荒野の迷い

 

 蒼髪に灰色のカチューシャ、真っ黒な鎧を着た少女は荒野を歩いていた。

 

「あの異国人少女…アルノー君をどこに連れて行ったんだ?馬車はこっちの方に来たって聞いたんだが…」


 街を出るときに、男性が馬車に乗って荒野の方面に出発したという情報は得られたのだがついぞその姿を見つけることはできていない。

 馬車の轍でも見つけることができれば簡単なのだが、それもない。

 

「このへんにある村に目撃情報とか聞いてみるか?いや…前の二の舞になる可能性があるなあ…」


 前に寄った村では魔物の被害に悩まされてたらしく、そこに寄ってしまった私に白羽の矢が立ったのであった。見捨てることもできずに、でかいイノシシの魔物を切ったのだが…そこで得られたアルノー君の情報はゼロ!!

 さらに、宴会だなんだと無駄に時間を食うだけに終わってしまった。

 

「くそ…アルノー君はどこに言ったんだ、この近くだと村よりもモンスター娘の集落の方が近いしな…まさかそんなところに行くわけもないし…」


 さっさと見つけて安全確認しないと、仕事にも戻れない。私がいなくてギルド本部の仕事が滞っている部分も多いだろう。帰れば絶対に大目玉だな…。

 しかしなぜ、仕事をほっぽり出してまでこんなところまで来ているのだろう?

 

 『なんでこんなにアルノー君の事が気にかかるんだろう?』疑問が渦巻く。

 

「いやいや…ただ私は冒険所組合をもっと良くしたいだけ…それにはアルノー君の力が必要なだけだ」


 自分の口の中で言い聞かせるように小さくつぶやく。

 それに私には婚約者がいるのだ―アーノルド・レシス君―私は彼に首ったけなのだ。

 この黒い鎧を着ている理由も『彼に染まり切って、他の者には染まらない』という強い意志を表したいからである。それに、彼への手紙に自分の夢をで書いたじゃないか。

 

「そうだ…彼に誓ったじゃないか…冒険者組合―ひいては女冒険者の待遇を上げるという夢を!!!」


 だから他の男にうつつを抜かすなんてことはあってはならないんだ。

 そう考えると途端に寂しくなってくる。理由はアーノルド・レシス君が失踪したことだ。久々に帰った実家で告げられた、悪魔の宣告。あの時は泡を吹いて倒れたものだ。

 それ以降から、ロスベリー家総出で探索しているが見つかることはない。そして、私自身はそれをほっぽり出してアルノー君を探していていいのだろうか。

 そんな感情を携えてながら荒野をとぼとぼと歩く。


「アルノー君どこにいるんだろうか…」


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 洞窟の中の大きな一室…豪奢なベッドの上で目を覚ます。そして、目を覚ました僕の真下にいるのは純白の少女―サクヤだ。

 

「ご、ごめん!サクヤ…寝ちゃってた…」

「すぅ…すぅ…」


 するとサクヤはうつぶせのまま静かな寝息を立てていた。枕との隙間に僅かに見える寝顔はとても清やかであった。

 そんな時に、扉の外から焦った声が聞こえる。

 

「アルノー君!!どこだ!!?アルノー君!!返事をしてくれ!!」


 その声を聞きサクヤが目をこすりながら起き上がろうとするが、僕が上に乗っかってるせいで全く動くことができていなかった。

 

「ああぁっ!ごめん!!今避けるから!!」

「…いいわよ別に…あなた疲れてたもの…」


 お嬢様が優しく声をかけてくれる。しかし、いつまでも背中にまたがっているわけにも行かない。翼を踏まない様にゆっくりとサクヤから降りてベッドに腰掛ける。

 その時にまた外から声が聞こえる。

 

「お嬢様!?お嬢様はいらっしゃいますか!?」

「なによ!!タカタカ!!朝からうるさいわね!!!」

「良かった…お嬢様はいらっしゃるんですね…それが前に医者として連れてきた少年が見つからないんですよ」

「ああ…それなら私の部屋の中にいるわ」


 その言葉を言った瞬間に、部屋の扉がバァーン!!と開かれる。そういえば、僕が入ってきた時に鍵を閉め忘れてたっけ?

 開かれた扉の先には涙目のタカタカさんがお肉を持って立っていた。

 

「お嬢様!!ついにアルノー君の治療を受けられたのですね!?…はっ!!、アルノー君とお嬢様が一緒のベッドに…大人になられたのですね…お嬢様…」


 初めはサクヤ扉を開いた喜びをかみしめていたが、途中からはその表情を自分の娘の成長を誇る母の表情になっていた。どうやらベッドに座る僕とサクヤを見て何か勘違いしたようだ。

 それに対してお嬢様は顔を真っ赤にして否定する。

 

「ば!ばかぁ!何勘違いしてるのよ!これは治療よ!その流れでこうなったのよ!」

「つ…つまり…優しく治療してくれるアルノ―君、いつしか惹かれていくお嬢様…そうして、大人になったお嬢様…そういう事ですね!?」


「ち…違うわよぉおおおお!!何もなかったの!!タカタカ!あんたがいると場が混乱するからご飯置いてさっさと仕事に戻りなさい!!!」


 ……

 

 …

 

 ニヤニヤしたタカタカさんを帰らせた僕たちは一緒にお昼ご飯のよくわからないお肉をつついていた。何のお肉か分からないがとてもおいしいお肉だ、さすが狩猟民族ハーピィのとってきたご飯なだけある。横を見れば、お嬢様もそのお肉をモグモグと食べていた。

 

「そういえばサクヤって僕が部屋の前にいる間のご飯ってどうしたの?」

「ああ…それはこの部屋にある保存食を食べていたのよ」、ほら…」


 そういうと、床の下にある蔵を開いて見せてくれた。中には干し肉や、塩漬け、乾燥木の実など所狭しと並んでいた。そうか…しっかり食べていたのか…良かった。

 

「だから引きこもってはいるけど、普通にご飯は食べてるわよ…モグモグ、このファジの実…美味しいわ」


 自慢げに保存食を食べて見せるサクヤだがその頬にはしっかりと食べかすがついていた。それを指で拭ってあげて、口に運ぶ。

 

「あはは、頬についてるよ…パクリ!確かに美味しいねこの木の実」


 その瞬間サクヤの真っ白い顔が真っ赤に変わっていき、口をぱくぱくとさせ手に持っていた木の実の残りをぽろっと落とす。

 

「あ、あんた!な…何してんのよ!!ばか!ばかぁ!!あんたがそんなんだからね!あたしも翼を怪我したんだからぁ!ばか!」

「ご…ごめん…まあまあ落ち着いて…」

「うるさいわよ!ばかぁ!!」


 ここからなだめるのに本当に苦労した…

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