冒険者組合への帰還

 僕は金髪碧眼のグラマラス美人お姉さんの後ろを歩いている。それも無言でだ。お姉さんも無言だ。


「……」

「………」

 

 

 先ほど、モンスター娘---ゴブリンの少女たちに襲われたところをお姉さんに助けてもらった。

 僕がゴブリン娘にもみくちゃにされているところに、颯爽と現れて助けてくれたのだ。なんともかっこよかった。


 その際に、乱れた僕の衣服を見て興奮したお姉さんに襲われかけたということがあったが、最後には思いとどまってくれて本当に良かった……

 お姉さんはそのことを後悔しているらしく、ゴブリンの洞窟で「悪かった街まで連れていく、信じてくれ、、」と言ってAランクの冒険者証を見せてくれて以降口を開かなくなってしまった。

 


「……」

「………」


 これはあれだ。なんというか気まずい。

 それに、なんだかんだ結局僕はお姉さんに感謝しているんだ。このまま町まで連れて行ってもらって「はい、さようなら」というような恩知らずにはなりたくない。

 どうにかして、コミュニケーションをとらないと!


「お姉さん!お姉さん!」


 すると、お姉さんがビクッ!としたようにこちらを振り返った。


「なんだ…怒っていたわけじゃないのか……良かった…

 どうした?」


 お姉さんはなんだかんだ真面目なようでやっぱり気にしていたようだった。

 この、肉食系女子が大多数を占めるご時世、ここまで真面目なのはかなり好感が持てる。


「まだ、お姉さんの名前も知らないなと思って!お姉さんのこと教えてほしいなって」

「これは…セクハラしたのにこの対応は脈ありなんじゃないか…いや、処女はすぐに勘違いするからって恋愛指南書に書いてあったし…いや?でも…」

「……お姉さん?」

「あ!いや、すまん!」


 このお姉さんはどうにも思考がトリップしやすいようだった。真面目だけど真面目な分やばいタイプの人かもしれない…。


「私の名前はレイシャルという。レイとでも呼んでくれ。Aランクの冒険者をやっていて、調査の一環としてこの森にやってきた。私も君のことも聞いていいかな?」

「僕はアルノーといいます。レイさんと同じ冒険者をしてます。といってもまだまだ駆け出しのEランクですけど…」


「なに!?男で冒険者!?それは、もう春画本に出てくるような設定の男の子だな……たしかあの本では夜な夜なパーティーの女達とテントで……ということはアルノー君も…グフ、ぐふふ…」


 またトリップしだした。しかも妄想がすごい…今頃お姉さんの頭の中で僕は何をされているのだろうか…ブルッ


「レイさん!!」

「ぴゃあ!はいすみません!!」

「僕のことはいいです!!レイさんの調査について聞かせてください!」



 強引に話を変えなければレイさんは妄想の旅から帰ってこないだろう。

 強めに声をかけると、レイさんはハッとして調査について語ってくれた。


「いや…な、ここら一体で悪い狼が出るって噂が広まってるんだ」

「悪い狼って狼娘ワーウルフですか?」

「違う…モンスター娘じゃなくて魔物の方だ。それも高位の銀狼シルバーファングって噂だ」



 この世界ではモンスター娘と魔物は明確に区別されている。モンスター娘は人族の男性を襲うため女性たちから嫌われてはいるものの、自然と共に暮らしそれぞれの文化を持つ立派な生き物だ。

 それに対し、魔物は魔素や気力といったものが凝縮して生まれるため知性を持たない…いやそれどころか生き物とすら言えない。

 そのため、冒険者はモンスター娘は基本的に放置して、魔物を狩ってその毛皮や魔石などを売り生計を立てているのである。


銀狼シルバーファングってかなり危ないやつですよね…見つかったんですか?」

「いんや…全く痕跡すら見つからなかった。多分誰かがいたずらで流した噂だろう。組合にもそう報告するつもりだ。……と町が見えてきたな私はこのままギルド向かうがアルノー君はどうする?」

「僕もこのままギルドに向かおうと思います。お供させてもらいます!」


 そう言って笑いかけると、お姉さんもニコッと返してくれた。




▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「あぁあるのおおおさまああ!!!心配しましたぁ~!!!」


 泣きそうな顔で僕の帰還を喜んでくれるのは、冒険者組合で僕の担当をしてくれているビイプだった。

 ビイプはドワーフ族の少女でやや褐色の肌に緑白色の髪を持つ小さな小さな女の子である。僕より年下だと本人から聞いたので、僕は妹のようにかわいがっている。

 たまに、組合の人たちからビイプって今年で三十歳だよって言われるけど、さすがに騙されない。だってこんなに小っちゃいんだから。


「アルノー様があのレイシャル様と一緒に帰ってきたときは…血の気が引きました…ほらレイシャル様って男性に悪いことするって噂ですから」

「いやいや!レイさんはそんな人では…なかった…よ?」


 セクハラやトリップ癖を思い返すと、大手を振って否定はできなかった。でもレイさんは真面目なんだ。


「その否定の仕方……!!!っは!?もしかしてレイシャル様に痛い事されましたか?」


 「男性に悪い事」って聞いても性的なことじゃなくて、「痛い事」ってほんとにビイプは初心だなあとしみじみする。


「違うって…本当に大丈夫だったよ。それよりも依頼の薬草の納品…いっぱいとってきたんだ!」

「わあわあ!こんなにいっぱい!アルノー様ってほんと採取の才能ありますね!」

「むふふーそうでしょ~!群生地見つけたんだよ!」


 ドやっとビイプに向けて笑みを浮かべる。


「…やべ…い…むふふーって…可愛すぎ、ぶち犯し…え…」

「ん?ビイプなんか言った?」

「いいえ、何も言ってないですよ」


 ビイプはニッコリと太陽のような笑みを浮かべてくれた。

 

「ところで、この後お時間ありますか?」

「ん?大丈夫だよ!どうしたの?」

「いえ、私も今日の仕事終わりましたので、夕飯の買い物良かったら一緒にと思いまして…」


 僕は事情があってビイプの家に厄介になっている。夕飯の買い物くらいいくらでも手伝う。そうでなければただのごくつぶしだ。

 しかも、両手の人差し指をつんつんして頼み込んでくるビイプを見て断れるだろうか、いや断れない。


「いいよ、いこっか!」











 スークの中を外套を目深にかぶってビイプと歩く。以前は何も付けずに歩いていたのだが、呼び込みがすごすぎてビイプに「お願いですから、外套付けてください」って泣きつかれた。


「ビイプ!ビイプ!あのお肉おいしそうだよ!」

「…美味…そうな…はお前だよ…」

「え?スークって人声が多いから、聞き取れなかった。ごめん…」

「いえ、確かに美味しそうだなって言っただけですよ。」


 スークではあっちから「スパイス一掴み15Gだよ!!」、むこうから「魚三尾かうと一尾おまけするよ~!!」と本当に迷ってしまう。


「本当に迷っちゃうね。今晩何にしようか…」

「表にある店はぼったくりが多いからとりあえず奥の方に行きましょう!」




 しばらく歩いて、あれやこれや言いながらスークを物色すると、人がごった返している場所を見つけた。

 今日歩いていた中でも人がごった返しているところは大安売りが多かった。

 これは見に行くっきゃない!!


「なんかすごく人気みたいだね!あの店!行ってみようよ!」

「ええ…!?あの店はやめておきませんか?人いっぱいですし…」

 

 ビイプが慌てたように僕を止めにかかる。


「ちょっとだけ!ちょっとだけだから…」

「ほら、私的にあの店!運気!悪い気がします!」

「じゃあ見るだけにするね!」

「あ!!ちょっと!!」


 ビイプが全力で止めに来たが、気になる。僕の好奇心は止められないのだ。

 人の間を潜り商品を見に行く。





 すると…




 ……<<男冒険者アルノー手摘みの薬草 1万G/一束 写真付き>>


 



 ……結論:好奇心は猫をも殺すらしい。





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