健全な治療

 

 純白のベットの上に純白の少女がうつぶせになって翼を広げている。

 足はだらんとして、顔も枕に埋めている。完全に警戒心ゼロの姿である。

 その姿は雪のようと形容してもいいほどで、触れるのもはばかられるほど美しい。

 

「あの~、本当にいいんですか?治療とかをしても…」

「何言ってんのよ、あんた以外に誰が治療するのよ!」


 そういう事ではなくて新参者のよその人にこれだけ無防備な姿をさらして、安全衛生上大丈夫なのかという話なのだが…。

 

「いや~僕部外者ですし…第三者とかいた方がいいんじゃないですかね?」

「はあ!?第三者なんて要らないわよ!!あたしがあんたに力で負けるとでも思ってるの!!?」

「ごめんなさい!!ごめんなさい!!そんなこと思ってないです」


「それに…あんたワシワシの毛布持ってたでしょ、ハーピィにとって毛布って自分の羽毛を集めて作る大事なものなのよ。それをあんたに渡すってことはよっぽど信頼してるってことだわ、だから警戒する必要もないってわけ」


 なるほどワシワシさん…そこまで考えてこの毛布を渡してくれたのか。しかし、この毛布一つでそこまで無防備になるとはよほどワシワシさんを信頼しているようだった。

 ならやらせてもらおうじゃないか!!


「それじゃお嬢様、患部を見ていきますね…」

「…サクヤ」

「え、なんて言いました?お嬢様?」

「だから、サクヤ…」

「え?<<さくや>>って昨日僕なんかしましたっけ?お嬢様?」


 昨日は自分の話をして、ごはん食べて…それでええと…。

 

「違うわよ!!あたしの名前よ!!サ・ク・ヤって呼びなさい!!」

「え~と、サクヤ様!これでいいでしょうか?」

「様も敬語もいらない!!自分の部下以外からそういう話し方されるのムズムズするのよ!!」


「あ~そういうことね、それじゃ治療を始めていくね、サクヤ…」


 そういうと「そうそう、初めからそうしてればいいのよ!」っていいながら枕に顔を埋めた。

 静かになったサクヤを前にして<<超高位治癒魔法ヒール>>を発動しながら患部を触って確認していく。

 治癒魔法を覚えた時に一緒に医学の勉強も少ししたけど、モンスター娘の治療なんか初めてだ。集中しなければならない。ベッドから伸ばされる翼を膝にのせてゆっくりと確認していく。

 

「ええと…ここが尺骨でこうつながってるから、骨に異常は無いみたいだね…。じゃあ、次は筋肉とか腱とかに触っていくから痛かったら言ってね」

「分かったわ…」


「ここはどう?」

「んく…い…痛い!!」

「じゃあ、こっちはどう?」

「ひくん!い…いたい…」


 どうやら、筋肉を傷めているようだった。筋肉はヒールが効きやすい部位であるため骨よりはましだが、それでも一日、二日はかかりそうな怪我だった。

 それを治療とは言うもののこんなに強く触ってしまって申し訳なく思う。

 

「ごめんなさい…もうちょっとゆっくり触るね」

「いいわよ、別に…」

「え?でもさっき痛いって…」

「いいって言ってんの!私はハーピィの戦士なの!こんな痛み耐えられるわ!!治療なんでしょ!痛くないと分からないでしょ!気にしないでもっと強くやんなさいよ!!」


 しかし、それは僕の杞憂だった。サクヤは痛みなんて気にしていない様子だ。こんな女気あふれる姿を見せられたら僕も応えるしかない。

 

「わかった!精一杯やるね!!」

「それでいいのよ…ああ、あと私に馬乗りになりなさい」

「は?」

 

 サクヤが真っ白い顔を赤くしながら意味わからないことを言ってくる。

 

「馬乗りってどういうこと?」

「普通のことよ、あんたも椅子に座ったままじゃ傷を見にくいでしょ」

「大丈夫だよ?全然見えるから…」

「じゃ…じゃあ、あれよ!ハーピィって背中に人を乗せると安心するのよ、だからさっさと乗りなさい」

「じゃあって…もしかして今考えた理由じゃない?」


「いいから、さっさと乗りなさいよ!!!」


 サクヤが顔を真っ赤にして怒ってくるので、渋々とベッドに上がり腰元にまたがる。苦しくないかな?大丈夫かな?という心配が沸く。

 

「大丈夫苦しくない?」

「いいわ…もう少し体重を乗せても…」

「え?」

「い、いや!なんでもないわ!気にしないで!」


 まあでも、確かにサクヤの言った通りこの体勢の方が患部の治療がやりやすい。

 それにしても、怪我の様子があまり芳しくないな。筋肉が傷ついて使わなかったせいで固くなっている。

 

「筋肉が固くなってるから…怪我が軽いところから揉みこんでいくね、痛いだろうけど我慢してね」


 固くなった筋肉をしっかり揉みこんでいく。こういうのは、手加減してやるとただ痛いだけになるのため、力の限り揉みこむ。特に、僕の力だと力強いハーピィの筋肉を柔らかくするのは本当に難しい事なので、力を込める。

 

「んしょ!んしょ!痛いだろうけど頑張ってね!」

「ひぐぅ…んくぅ…いたっ!」

「いしょ!よいしょっ…んしょ」

「んく…ん…あふぅ…はあぁん♡…あはぁん♡…」


 枕に埋もれたサクヤの口から苦悶の声が流れ出る。歴戦のハーピィでもかなり痛いのだろう。これ以上はサクヤの負担になるかもしれない。

 初日ならこんなものか、少し柔らかくなった手応えを感じてそう思う。

 

「今日はもうやめておく?初日だしヒールだけにしておこうか」

「はあ!?こんないいところで…じゃなくて初日から甘えたら治るものも治らないわ!続行よ!!」


 返ってきた言葉は<<続行>>。サクヤの回復への強い意志が感じられる。そうだな…僕も弱気になっていた。全力でやらないと。

 

「全力でやるから本当に無理だったらタップしてね」

「分かったから…早くやりなさいよ…」

「じゃあ行くね、うおりゃー!よいしょー!」


 力いっぱいに体重をかけて揉みこむ。あふれるサクヤの苦悶。


「んふぅ…いきぃ!?…いぃぃん♡」


 サクヤの声につい手を緩めそうになってしまうが、気を引き締めて力を入れなおす。。

 仕方のない事なんだ、サクヤがタップをするまで僕もやめるわけにはいかない。

 

「んきぃ…あふぅん……ねえ!お尻もたたいて!!…んく」

「え?」

「だから、痛い!…から♡…ぬくぅ…お尻もたたいて誤魔化して…んくぅ…って言ってるの!!!」


 よくわからない理論だが、頑張ってるサクヤのお願いだ。効かないわけがない、左手を後ろにして思いっきりお尻を叩く。

 スパァン!!スパァァン!と小気味いい音が響く。

 

「んほっぉお!!…にゅほお!!」

「ホントに大丈夫?…痛くない?」

「そう!それでいいの!あと、馬乗りのまま腰もふりなさい!背中にこすりつけるように!!」


 意味が分からないが、馬乗りになって、右手で翼を揉み、左手でお尻を叩き、精一杯腰を振った。

 

「んにょぉぉおおお!!!」


 サクヤの悲鳴?が響き渡る。これは僕の体力が尽きるまで行われた。

 

 

 ………

 

 ……

 


「ハァ…ハァ…今日はもう終わりにしようか」

「んひぃ…しょ…しょうね♡、これくらいにしちょいて…あげりゅわ」


 一日目の治療を終えて、患部を見るがかなり良くなっている。やっぱりなんだかんだ魔術ってすごいな。

 だが、それにでもめちゃくちゃ疲労がたまるものだ。体力的にもそうだが、魔力も切れかかっていてなかなかにつらい。


「ごめん…眠たいから少し寝させてもらうね…」

「そ、そうね…あたしを敷布団にしてゆっくり寝なさい…体重掛けてね」


 このまま、サクヤの背中に倒れこんだところで意識は途切れた。

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