「いいよ、それじゃあ今日は森に行くのは控えようかな。それで、そのお偉いさんはなんのためにくるの?」

「そうですねーだいたい視察が多いんですけど、このタイミングってことは男性冒険者の対偶の確認だと思います。

 男性冒険者って多分歴史的に見ても初めてだから、囲い込みたいんでしょうね」


 本部に監視されるのは嫌だけど、まあ何にもされずに無視されるよりはいいかな。


「だから、いろいろ書類仕事があってもうそろそろ家を出ようと思ってますけど、アルノー様はどうします?」

「その本部の人が来るのってお昼だよね?それじゃあ僕はそれまで街をぶらぶらしようかな。」 


 といつも通りの朝が終わる。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る