第44話 敵機来襲
トライアドがマクティラ団の宇宙船に来てから変わったこと。それはエトピリカの部屋ができた事だ。以前の戦闘で死亡した者の部屋が空いたのだ。そこにエトピリカ達が転がり込んだ。人間一人とアンドロイド一体と宇宙船1隻?という変わった組み合わせが住人となった。
「宇宙船を手に入れても、結局はこの船で暮らすんだね」
メイデンは不満そうだった。あわよくばエトピリカと最小限の人数で暮らせるようになれるかもと考えていたのだ。
「僕だけで宇宙を旅できないよ。しばらくはここのお世話になると思う」
「キャプテン・エトピリカ。必要な時はご用命ください。何なりと対処致します」
「トライアドは昔のメイデンみたいだね。どこかお固い喋り方をしているや」
エトピリカは出会った頃のメイデンを思い出していた。今はエトピリカ向けに最適化されている。
「申し訳ございません。対話型プログラムに口調のパターンは用意されておりません」
万能宇宙船ではあったが、部分的な機能ではメイデンの側に軍配が上がる。
「私は対人コミュニケーションに重きを置いているからね。えっへん!」
メイデンは自慢げだった。対機械で自分が優れている時は誇示するように出来ていた。
「……キャプテン・エトピリカ。現在この星の領域全土に向けて、強制通信が発せられています。ご覧になりますか?」
トライアドがおかしなことを言っていた。
「なんだろう? 見たい!」
トライアドは指で四角く囲いを作りそれを広げると、モニターが展開された。そのモニターが映る。
「我々は惑星連合軍事組織。海賊達に告ぐ、直ちに投稿しろ。さもなくば、惑星タラッサの主要都市は全て爆撃する! 繰り返す……」
それは追手からの降伏勧告だった。どうやら向かう方向から目的地を割り出されていたらしい。それにしても、なりふり構わない手段に出ていた。
「これは……これが連合側のやり方なのか」
エトピリカは心の底が冷える思いだった。今までは軍は人々のためにあると思っていた。しかし、それがこんな真似をするとは思ってもいなかったのだ。
ぶつりと館内放送が入る。
「野郎ども、出港の準備をしな! ねぐらの星が軍の連中にバレてしまったよ! アタシらはもうこの星には戻れないだろう。腹をくくりな!」
マムの声だった。それは海賊達が安らぎの場を失ったことを意味する話だった。
「また、仕事をしなくちゃ! 僕は機関室に行ってくるよ!」
機械たちに見送られ、エトピリカは部屋を飛び出していった。
エトピリカが機関室にたどり着いたときにはすでに翁は来ていた。
「エトピリカ。わしらもついに根無し草となる時が来たようぢゃ。これからは過酷な旅になるわい」
「軍の奴ら、どうして一般市民を巻き込むんですか!?」
エトピリカは怒っていた。
「この惑星は軍事力を持たない中立の星。武力行使しようとも文句も言えないとタカをくくられたんぢゃ。貧困惑星の辛いとこぢゃのう」
翁の答えはエトピリカには信じられない言葉だった。
ゴゴウンと船体が揺れる。離陸したようだ。
「そんな横暴が許されるんですか!」
「惑星連合側も、所詮は地球帝国に取って代わって既得権益を得たいだけの強欲な連中。そんな輩に大義などはありはせん。だからわしらのようなアウトローが沢山世にはこびるのぢゃよ」
エトピリカは怒りに震えた。私欲のためにクーデターを起こそうとしている連中が許せなかった。地球帝国も圧政を強いる側だが、それに対抗するものも圧政を敷く者たちに変わりはないのだ。人々は何も救われない。支配者階級と非支配者階級の構造は変わらないのだ。それもこれも全ては宇宙開拓時代に遡る。乏しい資源でやり繰りをしなくてはいけなかった開拓者達は、厳格な管理社会を築いた。人は管理されて然るべきもの、と言う意識はこのときに生まれた。管理する側と管理される側の二分化された階層社会が形成された。管理される側は生存権すらも管理される事となる。管理する側はまた多彩に姿を変え、最後は軍事力を背景に持つ組織が管理する体制側へと変貌したのだ。
「エトピリカ。仕事開始ぢゃ。さぁ、ここの機関どもをあやすぞい!」
翁が腕まくりをして機械たちに取り付いた。エトピリカの戦いもまた始まった。
外の様子はわからない。ただひたすらに裏方としての職分を全うするだけ。
エトピリカもいつの間にか慣れてしまった。仕事が忙しく、外の状況に恐怖することはなくなったのだ。
「エトピリカ。そこのボルトを締め直しておくれ!」
「はい翁!」
エトピリカは逞しくも宇宙船の番人に育っていく。
再び館内放送。
「これよりアタシらは宇宙に出る。そこでは惑星連合の宇宙艦隊が待ち構えているだろう。戦ったら全滅必死だよ! とんずらする! 機関室。命運はお前たちに掛かっている。任せたよ!」
マムの話は絶望的な内容だった。追手は艦隊。戦えば確実に負ける。
だから機関を最大出力にして逃走するのだ。翁とエトピリカがマクティラ団全員の命を握っていた。
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