頑張るあの子
すがすがしい朝。だが、少し早く起きてしまった。
もう少し寝ようか迷うが、せっかくなのでトイレに行くついでに軽くこの洞窟を探索することにした。
横見ればサクヤがぐっすりと寝ている。ぷぅぷぅと可愛いいびきを立てている。
「昨日は、マッサージ激しくしちゃったもんね…」
運動にそれからマッサージ、筋肉ほぐしと疲れる要素がてんこ盛りだった。
サクヤがこうやって眠りこけるのも無理はない。
「つんつん…あはは全然起きない」
ほっぺを突っついても寝息をぷぅぷぅ慣らすだけで起きる気配は全くない。
こうやって寝顔を見ているとホント静かだ。
純白の肌に純白の髪、天使と見まごうほどの美しさである。
「起きてると、怒ったり、泣いたり、感情豊かで騒がしいのにな…」
ここ数日だが、すぐバカバカ言ってきたり、夜は寝ながら涙を流していたり…色々なことがあったなあ。本当に疲れる数日間だった。
「でも、そういうところが可愛いんだよね…」
サクヤの静かな寝顔を見て、掛け布団を掛ける。
「治療もう少しだから…今日も頑張ろうね、また起こしに来るからね」
そう言って僕はお手洗いに向かった。
▲▽▲▽
トイレに行った帰り一つの部屋から明かりが漏れ出ているのが見える。
中からはうめき声とがさがさという音がしきりに聞こえる。
「こんな朝早くから何してるんだろ、たしかここってファウランの部屋だったよね…」
いや…電気がついているということは昨日の夜からか?
好奇心が抑えきれず、ゆっくり扉を開けて部屋の中をのぞく。
「え~と、こっちを正規分布に当てはめて…魔術方程式の解がこれだから…図示した結果がこれになってて…、回復魔術の魔術構造が高位になると一般的に魔術効率は悪くなるから…ええと…ぶつぶつ」
紙の束に囲まれて、左手には本を持ち右手でペンを走らせているファウランの姿があった。
その表情は鬼気迫るものがあり、いつもからは想像もつかない表情をしていた。
「ファウラン…邪魔しちゃ悪いな…」
そう思って扉を閉めようとするのだが…
ギイィィィイイ!!
「…あ」
「…ふぇ?」
死体娘の様な顔をしたファウランと目が合う。
その間、一秒…二秒…三秒…
「うわ、わわわわぁ!」
ファウランは急いで衣服で顔をごしごしと拭い、指で口角を引っ張っていつもの表情…みたいなものを作る。
「うぅえ…少年きょ…今日はどうしたカ?夜這いカ?」
「ファウラン…夜這いって…もう朝だよ」
「ふぇえええ!?もう朝!!?い…いや知ってたネ!冗談ヨ!」
いつものように冗談をかまして、からかって来ようとするがそのキレはゼロである。
いつもやられている分今度はこっちの番だ。
「ふふ、ファウランってめちゃくちゃ真面目なんだね」
「うぅぅう…ち…違うヨ?私破天荒ネ!」
「そんなこと言っても朝まで研究しちゃうんだもんね…」
「むうぅうううぅ!!」
そう言うと、計算用紙をぐちゃぐちゃに丸めてへそを曲げてしまった。
「あはは、冗談だよ!それでなんの研究してるの?」
「心的要因と回復魔法の効果についての論文…」
研究の内容を聞くと、すねながらもボソッと答えてくれた。
かなり特殊な…僕に依存した研究だが面白そうだ。
「へえ!おもしろそうな研究だね」
「だロ!だロ!あたし渾身の研究なんだ!!ほら見ろヨ!この実験結果、上手くきれいに波形出てるだロ!これ論理証明までしてるんだゼ!」
素直な感想を述べるとファウランは目をキラキラと輝かせた。しかし、ファウランはその顔をすぐ曇らせる。
「でもな、クウロンも他の妹弟子もみんなつまんないからやめろって…机上の空論だって言うんだ…」
ファウランの素が出た瞬間だった。
自分の研究結果が認められないのは本当に悔しい事だろう。それもこんなに良い結果が出てるのに…。だがそういう時にはそういう時なりのやり方だってあるはずだ。
「他の研究をするって考えはなかったの?そんなもんは頭の中だけのものだって否定されたんでしょ?」
そうだ、この世には他の研究をして名を残した偉人だってたくさんいる。それこそ、こんなに優秀なんだったら…と思わざるを得ない。
しかし、ファウランの言葉に迷いはなかった
「考えたこともある…ガ、あきらめきれなかったんだ」
「なんで?ファウラン程優秀だったら…」
「この世には男一人で超高位魔法の論理術式を完成させたみたいな化け物がいるんだゼ!天才クウロンにどれだけバカすか駄目ダシくらってもあきらめなかった奴がな…私だってって思うじゃないカ」
「え…それって?」
「少年…君のことネ、君の研究が私をこうしたンダ」
静かに、それでいて熱く自分の言葉を述べる。
あのファウランが僕のことを…て思うと顔が熱くなる。
ここまで言われては、もうこれ以上引き留められない。
「だから、今日は研究結果まとめたいからトレーニングには参加できそうにないネ…ゴメンネ」
「い、いや、僕も、その…ごめん…なさい?」
結局ファウランには勝てないなぁと思ってしまった。
顔が熱いままだ、何とかして話を変えてさっさと戻らないとこのことで一生からかわれてしまう。
「じゃあ、その…今日は来ないんだね、じゃあ今日は4人なんだ、、」
「いや、今日はタカタカもワシワシもいけないって言ってたネ、だから二人ヨ」
二人、二人か…、まあ昨日と同じ場所なら大丈夫だろう。
それよりも、早く戻らないと。
「そうなんだ分かった…サクヤにもそう伝えるよ、じゃあ僕は行くね」
「あ、少年ちょい待つネ!!」
急いで帰ろうとしている僕を引き留めるファウラン。やばい…顔が熱くなってるのばれたか?
「少年…ワシワシから伝言ね!、『この部族のNo.2のクラモトには気をつけろ』ってヨ」
「あ、そうなんだ!ありがとう!じゃあ僕は行くね」
「あ、少年!」
良かったばれてなかった。もうこれ以上は流石にやばい…と思って、扉を閉めてゆっくり帰ることにする。
顔を冷やすにも部屋に帰るまでに水場に寄らないといけないな…。
------------------------
今日の一コマ劇場
サクヤ(ん、ん、朝か…まだ眠いけどアルもう起きてるのか)
アルノー「つんつん…あはは全然起きない」
サクヤ(むぅ…好き勝手しちゃって、このままいきなり声出して驚かしちゃお!)
アルノー「起きてると、怒ったり、泣いたり、感情豊かで騒がしいのにな…」
サクヤ(好きなこと言っちゃって!イヒヒ早くアルの驚く顔見たいわ)
アルノー「でも、そういうところが可愛いんだよね…」
サクヤ(ふぇ?え、え、どういうこと?え、え、顔熱い!!?)
アルノー「治療もう少しだから…今日も頑張ろうね、また起こしに来るからね」
サクヤ(驚かし損ねたし、もう寝れないわよ!!)
このあとめちゃくちゃ捗ったらしいです。何かとは言いませんが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます